第3話 決意
令嬢である私は、急遽設けられた決議の場からハイヒールの音を小高くたてながら後にしたのだが、施設に戻らねば私のヴァンパイアとしての命 – 定期的に薬を打つというものだ – が絶たれ、自死してしまうことを私は知っている。また、彼らもそれを解っているので、あえて執拗には追ってこない。現に今、私の後を何食わぬ顔でストーキングしている刑事も、どうせ私が令嬢という身分で、しかるべき時に確保できれば人事査定の折に評価されると踏んでいるだけであろう。今までもそうだった。会議のたびに私は荒れ、しばらくして戻ってきたときに聞こえてくる声は、私亡き後の莫大な財産の分配、お定まりの国連ヴァンパイア評議会へのしょうもない報告といった些末な事柄ばかりだった。誰もが自らの保身を欲していることは明白だった。私ももちろんそんな戯言に付き合っている暇はない。
もどかしい。自分を救いたいが、「彼」も救いたい。AVS,もといアンチヴァンパイアソサエティ – いわゆるヴァンパイア狩りの公務員である – の一構成員である青年の余命は後三ヶ月だという。私の体液を混ぜれば、彼は生きる。病苦からも完全に解放される。だが、私は代わりに死ぬ運命を負うことになる。この二率相反を解決してくれる第三の手段はないのだろうか。
これまで何人の男性に恋をしてきただろう。何百年と、恋愛という刹那的な楽しみに耽ってきただろう。何度、別れを経験したことだろう。私はそういった悩みから、ついにある日、家族のいる前でこう宣言したのだ。
「私はヴァンパイアであることをやめます」
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