第4話

明くる日、八郎は携帯を前にしばらく思案した後、嫁に電話を。呼び出し音のあいだも、八郎は

(電話に出てくれるやろか)

と、気が気でない 。すると、嫁が電話に出てくれ

「あっ、俺やけど、今度会えないかな」

しばらく間をおいて

「会ってどうするというの」

嫁は、つっけんどんな態度だが、八郎はグッとこらえ

「真剣に、謝りたいと思って」

「えっ」

「別れてみて、おまえの有難みが、つくづくわかったんや」

「今頃、わかったの」

「うん」

八郎の家のデジタル時計は、20時を示している。

「それがわかったんなら、会ってあげてもいいわ」

(嫁さんは、相変わらずやな)

ということで、八郎は休みの日に、嫁の実家の近所の喫茶店で会った。この店は、八郎と嫁が結婚する前からよく会ってた店で、もう何十年経ったのだろうか。

「ほんとうに済まなかった」

と、八郎は深々と頭を下げた。その姿を見た嫁は

「あなたには、そういう所が今まで無かったものね。どうしたの」

「おまえと別れて、会社では左遷されてしまって、それでやっと分かったんや。こんな時に理解してくれるひとが、共に苦しみを分かち合えるひとが必要なんやと」

「やっと、分かったのね」

八郎は、目の前が開けたような気がして

「えっ、じゃあ戻ってくれるか」

「いいけど、あなたが今住んでる所へは行かないわよ」

「それは分かってる。頑張って、本社へ戻るわ。それやったら、ええやろ」

「えぇ、いいわ」

「ありがとう」

八郎は、もう一度嫁に頭を下げた。八郎の心にポッと、ともしびが灯ったような、ほのかな暖かみを感じずには、いられなかった。

(こんな気持ちになれたのも、代打居酒屋結子の、あの心暖かいもてなしのお陰と、かずみの一言かな)

「あなたから電話があった時、どういう風の吹き回しかなと思って」

「いやぁ、かずみに言われて」

「あなたのことだから、それだけではないでしょ」

「わかる?」

「わかるわよ」

「左遷先の居酒屋へ行った時に、そこの女将さんの心暖まる話しに俺、グッときて」

「そんなことだろうと思った。けど、その店に行ってみたいわね」

「一度、おまえを連れて行きたいわ」

「ま、二人の仲が落ち着いてからのことね」

「うん」

嫁と別れて早速、かずみに電話を

「あっ、かずみ。ありがとう、お母さんとより戻れそうや。結婚式、絶対二人で出席するで」

「うん、良かった」

と、かずみの声がうわずっていた。


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