まず知ることから始まるストーリー〜脳筋に襲い掛かる魔物(睡魔)〜

鍛錬を始めてから、早1ヶ月。

持ち前の真面目さ(もしくは思い込みの激しさ)と忍耐力(もしくは思考停止で継続できる脳筋力)と精神力(もしくは王道斜め上のイメチェン)によって着々と体力をつけていた。


野山(昼夜問わなかったため本人の知らぬままうっかり怪談になった)に街中(イメチェンの一環)、場合によっては川の中(メダカの学校っていうし大丈夫なんじゃね?という誰に説明しても理解されない謎理論)まで走り回り、足腰の鍛錬を行い、疲れたタイミングで筋トレし、基礎体力作りに終始した1ヶ月だった。


そして体力づくり以外でもう一つ始めたことがある。

それが魔物についての情報収集だ。


魔物についてはふんわり知っている。

しかし、それは最小限の一般常識としてである。その中に魔物がどうやって人間を攻撃するのかや、どのような撃退方法を取っているのかの情報がない。


基礎体力をつけたところで実践訓練を開始しようと飛び道具がいいのか、近接戦の方がいいのか、必殺技はやっぱり派手でかっこいい名前を叫びながらがいいとか、武具にもこだわって全国のチルドレンたちがこぞって真似するデカい石がついたやつがいいとか、服装もトレードマークになるようなちょっと被らないやつがいいなとか、余計なことを含めてめずらしく数分思案した後、ペスカはピタリと動きを止めてしまうのであった。

(そういえば私、魔物のこと何も知らなくね?)


今更気づいたのだが、以前殺されたのは死角からだったため、ペスカは魔物を見ていない。本当に今更としか言いようがなく愕然とする。

必殺技の一万歩以上前での問題であった。


そんなわけで、魔物に対する有効打を見つけるため、図書館に通い始めたのだが。


(うおおお、魔物めえ・・・)

今世紀最大の敵にぶつかっていたのである。


木造建築のしっとりとした空気を身にまとう図書館は居心地がよく、ペスカのお気に入りの場所であった。そして居心地が良すぎるのが問題であった。


(お陰様で今日もぐっすりだ!!!最高!!!)


体力づくりについては1ヶ月で経過は上々。

反対に読書については一週間で成果は皆無である。いや、正確には快眠という勉学に相応しくないが健康的な結果はついてきた。


ペスカは勉強を始めると、なぜか部屋が綺麗になっているタイプであった。勉強を始めた瞬間になぜか定位置にない服やかばん、本の背丈がバラバラな本棚が存在感を主張してくる現象にいい加減名前はつかないだろうかと常々思っている。


図書館の掃除は流石にしないものの、掃除ができない状態では途端に意識が消失するらしかった。


「まだその本読んでんの?」

ヤケクソで快眠を喜ぶペスカの背後から呆れたような声がかかる。


「まだ5ページしか読んでない」

「また5ページで挫折したんか・・・」


呆れた声の主はカーネ。ペスカの幼馴染である。

彼は、読み終わったであろう本を本棚に戻しながらも呆れ声を続ける。


「本が苦手なんだったら、無理して読まなくてもいいのに。何も本だけが情報収集じゃないでしょ」

「今のところ本が一番いいんだよう・・・」


手段があるなら模索している。

しかし、魔物の話題になると世間ではタブーのような扱いになっており、一般常識以上の知識を持とうとすることがよしとされない風潮にあるようだ。

養父母に聞いても「そんなことは何でもいいから休みなさい」と、1ヶ月ほどで頭がおかしくなりっぱなしの養女に「疲れているんだから」とそばでポンポンされて寝かしつけられてしまうのだった。もう15なのに。


お陰様で昼も夜もぐっすりでお肌の調子が良い。


「第一何で急に魔物のことが知りたい、だなんて」


少し声を抑えているもののカーネは嫌そうなものを見るように眉を顰めていた。


「だって・・・」

「でも、もだってもないよ。大人がダメっていうものはそれなりに理由があるんだ。もう調べるのもやめておきなよ」

「カーネは大人だねえ」

「ペスカが子供すぎるんだよ、大人の事情で正直に言えないけど、その状態が正しいってこともあるんだから」

「・・・」

「そもそも急にそんなに躍起になって調べ物なんてどうしたのさ」


うーん、と凝り固まった体を伸ばしながら、彼の問いへの返答を考える。

「世界を変えたいって思っちゃったんだよね」


カーネは、虚を突かれたようにパチリと瞬きした。


「なんで世界を変えたいの?」


「このまま生きていたら、きっと死ぬ時後悔すると思ったから」

思ったから(実体験)である。

そしてどういう道理かわからないが、時間が巻き戻った。そんな状態で同じような生き方をしていたら、ほんまもんのあほである。

ちょうど頭おかしい行動もしたこともその決断に拍車をかけたが、仮に奇行がなくても同じ生き方はしていないだろう。


「ねえ、カーネ」

そういって可能な限りにっこり笑う。穏やかな、優しげな笑顔を作ると頬の内側がピクピクした。あと数秒維持したら顔の筋肉が攣るだろう。それでも可能な限りの笑顔をキープする。


「・・・」


「一緒にやろう」

生き方は変えた。行動指針も変えた。

そして思った。使えるものは何でも使ってやろうと。立ってる養父母はこき使うし、猫の手もバンバン借りるし、サブスクでは常に元を取るのである。

(ここで声をかけたのが運の尽きだったな!!!)


カーネは勉強ができた。インプットが早く、情報を落とし込む能力が高い。持ち前の頭の回転の速さから、交渉能力にも長けているし、あほにもわかるように説明できる解説役としても有能だ。

情報の取りまとめだって得意だし、自分がやるより遥かに労力が少ないはずだ。

(さあ、カーネよ、私の元であくせく働いて、世界の覇者になる計画に貢献するのだ!!!)


「カーネにだって」

「・・・」

「行きたい場所があるはずだよ」

知らんけど。

黙りこくってしまったカーネにペスカは言葉を間違えたかと焦る。しかし、引いては負けだ。ここは適当でも何でも畳み掛ける。


「このままでいいなんて思ってないんじゃない?」

「・・・」


全然知らんけど。このままでいいと思ってるかどうかなんて本音はどうでもいいけど。

それっぽい言葉を並べる。そんな感じで仲間加入するケースって多いやん????多分ソースはジャ○プ。


(頼む頼む頼む!!!!これ以上お肌がプルップルになると発光してしまう!!!美しくなりすぎて覇者が副業になってしまう!!!)


「・・・ペスカは」

マリアナ海溝から鉄アレイを掬い上げるような重い沈黙の中、口を開いたのはカーネだった。


「本当に世界が変えられると思ってるの?」

「思ってるよ」

即答する。


「カーネがいてくれるなら、私は何でもできる」

(知らんけど!!!!)


「・・・」

「・・・」


少しの沈黙の後、カーネは白旗を上げた。

やれやれと言いたげなため息を吐くと、ペスカの手元にあった本を数冊取り上げる。


「明日にはある程度まとめられると思うから」

「ありがとう!!!!」


ペスカwin

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いい子にしてたら殺されたのでスイーツで仲間を集めてこの世の支配者になろうと思います れむ @remy0420

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