前日譚、side神木零次 4ご馳走様

「僕は大神というものだ」


 というこのセリフはね、画面の向こうの君、この物語を認識している君に送るものだ。そう、僕は大神。この世界の神。突然のことで申し訳ないんだけど、僕の話を聞いてくれると嬉しい。


 さて、前回のあらすじだけど、神木がマッドサイエンティスト止人に殺されて、この世界の死に戻りの仕組みを知るために、もう一度、最初に自分を殺した、美少女の姿をした化け物のところに行った。その結果、化け物から協力をお願いされた。


 ……正直、ここまでの展開で謎を深め過ぎた気がするので、君の抱えている謎の一つくらいにはお答えしておこうと思う。読めなさすぎる展開も考えものだねー。


 神薙明はね、神木の同級生だ。だけど、前日譚には一回も出てこない。ごめんなさい。あらすじ詐欺っぽいけど、あらすじはちゃんと全部回収するのであしからず。


 この物語は、パニックホラーみたいな出だしだけど、マジで出だしだけだからね。ちゃんと異世界転生チートものになるんで……うん、よろしく。


 以上、大神からでした。


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 協力、という言葉は、神木にとって意外なものだった。それくらいには、今まで見てきた、この洋館にいる者たちは信用ならなかった。今回も、油断した瞬間に取って食われるんじゃないだろうか、という不安がないわけではない。神木はゆっくりと体勢を立て直し、化け物の方に向き直った。やはり足は少し動かしづらい。


「……一度自分を食べたやつを信用しろと?」


「もちろん、わかってる。これは、無茶なお願い」


「なぜ俺を食べたんだ?」


「それはその、おいしそうな匂いのお兄さんが急に出てきたから……」


 化け物はなぜか頬を赤らめて言った。


「……本能に、抗えなかった」


「ええ……」


 神木は化け物に対して、何と言えばいいのか分からなくなった。つまり今は、理性で本能を押さえつけている状況、というわけだ。なんか不憫だ。化け物も。


「ちなみに、お兄さん、おいしかった。中毒性ある味。正直、今もやばい」


「感想とか聞いてねえよ」


 人間って、化け物にとってはジャンクフードか何かなんだろうか、と神木は思った。


「それで、協力って言うのは?」


 なんか、この化け物、信用できそう、というか、頭弱そうだよな……と神木は思った。


「私には、記憶がない。この場所のこと、何も知らない。でも、こんなボロボロの洋館が、私の居場所だとは思わない」


 化け物は、神木の目をじっと見つめた。真っ黒な瞳からは、強い決意が見て取れた。


「こんな、小さな世界に、留まっていても、意味がないと、思う。だから、私は、外に出る」


 神木は単純に驚いていた。そんなにも、外の世界に焦がれるものだろうか。自分は――


「……外なんてそんな良いものじゃないよ」


 気が付かないうちに、そんな言葉が漏れていた。自分でも、なぜそんなことを言ったのか、分からなかった。


「それでも、こことは、絶対に違う」


 化け物はそんな小さな呟きも、聞き逃すことはなかった。


「どんなことにも、必ず、意味があるよ、お兄さん。私はここが、世界のすべてじゃないって、知ってる。お願い。お兄さん。協力して」


 神木は言葉に詰まった。自分は外の世界を知っている。でもそれは、断片的な記憶としてのみで、そしてそれらは、あまりいい思い出じゃないような気がする。


 でも、それらがこの化け物の言うように、世界のすべてでないであろうことも知っている。自分はずっと、この洋館から出ることだけを考えてきた。でもそうじゃない。この洋館から出るということは、外の世界に向かうということなのだ。向き合うということなのだ。


「お兄さん、多分、頭がいい。そんな気がする。私の、分からないこと、あったら、助けて、ほしい。お願い」


 正直、自分が何なのかもよく分かっていない。でも、ここにいても何も変わらない。それだけは分かる。自分には分かる。多分この洋館に居続けることもできる。でもそれは何の変化ももたらさない。


「……分かった」


 それだけ、化け物の目をしっかりと見て、返事をした。


「ありがとう、私、喰無。クロムって言う」


「俺は神木……喰無か、喰無、じゃあ、クロだな」


「へっ?」


 クロと呼ばれて、目を丸くする。


「お兄さん、初対面の人に、あだ名つけるタイプなんだ……」


「いやなんだクロって……家によく来てた猫じゃあるまいし……呼びやすいけど」


 神木は、即座に自分にツッコミを入れた。


「待て、家によく来てた猫?」


 確か自分の、唯一の友達の……


「お兄さん?」


「いや、何でもないよ」


 神木は、思考を振り払うかのように、頭をぶんぶんと左右に振った。


「あとさ、少し疑問に思ったんだけど、クロ、ここの壁とかって壊せたりしなかったの?」


 クローゼットを軽々と破砕していたクロなら、案外簡単に行ける気がする。


「びくとも、しなかった」


 悔しそうにクロは唇をかんだ。ここの壁ってそこまで硬いのだろうか。


「じゃあ出入り口を手分けして探すしかないな……っとその前に」


 神木は、ねん挫したらしい足を指さして言った。


「さっきクロから逃げようとしてやっちゃったんだけど」


「……はい、えっと、その節は」


「クロ、もう一回食ってくれない? そしたら、まあ治ってるでしょ」


「うっ……」


 クロは二秒くらい逡巡した後、本能に負けてバクっといった

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「世界最強」はひとりじゃない。 ミヤツコ @miyatsukosan

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