ペペロンチーノ

 ペペロンチーノのカロリーが高い? 

 気にするな。それは私へのご褒美だから。

 気にするな。それは彼との聖遺物だから。


「君をペペロンチーノ教団会員番号276に任命する」

「あっ、ありがとうございます!」


 私は教祖に全力で頭を上下させて感謝を示した。

 草な……教祖は甘いスマイルを私に向ける。やっぱりカッコいい。

 ペペロンチーノ教の研修期間約1ヶ月を終えて私の不安はもう消し飛んでいた。 


「ぺぺぺペペロンチーノ!」

「ぺぺぺペペロンチーノ!」


 教祖に続いて私もコールする。こうしてペペロンチーノを前に両手を合わせて最大の感謝を伝えるのだ。これはペペロンチーノ教団の慣習のようなもので、儀式的な意味もある。


「とても張りのある声だ。いい! 昨日より成長したな」

「ぺぺぺペペロンチーノ!」

「ハハっ嬉しいか。よかったよかった!」


 ふと、周りを見ると客や店員が私たちを訝しげにチラチラとみてくるのに気づく。

 そういえば、ファミレスの中だった。

 活動に集中していると周りが見えなくなる。

 そう。


 目の前の彼しか見れなくなる。


 本当はペペロンチーノなんかどうでもいい。

 彼に近づきたくて彼の運営する教団に入ったんだ。 

 思い返せば、ペペロンチーノへの不安を彼への好意で上書きして現実に目を背けた。

 だったら、私は食べるべきなのか? 

 このペペロンチーノを。うんうん、今さらだよ。考えるだけ無駄なこと。どうせペペロンチーノを断とうとしたって、彼の悪魔の囁きによって、私はペペロンチーノに再び誘われるんだ。

 だからしょうがない。


「まだ不安なの?」

「へ?」


 彼の言葉に意表を突かれた。

 

「カロリー気にしてるなら無理に食べなくたっていいんだよ。ペペロンチーノ教団も無理に」

「無理してない!」


 私は咄嗟に口を噤む。

 気づいたときには店員がこちらに声をかけていた。


「他のお客様がご迷惑されますからお静かにお願いします」


 私は「すいません」とだけ言って目の前のペペロンチーノを平らげる。

 口の中がぺぺぺペペロンチーノ。


「無理してない」


 今度は、しっかりと意志を示すように、ゆっくりとはっきりと口に出す。


「……」


 彼は黙ったまま、その綺麗な頬に冷や汗を垂らしていた。




 

 ○ペペロンチーノ歴5年

 

「「「ぺぺペッペ! ぺぺペッペ! ぺぺペッペ! ペペロンチ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ノ!!!!!」」」


 民衆の謳う国歌に祝福されながら、私と彼は手を繋いで前へ進んでいく。


 もう不安なんていらない。


 この国の主食はペペロンチーノになったんだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る