墓の中は混んでいる
桶星 榮美OKEHOSIーEMI
第1話 墓は混んでる
江戸時代まで土葬が主流だった埋葬が
明治8年、政府により火葬が認可され
遺骨は一族の墓に埋葬され
個室だった墓はシュアハウスになった
すると、こんな事が起きるのです。
++++++++
明治11年没【男】
「そろそろ来おるな」
昭和3年没【男】
「そうですな、そろそろですな」
昭和7年没【男】
「楽しみだなぁ」
大正7年没【男】
「今回は旨い酒はあるだろうか」
昭和元年没【女】
「貴方は相変わらずに酒ですか」
大正2年没【女】
「嫁の分際で夫に向かって
その物言いはなんですか!」
昭和元年没【女】
「はぁ⁉死んで百年以上も経つのに
姑面は止めていただきたいですね」
大正2年没【女】
「何たる言い草か!嫁は嫁!
姑を敬うは嫁として当たり前のこと」
明治8年没【女】
「およしなさい。嫁同士がみっともない」
平成6年没【女】
「いや、もうそう言うの古いですよ」
明治8年没【女】
「古いとは何事ぞ!」
令和2年没【女】
「あ~うざい。
だから、この墓に入りたく無かったのよ」
平成28年没【男】
「おい、ご先祖様に失礼だろ」
令和2年没【女】
「あらっ私もご先祖様よ
てか、死んでまで亭主面しないでくれる」
昭和61年没【女】
「確かに、死んでまで家に縛られたく無い」
昭和18年没【女】
「わかる~縛られたく無いわよねぇ」
明治15年没【男】
「
昭和18年没【女】
「若くして死んだんです!」
昭和23年没【男】
「いやぁ27歳で死んだのだから
ただの行き遅れだっただろうが」
昭和18年没【女】
「兄さん、余計な一言!」
明治22年没【女】
「嘆かわしい、当家の娘が
嫁の貰い手が無いとは」
平成14年没【女】
「結婚するかしないかは
個人の自由であり権利です
女だからと嫁に行かなければとの考えは
差別に他なりません」
昭和18年没【女】
「さすが弁護士先生!」
明治11年没【男】
「弁護士先生も嫁に行っておらん」
平成14年没【女】
「ですから、個人の自由なんです!」
大正5年没【男児】
「負け惜しみか?」
平成14年没【女】
「はぁ⁉子供は黙ってなさい」
大正5年没【男児】
「確かに
お前よりも長く墓に居る年長者だ」
令和2年没【女】
「あ~ぁ、それって有り寄りの有りですね」
平成14年没【女】
「そう?」
昭和61年没【女】
「う~ん、そうかもねぇ」
明治11年没【男】
「五月蠅いわ、静かにせい!
昭和18年没【女】
「五月蠅いは爺い!」
明治11年没【男】
「せっ先祖に爺いとは・・・」
昭和38年没【男】
「まぁまぁ、みな漏れなく
死人なんですから穏やかに行きましょう」
大正5年没【男児】
「一族の面汚しの詐欺師は黙っておれ」
昭和38年没【男】
「酷い言い方だなぁ
私はちゃんと刑務所で刑に服して
罪は償いましたんで」
明治22年没【女】
「一族から罪人が出るとは嘆かわしい」
平成28年没【男】
「まぁもう過去の事ですし
今はこうして一つ墓の中で暮らす
家族なんですから仲良くしましょう」
令和2年没【女】
「うわぁ~家族だって、キモい」
昭和61年没【女】
「右に同じ~」
大正2年没【女】
「お前たちは全くもって
嫁としての自覚がない!」
平成14年没【女】
「ですから、嫁だからとか女だからとか
そんな事は関係無いんです」
昭和3年没【男】
「それにしても遅いな」
大正2年没【女】
「いま大事な話をしているんですから
邪魔しないでちょうだい!」
大正7年没【男】
「子孫の墓参りの方が大事だ!」
昭和元年没【女】
「貴方が大事なのは酒でしょ」
明治22年没【女】
「この際だから言わせてもらうが
嫁の分際で大口を叩くな!」
昭和61年没【女】
「自分も嫁のくせに」
昭和18年没【女】
「そうよね、嫁よねぇ」
明治8年没【女】
「嫁が五月蠅いわ!
