第四十四話

 俺は迫ってくる剣が先程よりも少しだけ遅く感じた。そして、生まれて何度目かの走馬灯を見る。


 それは、俺が教えを乞い、俺に初めて上を見せ、俺がちっぽけな有象無象でしかない事を容赦なく叩きつけた、師との修行の日々だった。


 「おい、師はなんでそこまで強いんだよ。勝てる気が全然しないんだが」

 「そりゃ、私が全世界で最強だからだな。お前とは存在してきた時間が違うんだよ。そして死戦を潜り抜けた数も違う」

 「けっ、じゃあ俺はどうすればそれに近づける?」


 修行の合間の休憩中の時だ。師は俺の問いに不気味な笑みで答えた。


 「死ね。死に続けろ。そして、恐怖を無くし、感情を捨てろ。一瞬でいい。物言わぬ兵器となれ。そうすれば、お前でも少しは最強に近づけるはずだ」


 師は会った頃から不思議な人だった。最近まで存在すら忘れていたのは勿論、技がおかしかった。木剣を軽く振っただけで、海と天を同時に割るってどう考えてもイカれてる。


 当時、何故疑問に思わなかったのか謎だ。無人島で偶々出会い、流れで武術を学び圧倒され、俺の憧れとなったあの人。いや、そもそも人なのか?


 「そして、特別にお前に我が剣を教えてやろう。使えるかは別だが」


 そこで、走馬灯は終わった。剣が迫ってくる現実に戻された。何故だろうか?先程まで恐怖を感じていたのに、今では他人事のように思える。


 「なに⁉︎」


 気づけば体が勝手に動いていた。迫ってきている剣を黒葬姫で受け流しながら後退する。アビスは驚きの声を上げながらも追撃を入れたがそれも受け流し反撃の一撃をいれた。それは先程とは威力は桁違いでやっと鎧に掠り傷とギリギリ言える傷を付けることに成功した。


 「気配が変わっただと。・・・それにさっきの動きはあの方の」


 俺はその後も何度も攻撃をしたが、アビスはその殆どを受け流し更に速い剣速で上段から攻撃をしてきた。受け切れないと判断したのか俺は即座に納刀し、師から教わった技の一つを使用する。


 「『殺戮剣 三式 愚像千破』」


 アビスの剣と俺の剣がぶつかり合い、一瞬だけの鍔迫り合いの末、黒葬姫が粉々に砕け散り肩から斬られた。


 「く、そが・・・」

 「まさか・・・」


 これですら足りないのか。傷口、そして身体中の穴から血が大量に吹き出し、仰向けに倒れた。痛みは感じない。だが、身体中の骨が砕け散りあらゆる内臓が破裂または破損しているのは分かった。


 ゲームのはずだというのに本当に死んでしまう気がする。少しずつ意識が朦朧としてきた。・・・あぁ、ここで終わ・・・


 「さっさと起きろ人間」

 「は?・・・なん、だ、これ?生きてる⁉︎」

 「うむ。肉体は問題無さそうだな。使用している肉体が仮の物で良かったな。危うく死ぬどころか消滅するところだったぞ。時間停止を使用した蘇生の準備までしてしまった」


 急に意識がはっきりして俺は驚き、すぐにアビスの顔?を見た。先程まで俺を殺そうとしていたのに何のつもりだ?俺は立ち上がり、アビスから慌てて距離を取る。


 「何のつもりだ?」

 「先程のは済まぬな。まさか主の知り合いとは思わず。本当に済まぬ」


 そう言ってアビスは軽く頭を下げ謝ってきた。まだ困惑する俺を見てアビスは兜で表情は分からないが申し訳なさそうに話し始めた。


 「我はこの仮の実験基地の廃棄をしに来たところにお前達が来たのだ。ただの侵入者にしてはしぶといと思い、制御室で待機していたのだよ。案の定神のような存在を感知したので排除しようとしたが、まさか主の知り合いに会うとは・・・主には困ったものだ」


 主という奴に心当たりはないが、少なくとも敵ではないということか?あそこまでボコボコにされると一周回って何も感じないな。そもそも誇示できる程のプライドやら誇りやらなんて持ち合わせていないが。


 「それと、あと数時間後にここは廃棄される。まぁ、分かりやすく言えばこの施設は自爆する。それも辺り一帯を焦土にする程の威力を誇る」

 「は?なんでそんな事を」

 「この世界の神々から施設の存在を隠すのと神々の興味をそらす意図がある。こんな事を話す理由はただあの謝礼だ。周りから人を遠ざける為に実験で生まれた比較的強い魔物を適当に放ったのが駄目だったな」


 アビスは余裕のある口調で話しているが、ここが爆発するって大丈夫なのか?今からここから出ても逃げれるか?いや、コイツなら爆発に巻き込まれても死なないか。


 「そろそろそこの小娘も起きる頃合いだろう。ついでだ、爆発の範囲外まで運んでやる。場所の希望はあるか?」

 「なら貿易都市エラルカに行けるか?そこに仲間がいる」

 「そこまでなら大丈夫だ。出来れば他の者にこの事は秘密にして欲しい。強要はせん」

 「分かった。この事は秘密にする。一応助けられたからな」


 アビスの提案というか、頼みを承諾して俺達はアビスに転移と思われる魔法でエラルカの近くに送ってもらった。外はすでに朝日が登るところであり、ラカンは転移が終わった後に起きた。とてつもない恐怖のせいか記憶が一部曖昧になっているようだった。それだけ恐ろしかったのだろう。


 「見えてきたぞ。エラルカだ」

 「ふぇ〜。や、やっとだ」


 ラカンは恐怖が抜け切っていないのか道中はかなり足がふらついていた。かく言う俺も、かなり疲れていて、歩くだけで精一杯だったのだが。


 検門を無事抜け、冒険者ギルドに報告を行って俺とラカンは解散した。ラカンはこれから更に強くなる為、武者修行の旅をするそうだ。幾つかためになるアドバイスを礼替わりにしておいた。戦闘センスは高いと思うので大丈夫だろう。


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 作者です。最近、創作意欲が別の方に向いてしまっていて筆があまり進みません。なので打ち切りにしたいと思います。

 勝手で申し訳ないと思っています。気が向いたら少しでも話を投稿するつもりです。本当にすみません。

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