美しく咲き誇る物語

 春を彩る花々に包まれる心地のよい物語です。
春の色は桜の桃色だけではなく、モクレンを代表する鮮やかな純然たる白と高貴の紫も色彩の豊かさを添える美しさとして映えます。
 また、清和(せいわ)、鳥待月(とりまちづき)など旧暦四月の異名を絡めた衒学的でありながら控えめな造詣の深さも魅力。
 そして、満開の辛夷(こぶし)が叔母上様の姿に重ねていて上手く調和している筆致も素晴らしいです。
 叔母上様の姿と、握った手の形がコブシという音に合わせていて、言の葉が咲き誇るようです。
 叔母上様の凛と立つ姿の様に。
繋いだままだったお互いの手を僅かに強く握って、コブシに秘めた思いに合わせて。