第17話 雫

「運動部に謝った方が良いぞお前……」

「なんでそういう結論になった?」

先程、走り終わった俺は、悠の近くまで

息を整えながら歩いていた。

「お前の後に走る奴らが不憫で仕方ない」

「俺の後に走るお前が言う?」

「遠回しに俺可哀想って言ってんの!」

少し呆れた顔をして悠はキレる

可哀想なのは寧ろ俺の方である。

「てか、直ぐにお前の番来るだろ」

「はいはい、並んできますよー」

そう言って悠は、走る列に並びに行った

「一ノ瀬くん」

「……朝日奈さん?」

俺に声を掛けてきたのは、朝日奈さんだった

(でも、女子は向こうで測定してる筈では?)

星羅学園のグラウンドは馬鹿デカく

男子と女子は別々で測定されている……

だからコッチ側に居る理由は無い筈だけど

「どうしてコッチ側に居るんです?」

「私はもう測定終わったので!」

う〜ん、理由になっていない気がするが、

まぁ良いだろう。別になんにもならないし

「それにしても、運動得意なんですね」

「へっ?」

「……?とても足速かったじゃないですか?」

いや、なったわ。……見られてたわ

(別に悪い事じゃないんだけどね!?)

俺はそう心の中で弁明するが、

朝日奈さんが見たっていう事実は変わらなくて……

「ちょっと恥ずかしいですね」

「何故です?」

俺に問いを投げ掛けた朝日奈さんは

とても真剣な顔をしていた。

(どうして?)

確かに、なんでそう思ったんだろう

別に恥じる要素は無かった

『もう嫌だ!……なんで!どうして!――――!』

違う、あった。

(……ごめん)

俺が恥じる理由を、君に話す事は出来ない

真剣に俺の事を考えてくれる君"だから"

伝える事が出来ないんだ。

「一生懸命に頑張っている事は

決して恥ずかしくはないと、私は思いますよ」

(違うんだ……違う)

俺は頑張ってない、あの頃から……

何一つ努力しちゃいない。

才能っていう親からのギフトに頼ってるだけの

ただの……ろくでなしだ。

「頑張れていたら、良かったですね」

「頑張っていますよ、一ノ瀬くんは」

優しい声色で、彼女は俺に言う。

「もっと自分を肯定してあげて下さい」

「……出来ないですよ」

朝日奈さんを見ていると、光を見ると

己がどれだけ怠惰な人間であるかを実感する

自己嫌悪で蝕まれる。

(俺は君とは違う)

君のような、光のような人じゃ……

「だったら、私が一ノ瀬くんを肯定します」

「なんで……ですか」

「君がそうしてくれたからですよ」

満面の笑みで、朝日奈さんはそう答える。

曇りの無い、偽善でない、そんな言葉で

「……ッ!」

「そんなに、自分を責めないで下さいね」

少し……たった少しだが救われた気がした、

朝日奈さんのお陰で少し自分を肯定出来た気がした

(……情けねぇな)

それでも、情けなくても……前を向こうと思う

だから、だから

「ありがとう、"雫"」

俺は……無意識にそう、呟いていた。



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人の好感度が分かるようになった ―何故か学園の美少女達からの好感度が 異常に高過ぎる― 月影 @mijage

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