第3話

八郎は、代打居酒屋結子に行くことにより、一旦ふさぎ込んでいた気持ちが、仕事に張り合いを感じるようになり、少しずつではあるが、営業成績が伸びていった。そんな時に、次女のかずみから電話が。

「父さん」

「お、久しぶりやな。元気か」

「元気よ。相談したいことがあるんだけど、会いに行ってもいい?」

「勿論、喜んで」

八郎とかずみは、明くる日の夕方、駅前で待ち合わせ

「俺の知ってる店でええか。おでんが旨い店やけど」

「父さんが、知ってる店なら何処でも」

と、言うことで八郎はかずみを代打居酒屋結子へ連れて行った。店に入ると結子が

「いらっしゃい。あれ、初めてですね。女性を連れて来られるなんて」

「娘です」

かずみは、結子に頭を下げて。かずみと一緒に腰掛けた八郎は

「ねぎま、有ります?」

「はい」

かずみは、八郎を見て

「ねぎまって?」

「この店の名物。とにかく、食べたらわかるわ」

「へぇー」

「かずみは、チューハイが良かったっけ」

「うん」

「じゃあ、酒とチューハイで」

「はい」

まもなく酒とチューハイが来ると、八郎とかずみは

「乾杯」

「で、どおした?」

「私、結婚しようと思って

「相手は?」

「会社の同僚で、もう二年付き合ってるの」

「へぇー」

「けど、お父さんとお母さんを見てると」

八郎は、かずみをじっと見つめ

「別れることを、もう考えてしまったらあかんで」

「そうなんだけど」

「前進していかな。そして、俺とお母さんの轍を踏まないようにしたらええだけや」

かずみは、しばらくグラスを見つめてから

「けど、私たちだけ幸せになるなんて」

「親は子供の幸せを、いつも願ってるんやで」

「うん、相談して良かった」

「俺も、よりを戻せたらええんやけど。この年になって、ひとりは寂しいわ」

「父さん、ちゃんとお母さんに謝ったら」

「う、うん。そう言われたら、ちゃんと謝ってないな」

「もう一度会って、ちゃんと謝れば許してくれるかもしれないじゃない。私も協力するから」

「うん」

(やっぱり娘って、ええもんや)

八郎がニコッとすると

「どうしたの」

「いや、早く孫の顔が見たいと思って」

かずみは、八郎の肩を叩いて

「いやだ、まだ結婚もしてないのに」

「結婚してからだと、焦らすことになるから」

「どっちにしろ、一緒じゃない」

「そうだけど」

結子が

「いい仲なんですね」

八郎とかずみは、顔を見合せニッコリ微笑んで

「そうかな」

と。そこで、結子が

「お話しの途中ですが、これ食べてみませんか」

と言って、たこの足を串に刺したのを出してくれた。

「あっ、ありがとう」

八郎とかずみが口に入れると、二人とも

「旨い」

「美味しい」

と。八郎は、かずみを見ながら酒を口に持っていき

(娘と一緒に、居酒屋で一杯やれるなんて最高や。かずみに言われた通り、嫁さんに電話しよ)






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