第22話 「フジシロ屋、出発!」

 アバランチに手柄を売り渡したことで、俺たちは一気に身軽になった。

 細々こまごまとした物資の補給なんかを済ませれば、もうこの星系にいる理由はなかった。


「さすがにどの惑星にもまったく降りずに終わるとは思わなかったけどな」

「宇宙港は寄りましたし、いいじゃないですか」

「……観光すらしてないけどな。さて、これからどこに行くか」


 わざわざ星系から離れるのには訳がある。

 俺たちが暴れすぎたせいで宇宙海賊が星系からほぼいなくなってしまったのだ。


「とりあえず、マスターがストレス発散できるよう宇宙海賊が存在している宙域が良いですね。撃ち放題な宙域を探しましょう」

「こらこら。人を何だと思ってるんだ。宇宙海賊狩りは良識ある宇宙船乗りの義務だからやってるだけだぞ」

「エッ!? タツヤさんは宇宙海賊狩りが趣味なんじゃないんですか?」

「ニアまで……!」

「謎の新人傭兵が単機で宇宙海賊を絶滅させようとしてるって噂になってる」

「マジか……」

「ちなみに二つ名は”殲滅鬼”と”死神”」


 リーシア曰く、誤解はすでに星系全体に広まっているらしい。

 二つ名が物騒すぎるだろ。


 まったく。

 宇宙海賊狩りは楽しいとか楽しくないとかじゃない。

 全人類の義務として撃墜しているのだ。これを怠るといつか被害を被る善良な人たちが現れる。それを未然に防いでいるだけだ。

 その過程で楽しんでいるとかそういうのはまったく関係がないのだ。


 時空間に干渉する遺物探しと行きたいところだが、ヒントすらないのが現状だ。

 適当に宇宙を彷徨さまよい、情報収集するしかないだろう。


「次は観光できそうな惑星があるところに行ってみるか」

「良いですね!」

「マスター、慰安という意味では先史文明時代から温泉という文化がとうとばれています」

「温泉か……それも良いな」


 呟いた俺の眼前に、リーシアがにゅっと現れた。


「温泉なら、ラーヴァイル星系がおすすめ」

「近いのか?」

亜空間航行ハイパードライブで二か月」


 超重力航行でさっさと移動したくなるくらいの長旅だ。

 でもまぁ、当てや予定があるわけじゃない。

 ここから離れればニアも切り替えやすくなるだろうし、宇宙海賊たちもわらわら湧いていることだろう。


 ちなみにアッサリ溶け込んでいるリーシアだが、未だに目的は不明だ。「目的地が近づいたら言う」とのことだったので、どこかに移動したいか、もしくは目的地で頼みたいことがあるかの二択だろう。


 妙に思わせぶりというか、隠し事だらけなのが気になる。

 でもまぁ、ツバメ曰く「敵意はない」とのことだし、嘘発見器にも反応はないのでとりあえずは様子見することにした。


「んじゃ、ラーヴァイル星系に行くとするか」

「あっ、タツヤさん! レーダーに反応がありました。船籍不明の戦艦、近づいてきています!」

「モニターに回せ……おおっ、まだ生き残ってたのか絶滅危惧種うちゅうかいぞく!」

「宇宙海賊の癖に、この宙域でフジシロ屋さんを知らないのは致命的……今日で終わる命だけど」


 行きがけの駄賃だ。

 一匹残らず殲滅していこう。


『ウワーッ! 助けてくれェ!』

『何だあの動きは!?』

『ああ……神様……!!』

『悪夢だ……! なんだあの化け物は!?』

『し、死にたくねぇ! 死にたくねぇぇぇ!』

『夢なら覚めてくれ……!』


 ハッキングした敵艦同士の通信は阿鼻叫喚あびきょうかんの地獄絵図になっていた。


「はははっ! 暇つぶしにもならないぞ!」

「……タツヤさん、楽しんでますよね?」

「楽しんでる。さすがは”死神”」

「マスターが楽しそうで何よりです」


 いやいや、義務だって。


 最後の宇宙海賊狩りで賞金も入ったので、温泉地ではプチ贅沢をすることにしよう。


「それじゃあ行くか。目標、ラーヴァイル星系のどこか。良い感じな温泉!」

「ふふっ。ずいぶん適当ですね」


 ニアに笑われてしまった。

 リーシアはもともと表情の変化が薄目で特に反応なし。

 最後にツバメが自信満々にうなずいた。


「御安心ください。スワローテイル号のサポートがあれば、何も問題はございません」


 頼もしい限りだ。

 と言っても、時間的な制約なんてないので、迷ったら迷ったで構わない。

 俺はもう社畜なんかじゃないんだから。

 会社に捨てられ、でもスワローテイル号を手に入れて自由気ままな傭兵になったなんて、昔の自分に言っても信じないだろうな。

 ましてや自分が社長でスタッフ三人は美少女揃いとか言われたら、間違いなく脳の病院を勧めるところだ。


 未来は何があるか分からない。

 リーシアも謎だらけだし、何かに巻き込まれる気がしてならない。

 ”六芒ノヘキサグラム・ネスト”の連中ともはっきり敵対してしまった。


 でもまぁ、きっと悪いことばかりじゃない。

 皆を見ていると、自然とそう思えた。


「スワローテイル号――発進!」


 俺たちを乗せた最強の古代戦艦が、新たなる星に向けて出発した。




★あとがき★

ここまで読んで下さり本当にありがとうございます。

作者の吉武止少よしたけあるくです。名前の漢字と読み方が一致してねぇよ、と思われた方は縦に書いて合体させてみてください。とまぁ無駄話はここまでにして、本題をば。

本作は「第六回ドラゴンノベルス小説コンテスト」にて、中編部門にエントリーしています。書きたいことはたくさんあるんですが、要項では本文文字数が2万~6万文字となっており、これ以上書くと失格になってしまいます。

リーシアの目的は!? ”六芒ノ巣”との戦いは!? 温泉ってことは水着回があるんだろ!?

等々あるかと思いますが、ここで一度更新を停止させていただきます。


更新再開までの勝手なお願いとなりますが、ここまでで『面白い』と思っていただけましたら『小説のフォロー』や『★で称える』のところから星評価★★★を入れていただけますと執筆のモチベーションになりますので、よければお願いいたします。


最後になりますが、ここまでお読み下さり本当にありがとうございました。


吉武止少よしたけあるく

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捨てられ社畜、古代の宇宙戦艦を手に入れたので自由気ままな傭兵に転職、無双する! 吉武 止少 @yoshitake0777

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