愛があればなんでもできる?

 愛があればなんでもできる?


 聞き間違いかと疑った。

 明らかに面接において不要な質問を眼前の面接官はしてきたのだ。


 一対一の面接である。

 突然そのようなことを言い出すのだから、私の緊張は一気に弛緩した。


 まあ、聞き間違いかもしれない。


「えっと、すいません。もう一度お願いします」

「いいよ。愛があればなんでもできる?」


 聞き間違いではなかった。

 面接官は満更でも無い表情で、こともなげに言う。

 私より二十は上の男である。

 丁寧語くらい使えと言いたいところだが、仕方ない考えてみるか。


 うむ。


 そもそも私は愛を知らない。

 生まれてすぐに英才教育が始まった。父も母も厳格な人だった。与えられたのは知識ばかりで愛情は無に等しい。

 それゆえ、質問には答えかねる。


 そもそも私は、まだ小学六年生である。

 小学生にする質問だろうか?

 受ける中学校を間違えたか?


 無論、小学生の私に恋人といえる者もいない。

 愛など知る由もないのだ。

 しかし結論は出ていた。


 愛などなくてもなんでもできる。


 私は現時点で大学数学を解けるほどの天才小学生である。

 勉強だけじゃない。この前の運動会で赤組を優勝に導いたのは私のおかげだと自負している。


 だから、答えは――。


「え、あ、ごめんね。泣かせるつもりではなかったんだよ。ただ、君があまりに賢い答えをするから、つい気になってしまって」


 私は泣いていた。

 それが恥ずかしくて、逃げるように席を立ち、教室を後にした。


 校門を出ると、父と母がいた。

 二人は優しい口調で何があったのか訊いてきた。

 偽りなく、事実を話した。

 怒られると思った。

 けれど、二人から出た回答は予想に反したものだった。そしてすぐに二人の体温に包まれた。


 私は愛されていた。


 今の私なら、なんでもできそうな気がする。


 愛があればなんでもできる。そう思えた。

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ちょっと頭のおかしい短編集 とてぬ @asatyazuke

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