織田軍足軽 新太
深い森に響くのこぎりの音
木が次々と伐採され、その太い枝を切り離し運んでいく
ここは岐阜城郊外の山林の中
伐採した木の幹ではなく太い枝を使うという話を聞いて、運搬を担当する織田軍足軽の
(初めは柵でも作るのかと思ったが、これだけの枝は柵を作るにしては多すぎるだ)
しかし、岐阜城の集積場に運ぶ枝は一定以上の太さが求められており、その太さは柵を作るために必要な太さと一致している
新太がぼーっと想像を膨らませていると、この伐採を管轄する
「おい、そこの者。もっと足を動かせ。せっせと働くんだ!」
このように注意され我に返る
(雑兵の俺には用途が分からんが、織田家の御曹司が自ら管轄するんだから大きな事業に違いねえ)
そう、管轄する織田信忠は信長の長男であり跡取り息子なのだ
その信忠が自ら現場に足を運んで配下を叱咤している
これは織田家の命運をかけた一大プロジェクトの一環なのである
「はぁはぁ、もうこれで終わりだ。これだけ運んだし既に伐採している様子もない。そろそろ終わるだろう」
新太やその周りの駆り出された足軽らも後方での伐採が終わったため、仕事が片付いたと思い、中には号令を待たずに帰宅しようとする者もいた
しかし、そこへ信忠が現れ、
「皆の者、帰るでない。むしろこれからが本番だ。城へ来い」
疲労困憊の雑兵らを引き連れて岐阜城へと入る
(なんだ、まさか褒美でもくれるのか?)
新太のその想像は城門を抜けたところでぶち壊される
「な・・・!」
城に入ると他の足軽や侍大将たちが整然と並び、軍団が形成されていた
彼らは既に槍や鉄砲などの武器を持ち、出陣の支度が整っているではないか
そんな軍隊を背に信忠は伐採に駆り出した足軽たちに声を掛ける
「ご苦労であった。これの褒美は戦で勝利した暁に手渡す。もちろん他の足軽よりも報酬が弾むから安心されたし」
「では伐採に参加した皆の者、それぞれの部隊に武器を持って入れ!」
信忠は足軽らに有無も言わせず隊列に参加させると、先ほど切り離して積んであった木の枝を武器に加えて各自2本持たせた
この枝は全軍、およそ30000人に渡されたため、織田軍は計6万もの枝を担いで出陣することとなる
織田軍の陣容もまた見事なもので、
総大将・織田信長
侍大将は以下の通り
織田信忠
柴田勝家
丹羽長秀
佐久間信盛
こちらも武田軍に劣らず錚々たる顔ぶれである
織田軍は両肩に丸太を担ぎ槍などは具足に取り付けて進軍した
その速度もかなり早く、これは落城を待っていた高天神の際とはまったく違うものだ
織田軍は東海道をひたすらに進み、一路岡崎城を目指す
岡崎城には織田軍の到着に合わせて徳川家康が入城し出迎える手はずとなっている
総大将の信長は自信満々に馬を進めていく
ただ、その大量の丸太をどう活用するのかは重臣にもまだ明かされておらず、重臣の一人である前田利家は親友の羽柴秀吉に尋ねる
「なぁ、あの丸太がどう使われるのか知っているか」
すると、サル顔の秀吉は偉丈夫の利家を見上げるようにして答える
「わしも聞かされたわけではないが鉄砲を活用する話といい丸太といい、大きな城のようなものを作って武田軍をおびき寄せる作戦じゃと思う」
利家はなるほどと相槌を打つが、秀吉は不安も吐露する
「上様の考えは分かる。ただ、武田軍を甘く見ている気がしてな。上手くことが進めばよいのじゃがな」
果たしてその秀吉の不安は的中してしまうのであろうか・・・
※人物紹介
・織田信忠:信長の嫡男。後に父親と共に本能寺の変で戦死する
・前田利家:槍の又左の異名をとる槍使いの名人。加賀百万石の礎を築く
・羽柴秀吉:後の豊臣秀吉。羽柴の名は織田家重臣の丹羽と柴田から取ったものだという
・水野信元:水野家は元は松平(徳川)家と親しく家康の生母於大の実家でもあるがその後織田家に主を変えた。信元は於大の兄であるため家康の伯父にあたる。最期は信長に疑われて殺害された
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駆けず引かずの長篠合戦 武田伸玄 @ntin
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