第14話 滅死の光

短剣で耳を切ることが最初は正直抵抗があったが、数を熟せていくうちに、その感覚はなくなった。正面から戦闘するのは抵抗が無いのに、モンスターであっても人型だから抵抗を感じたのだろうか、その俺の中で浮かんだ疑問は作業の中で完全に消えた。


「シウさん、これで全てね」


「はい。ありがとうございます」


「初めてにしては、上出来ね。これで冒険者としての第一歩は達成ね」


風が鳴る。いきなり突風が吹き抜けた。


「何?!」


アルが声を上げた瞬間だった。


「見つけた」


声がした方向を見たら上空に羽が生えた人型の何かがいた。モンスターだろうか? だが、会話が出来るからモンスターでは無い?


「誰だ!」


「はじめまして。忌み人よ。我の名はアポスタタエ。超越者よりの使者であり、処刑人である。執行する」


『了(リラ)』


不気味な音が天地に轟く。

直感であの羽が生えた人型は天使の一味だと理解した。しかも、かなり強い。


「シウさん、あれは何?! もしかして、天使?」


「話は後で。今はこの場から脱出します!!」


アルを抱えて全力で走った。光がこの森全体を包み込んでいる。いや、地平線の果てまで、この不気味な光が広がっているようにも見えた。青白くも黒くも白さに畏怖と恐怖が織り交ぜ合っているようなこの光がかなりヤバイと本能が告げる。


「逃避は不可」


「!!?」


遙か後方で見えなくなっていた筈の天使が目の前に瞬時に現れた。物理的な速度を超えてやがる。反射的に右手で殴った。左手にはアルさんが驚いた表情をしているが、今は取り合っている時間は秒も存在しない。この瞬間という刹那が命取りになることは確かだ。


ヴェルデル


光の壁に防がれた。かなり強めに殴ったが、強度は並のドラゴン以上だ。


「忌み人よ。抗うな」


石膏像よりも白い肌が不気味に感じる。


「お前!」


半透明な光の壁が俺の攻撃を全て防いだ。

アルが何か俺に言っているが、光の音で掻き消されて、互いの声が届かない状態。大地が捲り上がり、辺り一帯にあった森が消失していく。


一瞬、声が聞こえた。


「シウさん、私を置いて逃げて!」


アルの声だった。


「それは無理だ! アルを置いて逃げることは出来ない。決して!」


一秒にも満たないような時間が長く感じた。十割でアルはこの光には耐えられない。そう、彼女は言っているのだ。彼女の口からの声が光の音で掻き消されているが、微かに聞き取れた言葉だ。


俺の奥歯に自然と力が入っていた。


「忌み人に死をという褒美を」


天使が言う言葉が耳に入ってきた瞬間だった。視界が真っ白になった。両手で抱きかかえているアルが粉々に砕けて散っていく。


「シウさん、私はここまでよ。シウさん、逃げ....」


滅死褒美ヴァオード


天使の不気味な声が聞こえた時、俺の両手にいたアルはこの光に耐えられずに完全に消失した。さぞ、無念だろう。さぞ、悔しいだろう。


「貴様ァあああああ!!!!」


俺はこの異世界に来て初めて、ブチ切れた。

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神も魔王も勇者も想像できないぐらいの規模で遍く世界史上最強の存在になってしまったXの話 @mukaikai

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