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まだらな色の木のもとで、セーラー服をきた彼女が微笑んでいる。きたない木だ。ぼくは顔をしかめた。こんなきたないものは、彼女に不釣り合いだ。彼女に似合うのは、もっと無垢で、混じり気がなくて。


あぁ、そうだ。ぼくは彼女のもとへ駆け出した。なんだか、今ならぼくの手をとってくれるのではないかというような気がして手を伸ばす。

「きれいな桜の咲く場所を知ってるんだ。一緒に見に行こうよ」

彼女は微笑んだまま少し首を傾げ、動かない。

ふと風が吹いた。彼女の艶やかな黒髪がなびくと同時に、白い花があたりを舞う。


あのきたない木は、桜だった。

「きれいな桜の咲くとこって、ここのことでしょ?」と、おかしそうに彼女が笑う。よく見てみれば、マーブルのうちの薄いピンクは、確かにあの美しい桜の花であった。

程なくして、前のよりも強い風が吹きはじめる。桜吹雪。いつまで経っても風は止まらず、むしろますます強くなっていく。

きれいな花が散っていく。はじめははしゃいでいた彼女も、気づけば神妙な面持ちで蒼空と白い花を眺めている。美しい白くて細い腕が、袖からのぞいていた。


花の勢いが強まって、ピークを迎えて、あとは4、5の花びらがひらひらと舞うだけになる。

彼女がすたすたと、木の幹へむかって歩いていった。そして先ほどのように、また頬に微笑を浮かべて、ただ立っている。


「あ」

緑の葉が次々と枝の上で芽吹いていく。きれいな桜の咲く木は、きれいな桜が咲いていた、ただの木になった。


そして、純粋で優しくて、きれいだった中学生の女の子は___。


深夜2時。

呼吸が荒い。濡れた薄手の長袖パジャマが体に纏わりついていて、気分が悪い。けれど、こちらの桜は夢と違って、まだ散りきっていないのでよかった。そう思った。




その日、彼女はオーバードーズしようと風邪薬を大量に飲んで、死んだ。


ぼくが、あいかわらず馬鹿だな、と、安堵した。



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くるっていく 心沢 みうら @01_MIURA

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