KINTAMA増えるよ金曜日
フカ
✺
朝起きるとおれのきんたまが四つに増えていた。
金曜日、アラームをとめて二度寝をしようとベッドで横向きに転がると、股間に凄い違和感がある。
布団をのけるとトランクスがピッチピチになっていた。ちなみにおれは冬でもパンイチで寝る。
おれは一瞬静止したあとパンツを確かめる。中になんか入っている。ゴムを引っ張って覗くがよくわからなかったから、トランクスをずり下ろす。
棒、たま、その下にたま。おれは叫んだ。二個から四つに増えたきんたまが反動でぷらぷらした。
「うるせえよ兄貴」隣の部屋から弟の
「え、なに、兄貴漏らした?」
「涼ちょっとこれマジどうにかして」
「は?」
「きんたま増えてる」
「はあ???」
涼は体をかしげておれの股間を覗く。一瞬止まって涼も叫んだ。同じ反応が返ってきて、おれはちょっと冷静さをとりもどす。
「は???なに??なんで??は??」
「わからん」
「なんかしたんじゃねえの???」
「覚えはない。いきなり増えてる」
「キッショ」
「やめて」
「どうすんのこれ」涼がしにそうな顔をする。
そうなのだ。どうしたらいいのだろうか。
おれたちは大学生だ、四つになったきんたまがバレたら恐ろしいことになるだろう。あっという間に広まって一躍負の有名人だ。こないだ
「とりあえずちぎる?」涼はたぶんバカだ。
「しんじゃうだろ!!」「でもさあ」「他!」「病院に行く」「結局ちぎられるだろ!!」「うーん」「他!」「あ、じゃあ蹴ったら減るんじゃない?」
涼はマジでやばい。
「どうやったらそんな考えになるんだよ」「連鎖で消えるみたいな」「くそゲーマーめ!!!」「ほれ足開いて」「待って、やめて、むしろ叩いたら増えない?」「別に2個じゃなきゃ4個も6個も同じくない?」「8個になったらどうすんだよ!!!」「そしたらもう病院だよ、はい、行きますよー」
衝撃が走った。
おれは悲鳴を上げながらフローリングにうずくまり、わけのわからん激痛に耐えた。たまが増えたから痛みも増えてる。いろんな場所の毛穴がみんな開いて汁が吹き出す。涼が爆笑する声が遠い。少年漫画のテクニカル系の必殺技をくらったみたいだ。
体が震えて涙が垂れる。おでこを床にこすりつけて、勝手に泣き笑いになる顔をタテに伸ばした。
しばらくうめきながら耐えると、股間を押さえる手が気づく。きんたまがもとに戻っている。
「涼!!!」
「うん、減ったわけね」
「そうだよ!!おまえの言う通りだった!!」
「これ見て」「は?」
涼はボクサーパンツを下ろして横を向く。
おれは四つのきんたまにまた会った。
「は???」
「やべえよ
「は??は??マジ??」
「とりあえず俺のも蹴って」
「やだよ!!!またこっち来るじゃん!!」
「じゃあどうすんだよ!!」
「話はすべて聞いたわ」おれたちは勢いよくドアの向こうを振り返る。
「お困りのようね、息子たち」
母さんが手を日避けみたいに顔にくっつけてそこにいる。
おれらは自分のパンツをすばやく引き寄せる。
「涼、私がきんたまを蹴るわ」母さんは涼の股間を指さし高らかに宣言する。涼が慌てる。
「待って、いやちょっとそしたら母さんが「涼、私にはね、夢があるの」「はい?」これはおれ。
「一度でいいから、きんたまを蹴られた痛みを感じてみたいって。私もあなた達の痛みをわかってあげたい、その尊い痛みを共有したいって、いつも思っていたのよ」
うちの母さんはたぶんちょっとおかしい。
「でも、戻らなかったら」「大丈夫。父親が二人ならもっと稼げてハッピーよ」「たまだけあってもだめだろ」「確かに」「いいから!行きますよ〜」
母さんの蹴り上げが涼の股間にめり込んだ。
母さんは女性だから、股間キックの打撃を知らない。涼がおれを蹴ったときは多少の手心みたいなのがあったけど、母さんの蹴りの速度はもう見るからに全力のたぐいだ。
涼が無言でくずおれる。声も出ないほどの痛みだ。おれは震え上がりながらも自分の股間を確認した。おれのきんたまは無事だ。
たっぷり時間をかけたあと涼の背中の震えが止まると、おれはおずおずと話しかける。
「涼」
「る」
「はい?」
「いきてる」
「大丈夫か?」「だめ」「たまは」「ふたつ」「よかった!」おれは涼の背中をさすってやった。
「変だわ」ほっとしたのもつかの間、母さんが低い声で言う。
「母さんは母さんのままだわ」あごに手を置き、母さんが険しい顔をする。
「いや母さんは母さんでいいよ」おれが突っ込みを入れる。「でも」「でも?」
「たまは一体どこへ行ったの?」
おれらは一瞬考えて、大急ぎでパンツを履いて階段を駆け下りた。親父はリビングにいるはずだ。
「「親父!!!」」ふたりの声が揃う。
親父はグレーのパジャマのままで、炊いたごはんを食べている。
「えっ、なに?どうした」
「親父きんたま見せて」涼が息も絶え絶えに言う。
「エッ」「はやく!!」「エエッ」「私に任せて」母さんが親父の股間をそっと掴んだ。結果、
「ふたつよ…」
神妙な顔で母さんが言う。親父は口をあけている。
「ウソだろ」涼が大声を出す。「おれもふたつだ」「おれも」「私も母さんのままよ」「じゃあどこに…?」瞬間、家の電話が鳴った。母さんがそれを急いで取る。
おれたちは固唾をのんで様子を見守る。母さんが息を呑む。電話口を手のひらで押さえて母さんが言う。
「兄さんよ」母さんの兄、龍二さんだ。「まさか」「増えたわ」おれたちは青ざめる。駅ひとつむこうに住んでいる龍二おじさんのところには、生まれたばかりの孫の
「病院に行くそうよ。
「絶対にきんたまぶつけないでって、伝えて」
おれが言うと、母さんも涼も頷いた。
「エッなに病院て、どうしたの」
振り返ると、親父は二杯目の白米を炊飯器からついでいた。
KINTAMA増えるよ金曜日 フカ @ivyivory
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