【最終話】行ってらっしゃい
ドレッサーに掛かった布を外す。
すると、鏡に写った己の姿が現れる。
ハーフアップのロングヘアー。赤い瞳。
そして、漆黒の軍服には審問官である事を表す階級章がついている。
――これでは私も軍人のようだ。いや、審問官も世間体からしてみれば将校と変わりないか……。
ドレッサーに布を戻そうとすると、テーブルに乗せていた通信機から、音が響く。
発信元はシドだ。
応答するべく、発信機へ手を伸ばすと、いつも通り、淡々と話す科学者の声が聞こえてきた。
『やっほー、アステル。審問官就任おめでとう。聞いた話なんだけど、就任式には皇帝の代わりに、あの
時間も無いので、さらりと答える。
「気分としては最悪だよ。でも、私が欲望を叶えるための布石としては最高だ」
★
『地獄の新人歓迎会』はサルマハイラの小規模基地にて行われた。
ここを指定したのは最高司令官だそうだ。
無難に帝都を指定すれば良いものの――わざわざ、師匠と過ごした地を選ぶとは、あの方も粋な嫌がらせをしてくれる。
さて、基地で私を待っていたのは五十人ほどの小部隊であった。
部隊の規模は大きくは無いが、一応、彼等は審問官に就任出来なかった
「本日よりお前達を率いることになったE12だ」
E12というのは、帝国軍にて、任務遂行中に使われる識別番号のうち、私に割り当てられたものだ。
意味は『審問官第十二位』。
怯えた顔でこちらを見つめる部下達を見渡すと、中には見覚えのある顔があった。
ウルフヘアーのブロンド。学生時代、私をからかってきたお坊ちゃまだ。
彼の表情からは、焦っていることを必死に隠そうとしていることが読み取れた。
本来ならば、ここで制裁を加えても良いが、ここで彼をいたぶった所で何もメリットが無い。
それに、師匠の死因が他殺では無いことが分かった以上、私の目的は復讐では無くなった。
ここは、彼の存在を忘れたフリをしておくべきだろう。
*
一時間後、『地獄の新人歓迎会』が終わり、宇宙船が並ぶ飛行場を眺めていると、しばらく聞いていなかった懐かしい声が耳に響く。
「今日はめでたき日だと聞いていたが、随分と浮かぬ顔つきだな」
高台から声がしたので、そちらを向くと、小型宇宙船の上に曇花が立っていた。
「どうやって、ここまで来た?」
「
本当ならば風魔法でどうやって姿を消したのか、問い詰めたいところだが、今はそれどころでは無い。
「理由は聞かないが、命が欲しければ今すぐここから立ち去れ」
「ほれ、そんな堅いことを言うな」
曇花が私の隣へと降り立つ。
「これは以前から聞きたかったことだが、アステル殿はどうして審問官になりたかったのだ?」
「最初は……帝国に連れ去られた大切な人の安否を調べるつもりだった。でも……その人はもう……」
「ならばアステル殿が、ここに残る必要はなかろう?」
――そう、本来ならば、私がここに残る理由は、もう無い。
――でも、それでも、やるべきことだけは、まだ、この手に残っている。
「いや、まだある。私は……今帝国が掲げている『秩序』の形に疑問を抱いている」
「ほう?」
「師匠が愛した世界を、私は守らないといけない」
「そうか。それが貴殿の覚悟か」
そうだ。今私が抱える願いは一つ。師匠が――推しが愛したこの世界を真の意味で救うことだ。
その為なら、どこまでも成り上がってみせる。
曇花は少し考え込むと、そのまま姿を消した。
「良きことを聞いた。では、我は忠告通り立ち去るとしよう」
どうやら本当に姿を消せるらしい。
「と、その前に――」
「何だ?」
「さっき、貴殿に対し怯えていた金髪の童が、貴殿に対して『背伸びした子供みたいで可愛かった』と申しておったぞ?」
思わず、ため息が出る。
――やっぱり、一発蹴りを入れてくるか。
✿
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今作はドラゴンノベルスコンテストに出す関係で、六万文字にて一旦完結しますが、選考が終わり次第、続きを執筆する予定です。
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