はるばる二ホン

夏伐

黄金の国

 はるばる星海を渡り、私は二ホンという国にやってきた。

 この島国の人間は私たちに比べて小さい。歩き方も前のめりで不思議な歩き方をする。


 黄金の国とも呼ばれているらしい。文化がうちよりも進んでいないだろう未開の地へと一攫千金を求めてやってきた。

 きっと金にも匹敵するような何かがあるに違いない。

 未開の原人どもはきっと高価なものの価値など分からないだろう。それを安く買いたたければ一気に財産を築くことが出来る。


 はるばるやってきてみれば、住民も小さければ家屋も小さい。まるで猿のような人間たちがこまごまと暮らしている。

 だからといって烏合の衆というわけでもなく、しっかりと平民や下民、上層階級と生活は別れており、私の商売相手は貿易を司っている上層階級にあたる。


 言葉も文化も分からない中、必死にさまざまな商品を売り込んでいく。


 珍しい生き物を『お近づきの印』として渡すと、彼らはとても喜んだ。


 支払いもコバンという金だ。ああ、これは確かに黄金の国だ。


 私は元々詐欺師として向こうでの信頼はほとんどないが、この国でそんなことを知る者は同行している詐欺仲間くらいだ。


 商売敵も少ないから、どれだけ金額を釣り上げたとしても猿どもは支払う。


 もっと珍しいものはないだろうか。こちらの国で安く簡単に手に入り、向こうでそれなりの値になりそうなもの。

 そして小さな町を歩いていると、小さな人々がきゃいきゃいと集まっている場所を見つけた。


 それは、この国における『見世物小屋』だった。


 悪趣味だとは思いつつ、向こうでクソの役にも立たない孤児をこちらに売り払うのも良いだろう。

 銅貨数枚で金に化ける。


 向こうで一生を奴隷として過ごすより、こちらで物珍しい愛玩動物として生きる方が彼らにとっても良いのではないか?


 そうしてくぐった見世物小屋の掘っ建て小屋には、一つのミイラがあった。

 猿の赤子と鯉を繋ぎ合わせているらしい。


 それを『人魚のミイラ』として客から金をとっている。粗末なものだ。


 こいつらはこんなちんけなものに金を払うのか。本当に猿のようだ。

 私は、こちらに来るまでに死んでしまった奴隷や生き物の体をバラバラにしてつないだ。十数メートルにも及ぶ巨大な人魚のミイラを作ることが出来た。


 縫うしかない彼らと違い、私は錬金術を使ってもっと美しくつなぐことができた。


「こちらには『人魚の肉を食べれば不老不死になれる』という伝説があるとお聞きしました。とても珍しい生き物のミイラでございます」


 そんなうたい文句で売り込めば、やつらはすぐに金を積む。


 こうして私はこの新天地に引っ越すことを決めた。

 私の、この国ではもの珍しい容姿も相まって、すぐに店を大きくすることもできた。騙そうとせずとも勝手に珍しがって買っていく。面白いように金が稼げた。


 ある日、何度もキメラミイラを売りさばいた取引相手から、奴隷の容姿と生き物の指定、それぞれの注文が届いた。


 細かい注文だ、値段を釣り上げてやろうと屋敷へ向かった。


 すると、使用人は示し合わせたかのように私が売ったミイラを屋敷内に運び始めた。屋敷の主と私の間に並べ出した。

 そして接合部分の癒着が甘かったのか、屋敷の主がミイラの腰を指さして指摘した。


 未開地の猿だと舐めていたが、どうやら詐欺だと分かっていながら買っていたらしい。


「なぜ騙されていると知りつつ……」


「この世界でまさかあなたのようなエルフに出会えるとは思いませんでした。異世界の上級国民に生まれたので、せっかくなら亜人娘ハーレムを作りたかったんですが、思ったより日本のままで……」


 この国の中でも特に変わった取引相手だとは思っていたが、


「僕、別の世界から生まれ変わったみたいでね。はは、魔法もあるしエルフもドワーフもいるらしいと聞くのに国を閉ざしてて困ってたんですよ」


 元は異世界の人間だったか。

 他の人間と違ってエルフを知っているとは。他の人間は私のことを天狗の一種だとか言っていたのに。


「つまり……」


 意味のよく分からないことを言う彼は、ミイラを指さして「切ったりくっつけないでこの魚型魔物のままください。奴隷はできれば殺さず。状態が良いなら言い値で買いますよ」そんなことを言う。


 この変わり者は私を詐欺師と知りつつ、この国で店を構えることを許可したのか? その上で言い値で買う?


 私はとんでもないところに引っ越したのかもしれない。だが、この黄金の国で成り上がる。その目的のためにはこれ以上ない条件だろう。


 エルフの中でも魔法も錬金術もうまくなかった私だ。未開の地でちやほやされるのも悪い気分ではなかった。


「ええ、こちらも手間が省けてたすかります。これからどうぞよろしくお願いいたします」

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