偽名を貫くアリオーシュとその師匠クロムウェルとが師弟の仲として修行の旅に出る物語。
彼女はかつて民に反逆されたカヴォルスト王国第三王女。家を隠すために偽名を貫き、7つの弟を生贄に捧げ生き長られた過去。陽暴症という陽光を浴びると苦痛を生じ、陽光を嫌う特性を併せ持つのだが、過去と何か関係があるのだろうか?
その師匠であるクロムウェル。口が達者で少々歪んだ王女に手を焼きながら師匠としての立場で丸く収めつつ、彼女との心の距離が近づいていく展開も見逃せません。
とにかくバトルシーンが秀逸で、圧巻の語彙力と描写力とがこれを支え、硬質な文体と臨場感あふれる精緻としての筆力が今を、世界を、そして読んでいる私たち迎えます。
いくつもの謎を引っ提げ、想像が膨らむその先を見届けたくなる、ミステリアスで壮大なファンタジー小説です。
主人公の元王女は何もかもが嫌いだ。
自分を追い出した祖国も嫌いだし、そんな事をされた自分も嫌いだし、そんな事をした国民も嫌い、とにかく世界の全てが嫌い。
だけど一人だけ信頼している相手がいる。
国を追われて以来、自分を守り続けてくれる元騎士である師匠の男だ。
二人は放浪の旅の途中で困窮した村を訪れることになるが、その村はとある大問題を抱えていて――。
見所はやはり、主人公の元王女と師匠の元騎士の関係性ですね。
この世に絶望した系女子な主人公が、大人の男な師匠に見守られながら成長していく物語なんですが。
ラブラブな恋人とは違うんですよね。
言い争いになれば、感情丸出しで師匠に言葉をぶつける主人公に対して、師匠はなんなく受け流しつつも、気遣ってやる優しさをチラリと見せる、みたいな。
なので、全てが嫌いでツンツンしっぱなしの主人公も、師匠にだけはちょっぴり心を開いちゃうわけです。
兄妹のような、あるいは戦友のような微妙な距離感なのが尊い感じですねえ。
もう一つの見所は、血まみれな泥臭いバトル。
この作者さんの十八番でもあるんですが、バトルがとにかく血なまぐさい。
女の子主人公なのに、バトルシーンに可憐さなんてゼロ。
格好良いというよりも、生々しい、泥臭い、という感想が先にくる。
でもこれが、『この世の全てを憎んでる主人公』にめっちゃマッチしてるんですよ。
まるでそんな憎悪を敵にぶつけるがごとく、戦うからです。
血なまぐさい戦場は、彼女の抱く世界観そのものと言えるかもしれません。
そう、彼女にとってこの世界とは、醜い肉塊同士が相争う地獄でしかないのです。
そんな彼女が、人々の善意に触れてどう変わっていくのか?
ぜひ、皆様の目でお確かめください。