第5話
代打居酒屋結子は、八郎の活力源である。そして月日は流れて、八郎の仕事への頑張りを、改めて認めた本社は、八郎を呼び戻すことに。辞令を見た八郎は
(また、嫁さんと一緒に暮らすことが出来る)
と、八郎にそこまで活力を与えてくれた代打居酒屋結子に、お礼を言いたいと思って店に入ってのれんをくぐってから
「いらっしゃいませ」
の声の老けているのに気付いた八郎は
(えっ)
と思いながら店に入ってから、結子のおばあちゃんと思われるひとが元気になって店番をしている姿に、ショックを受けたが、今更戻れはしない。けれど
(結子さんは、おばあちゃんが復帰するのを、いちばん喜んでいたはずや)
と、しみじみ思った。
「何になさいます?」
おばあちゃんは、結子の華奢な身体付きと違い、がっしりとした大柄な身体のひとだ。
「はい、酒とねぎまをください」
「はい」
「あ、あの私。お孫さんが店番をしてる時に、この店に来て、お孫さんがおばあちゃんが元気になるのを待ちながら、店番している姿に、元気をもらいまして、そして、たくさんのお客さんの悩みを聞いてくれる貴方に、お会いしたかったんです」
女将はニコッとして
「あの子はとってもいい子で、いちばん私に似てるのかもと思ってます。そして、この店を継いでくれる子が出来たと。けど、まだまだ若いのでこの店を継いで急に老け込んだらと、それで、まだこの店は私が」
「そうなんですか。いい話しをお聞き出来ました」
店の奥では、たつじいが指定席に。八郎は
(仕事の移動は、俺に引導を渡すたのめの左遷やと思ってたけど、今考えたらいい思い出やった。嫁さんと、よりも戻せたし。この店に偶然、寄ったからこそ、ええ方向に向いて行ったんやと思う。結子さんと、おばあちゃんに乾杯や)
と、八郎は心の中で手を合わせた。店を出て夜空をあおぐと都会では見られない満点の星。今日は風もないので、店ののれんははためいてなくて、店の名がはっきり読める。店の名は『結子』。おばあちゃんが孫の名前にと付けた名だ。そう、八郎が勝手に付けた店の名が当たっていたのだ。
代打居酒屋 結子 赤根好古 @akane_yoshihuru
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