第21話 人身売買
『こちらは総合商船アバランチ。金のために連絡を入れた』
「こちらフジシロ屋。少しは取り繕えよ……」
『正直がモットーなんだよ。客商売だからな』
正直すぎて無礼なのもどうかと思うんだが。
『どうせ警察と行政に待たされてて暇だろ?』
「それはそうだが……何で知ってるんだ?」
『いろいろツテがあってな。警察のお偉いさんと行政のお偉いさんが、今回の不祥事を揉み消そうと必死になってるぜ』
公爵が圧力をかけて俺やニアを追い詰めたことを始めとした不法行為の数々。
宇宙港の入出管理局にまで公爵の手が伸びていたのは間違いなく不祥事だろう。
おそらくは、捜査をさせないために警察組織にも圧力が掛かってたな……。
「って、まさかとは思うが、俺を消そうとしてるのか?」
だとしたら敵だ。
”
……じいさんが命を賭けて守った星系を俺が滅ぼすってのは、できれば避けたいが。
『待て待て待て。それができないのは向こうも重々承知。公爵を倒すような怪物相手に喧嘩売ったりしねぇよ。――そこで俺に話が回ってきたわけだ』
「どういうことだ?」
『早い話が、今回の事件の手柄を売ってほしいってこった』
なるほど。
自分たちが解決したことにすれば組織内部の自浄作用が働いたと言い張ることができるし、摘発の指示を出したことにすればトップもメンツを守れる。
武力行使ではなく金銭での取引なら俺も応じても良い。
「別に構わんが、いくらくらいだ?」
『それがなぁ』
アバランチのおっさんによると、宇宙海賊の賞金もチリツモで結構な金額になり。
公爵の件は星系全体を巻き込む規模の事件なので、買い取ろうとするととんでもない金額になるらしかった。
『そこで、だ。現物払いで、何か欲しいものはねぇか、と聞きに来たわけだ』
「なるほどなぁ……」
『欲しいものはないのか? とりあえず何でも言ってみろよ。今なら勲章とか爵位も取れるかもしれねぇし、女も男も選び放題だぞ……借金ある奴限定だが』
「人身売買じゃねぇか……食料とかどうだ?」
『馬鹿。100年分買ってもおつりが来るぞ』
うん、なんとなくそんな気がしてた。
でも実際ほしいものもそんなにないんだよなぁ。
そう思ってツバメとニアに話を振ったが、二人とも物欲らしい物欲はなし。
スワローテイル号の補修に使うレアメタルも、公爵の無人機から結構な量を確保したらしく買う必要はなかった。
『いや、困った……お前さんに手柄を売ってもらわないことには儲けも出ねぇ』
「飯と良い感じの金さえもらえれば、別に格安で売っても良いんだけど」
『馬鹿野郎! 善意とか貸し借りなんてのは信じねぇのが真の商人ってもんだ! 暴利をむさぼりにくくなるだろう!?』
「サイテーな発言だな」
何やらこだわりのあるおっさんの背後から、リーシアがカットインしてきた。
『フジジロ屋さん。提案があるの』
『あっ、おい!』
『義父さんは退いてて』
おっさんを退かして座席についたリーシア。
結晶人らしいキラキラな瞳で見つめられた。
『利益を放棄しても良いと思ってる?』
「ああ。飯と、当座の活動に困らない程度の金がもらえれば十分だ」
『なら、決まり。私を買って』
「……ハァ?」
『こないだ情報を売ったのはアバランチじゃなくて私個人。貸しも私個人のもの』
「いや、あの、もう少し説明をお願いしても?」
『買ってくれたら話しても良い。今は無理』
いやでも、人身売買って……。
『リーシア。本当に良いんだな?』
『うん。フジシロ屋さんにお願いしたい』
意味深な会話の後、おっさんがモニターの向こうで頭をさげた。
『俺からも頼む。リーシアを買ってやってくれ』
「人身売買なんて出来る訳ないだろ」
『違う違う。俺がリーシアを拾ってから今日までに掛かった食費や光熱費、その他を払ってもらうってだけだ』
リーシアは理由あっておっさんに拾われた孤児だったらしい。
その時に約束したのが、自分を育てるのにかかった金額は必ず払うから、最高の教育をして欲しいというもの。
おっさんは約束通りリーシアにがっつり金を使ったらしい。
独り立ちを阻止したかったのか、きちんと払えると信じていたのかは不明だが。
『財務に売買の交渉、物品の目利きもできる。お買い得』
「……でもなぁ」
『貸し』
「うっ」
『できることなのに、踏み倒すの……?』
「……分かったよ」
押し切られる形でリーシアを引き受けることになった。
ちなみにおっさんが算出した金額は、本当に目玉が飛び出るレベルのものだった。
何せ、今回の手柄を売った金額のほとんどが吹き飛ぶ計算なのだ。
「タダより高いものはないってか……」
『はははっ、勉強になったな!』
ツバメとニアに頼んで空き室の一つをリーシア用に整備してもらう。
ニアの急成長とツバメの変化だけでもお腹いっぱいなのに、その上ワケアリっぽいリーシアか。
「とりあえず夕飯にするか。ニアの快気祝いにリーシアの入社祝いも兼ねよう。新生フジシロ屋の門出ってことで豪勢に頼む」
「かしこまりました」
「アバランチのおっさんよ。散々稼ぐんだろ? 食材くらいはサービスしてくれ」
『がははは! 仕方ねぇな!』
こうして、何とも締まらないがフジシロ屋に新スタッフ達が加入することになった。
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