一族の慣わしに従うが嫁のつとめ」
令和2年没【女】
「いやもう死んでるんだから
どうでもいいでしょ」
大正2年没【女】
「嫁は従うべきだ」
昭和元年没【女】
「そうだ!でも・・・
死んでまで婚家に縛られたく無い!」
平成14年没【女】
「がぁー!無意味な争い!皆、嫁でしょう!」
大正7年没【男】
「相変わらず女どもは騒がしい」
明治11年没【男】
「全くだ。女は愚かな者である」
平成14年没【女】
「アウト!その発言は時代錯誤な
女性蔑視です!」
墓中女亡者一同
『そうだ!』
明治43年没【男】
「うるしゃ~い!みな黙れぇ~!
来たじょ~来たじょ~」
令和2年没【女】
「相変わらず聞き取りにくい・・・」
昭和18年没【女】
「仕方ないわよ、101歳なんだから」
昭和61年没【女】
「明治43年で101歳って江戸時代生まれ
すごい長生きしたわよね
ところで何て言ったの?」
明治11年没【男】
「子孫達が来た、と言ったんだ」
墓中亡者一同
『おぉーー!来たー!』
大正7年没【男】
「見ろ、今回は酒が一升瓶だ!」
明治8年没【女】
「お供え物も沢山ありますよ」
大正2年没【女】
「まぁ久方ぶりに果物も」
大正5年没【男児】
「わぁ~饅頭もあるぅ」
平成28年没【男】
「こら明治43年、勝手に食うな!」
大正3年没【男】
「そうだぞ、爺いは前回も饅頭食ったろ」
昭和38年没【男】
「一人で一個食うな明治43年!」
昭和7年没【男】
「饅頭は四等分だ!」
大正5年没【男児】
「僕は子供だから丸々一個だ!」
平成14年没【女】
「こんな時だけ子供ぶるな大正5年!」
大正5年没【男児】
「え~ん、え~ん。
平成14年没【女】
「誰が小母さんだ!」
明治22年没【女】
「およし、みっともない!
それにしても今回は豪勢だこと」
大正2年没【女】
「そうですねぇ」
昭和3年没【男】
「先祖を敬う心が芽生えたのだろう」
昭和23年没【男】
「じつに感心ですなぁ」
明治15年没【男】
「褒めてやらねばなぁ」
大正2年没【女】
「そうですねぇ」
墓中全亡者満面の笑み
『あっはっはっはっ』
平成28年没【男】
「次回の彼岸も楽しみですね」
明治11年没【男】
「まったくじゃのぉ」
明治22年没【女】
「そうですわねぇフッフッ」
「今回は供え物が多いね」
「あぁ、墓じまいするからな」
「最後だもの奮発したわよぉ」
「これで二度と墓参りはしなくていい」
「助かるわぁ~」
「ご先祖様、どうぞお元気で」
「嫌だなぁ姉さん、墓に先祖が居るかよ
それに死人にお元気でって笑えるよ~」
「そうだけど、一応ね気持ちだけ」
「死んで墓に住み着く人間なんて
居るわけ無いですけどねぇ」
「そうよねぇ、住み着いてたら笑えるけど」
「という事で、ご先祖様方
ですから今回が最後の墓参りです」
「だから~住んで無いって」
「そうだよなぁ~アッハッハッハ」
『アッハッハッハ・・・・・』
「帰ろう」
「おう、旨い物を食いに行くか」
『賛成ー!』
墓中全亡者
『・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・はぁ⁉
・・・墓じまい!・・・・・・・』
墓じまいにより
子孫の墓参りは無くなり
一族亡者達による供え物争奪と
無意味な墓中紛争は幕を閉じたのであった
めでたしめでたし。
・・・・・・なのか?
————おしまい————
墓の中は混んでいる 桶星 榮美OKEHOSIーEMI @emisama224
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