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結局、ぼくから彼女に電話をすることはなかった。


「ごめん、ちょっと返信遅れた〜」。急にとんできた通知。

なんだ、大丈夫だった。彼女はまだぼくを忘れてなどいない。他の誰かを見つけていない。心の底から安堵した。


「病んでた笑」。続いて送られてきたそれは、彼女らしいあけすけな言葉。あぁ、ぼくは彼女のこういうところがすきなんだろうな、と思った。こういうことをはっきりと言えてしまうのがすきなのだ。もちろん、信頼している人との会話なのは前提条件だろうが。

今までも「病んでた」のではないのか、とか、あのアカウントの投稿のこと、とか。聞いてみようか迷ったが、やはりぼくは臆病者で、彼女のためにそれを聞く、もっと言えば止める、ということよりも、自分のランキングを守ることを優先してしまって。「全然大丈夫だよ、でももし俺にできることがあったら言ってね」と送って、アプリを閉じた。

ゴロゴロと雷が鳴っていたことに気がついた。

彼女が好いた男は、どんな口調で彼女とメッセージのやり取りをしていたのだろう。それを真似れば、ぼくも、あるいは。返信中、そんなことを考えてしまった自分がすこし気持ち悪い。


芯の芯の部分で、いつまでも純真な彼女。

枯れた桜も、ぼくのすきな桜に違いない。


それから、また元のように連絡を取り合うようになった。深夜に突如始まる通話の回数は減ったけれど。

しかし、元気になったというわけでは決してないようで、その間も彼女の赤色の投稿は続いていた。ぐちゃぐちゃに歪んだ彼女の左腕は、その綺麗な顔に、純真な性格に、あまりにも不釣り合いだった。彼女は、人にぶつけることしかできない、他のやり方を知らない不器用で純粋な少女ではなかっただろうか。

__これは彼女じゃない。

最近ときどき、そんなぞっとするような思いに蝕まれそうになる時がある。



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