第15話

「もう少しお友達ごっこをしていたかったんだけどな」


俺は呟いた。


せっかく見つけた主人公っぽい正統派の勇者様。


もう少しお仲間ごっこをしたかった。


できれば数年くらいの長い時間をかけて。


それで裏切られた時の顔を見たかったのだが、仕方ない。


だが、絆というのは時間だけで育まれるものではないらしい。


「嘘だと言ってくれよアノン」


目が泳ぐアドニス。


焦点が定まっていない。


相当焦っているのだろう。


「君のことずっと友達だと思っていたのに」


「……」


俺は裏切り者っぽく沈黙を選んだ。

多くは語らない。


それが『あのお方』スタイル。


「無駄ですよアドニス。このお方こそあのお方!我らの総統!司令塔!世界の悪!」


アドニスが叫んだ。


「だいたい蜘蛛の巣は俺の組織だ!仮にこいつが『あのお方』だとしていったいいつ接点が?!」


俺は口を開いた。


「ノアと名乗れば思い出すかな?」


「そ、その名前は……僕が少し前に助けた女の子の名前……」


「君が【蜘蛛の巣】と繋がってるのは分かっていたからさ。案内してもらったよ」


ガッ。


俺はリーダーの頭を掴んだ。


「な、なにをなさるおつもりですか?」


ミシミシミシミシミシミシ。


「ぐぎゃぁあぁぁぁ、!!力をお抜き下さい我らがぁぁああ」


バキャッ!


頭を粉砕した。


リーダーの体は崩れ落ちた。


「ひ、ひでぇ、仲間じゃねぇのかよ」


「俺に仲間はいない」


近くにあった椅子に座った。


「俺をここに連れてきた理由はなんだ?」


「特に無い」


「はっ?」


キョトンとしたアドニス。


「いや、理由くらいあるだろ?勇者の剣の破壊とか俺の殺害とか」


「そういうのはない」


「お前は何がしたいんだ?」


「黒幕ムーブ、それだけだ。深いことは考えていない」


「なら僕を殺す必要なんかもないよな?だよな?」


聞いてくるアドニス。


俺は答えた。


「いや、俺の秘密を知った君には死んでもらうよ」


「考え直してくれないか?」


「無理だよ」


「どうして?」


俺は人差し指をアドニスに向けた。


「もう、死んでるから」


俺がそう言った瞬間だった。


「かはっ!」


口から血を吐き出したアドニス。


床に倒れたアドニス。


「なぜ、僕が攻撃を……いったいいつ?」


「俺の攻撃が早すぎて世界が追いついていない、だから実際に死ぬまでに時間がかかるんだ」


「……」


口から血を流して絶命したアドニス。


俺は勇者の剣を回収した。


【瞬間移動:勇者の剣・自宅へ】


勇者の剣を送る。


それから俺は落とし穴へと飛び込んだ。


この落とし穴も当然俺が作らせたものだ。


割と深めだが、落ちても怪我がしないような作りになっている。


トッ。


下まで降りるとすぐそこにリーゼロッテ達がいた。


「アノンくん……?」


話しかけてきたリーゼロッテ。


その顔はすぐに曇った。


「違う。この人は……あのお方だ」


シエルの言葉。


リーゼロッテが聞いてきた。


「アドニスとアノンくんは、見ませんでしたか?」

「ひとりは死んでいた。そして、もうひとりは勇者の剣を抱えて逃げていった」


コツコツコツコツ。


俺は落とし穴の先に続いていた道を歩いていく。


「この先からは危険なにおいがしますよ、あのお方さん」


「……」


なにも答えずに進んで行った。


やがて巨大な地下空間が現れた。


「なんだ、この空間は。何か知っているなら教えて欲しい、あのお方」


シエルの質問。


俺は地下空間の下に空いた穴を指さした。

一番底では邪神竜という竜がとぐろを巻いて眠っている。


「あれが邪神竜だ。これより蘇り地表に放たれることになる」


「なっ。そんなことになってしまえば」


「あぁ。この世界は崩壊してしまうかもしれない。だから止めに来た」


その時だった。


パチッ。


邪神竜が目を覚ます。


「ギャォォォォォォォォォォォ!!!」


雄叫びを上げる。


俺と邪神竜の目が合った。


ブン!


しっぽによる突きを放ってきた。


俺はそれを小指一本で止めた。


「ギャオッ?!」


「こんなものか?邪神竜よ」


「ギャォォォォォォォォォォォ!!!」


レベル差を感じ取ったのか邪神竜は天井に向かってブレスを放った。


ドカン!


ガラガラガラガラ。


天井が崩れてきた。


バサッ!バサッ!


邪神竜は逃げようとしていた。


上空に飛び上がった瞬間……俺は天に向けて右手を上げた。


「邪神竜よ、我が力の片鱗を見せよう」


バサッ!バサッ!


必死に逃げようとしている邪神竜。


俺は自分の魔法で効果が出るリストの更新を行う。


【除外設定・リーゼロッテ、シエル、マリア】


それから魔法名を呟いた。


「【ルナティック・レイ】」


ピガァァァァァアァァァアァァァアァァア!!!!!


月から光線が放たれる。


1本の細い月の光は邪神竜の右羽根を焼き尽くす。


「ギャォォォォォォォォォォォ!!!!」


邪神竜は地の底へ堕ちていく。


ドサッ。


落下してもなお起き上がろうとする。


「邪神竜はまだ生きていますよ?このままでは」


「問題ない。今の一撃は奴から飛行能力を奪うためだけのものに過ぎん」


「じゃあ、まだ何か技があるんですね?」


リーゼロッテは空を見上げた。


「あれ?隕石?」


グオォォォォォォォォォォォォ!!、、


隕石が落下してきて邪神竜の腹に当たる。


苦しそうに隕石の下でもがいている邪神竜。


トドメをさしてやろう。


ニヤリ。

俺は仮面の下で口を歪め呟いた。


「スーパー……」


キィィィィィィィィィィィィィィィィン!!!!


隕石に力が集まっていく。


光る。光る。光る光る光る光る光る光る光る光る光る光る。


とても目を開けていられないくらいの光を放った時。


「​───────​───ノヴァ」


爆発した。


ブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン。


邪神竜は一瞬にして灰となり俺の周りの地面も消滅していった。




この日、『あのお方』の存在は多くの人々の中に明確に刻み込まれた。


誰も『あのお方』の存在を否定しなくなった。

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世界最強になったので【あのお方】と呼ばれる黒幕になる~2度目の人生は異世界で、全人類が恐れるような黒幕になるために暗躍することにした にこん @nicon

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