第2話 発端
“ 時は桜散る弥生、刻は黄昏。目指すは「彼」の住まう居宅。ニンニク畑の悪臭に思わず鼻をつまんでしまいたくなる。銀の弾丸を発射する銃があるとも思えない。ましてこの日本の過疎中の過疎地といえる村に、十字架が立っているとは思えない。だが私は驚いた。「彼」の家に近づいた時、その家の底を覆うように結界らしき魔法陣が見えたのだ。十中八九、祝別された家屋だろう。「彼」も、私と付き合い始めたころ、自らをクリスチャンだと言っていた。これでは吸血鬼としての行為がうまくいかない。
気を取り直して私は「彼」にライソを送ってみる。だが返事は単調なものだった。
「夜近くは
「彼」は私が生来のヴァンパイアであるとは知らない。だが、誘い出すのも容易ではない。それでも私には吸わねばならない血というものがある。一族の決定を確固たるものにするために……幾千年の永劫を終えるために。しかし犠牲もある。私が血を吸えば、「彼」もまた吸血をする身となってしまうからだ。そして負うことになる。消えることのない命というものを。
我々吸血族の研究施設でのDNA鑑定の結果、「彼」の血には、永遠性を破棄させる、もとい「死ぬことを可能とする」組織が組み込まれていることがわかった。これにより、望む者には安楽死が与えられる薬が発明されることとなったのだ。特に、厭世的な考えの、ヴァンパイアとして生まれたヴァンパイアや、生きることに飽いた、噛まれて「転じた」ヴァンパイアには重宝されるだろう。無論、常人に悪用されれば、狩られるヴァンパイアの数が増えてしまうだけだ。これが一般人の手に渡るととんでもない事になる。
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