第2話
2年生の後期が始まったばかり。私は心に深い傷をおって過ごしていた。毎日ご飯も食べられず、全然寝付くこともできない。やっと寝ることができたと思っても1時間おきに起きる日々。とても寝れた気がしていなかった。でもきっと彼のことがまだ好きだったとかそういったものではなくて、多少なりともそれもあったのかもしれないが、多くは今後どう学校で過ごしていけばいいのかわからないという悩みからきていたと思う。もともとクラスに馴染めていなかった私は唯一の味方であった彼氏を失い、心臓が痛くて痛くて苦しい日々の中しっかりと授業だけは遅れずに参加していた。みんなどうするんだろうと好奇の目を向けてくる。クスクスと笑う者もいれば気まずそうに避ける者もいた。あぁもういっそ誰も私の存在なんかに気づかずに過ごしてくれないかと本気で思う。話す人もすることもないので仕方なくスマホをいじっているとあることに気がついた。インスタで元彼のフォロワー数が見れなくなっている。
「ブロック、、、?」
思わず小さな声で呟いてしまう。結局その日は一日中授業に集中することができなかった。
「ねぇ、これ聞くのめちゃくちゃ怖いんだけどインスタブロックした?」
家に帰ってからすぐ元彼にLINEを送った。この時の私は地獄の日々すぎて、怖いものなど何もなかったのだ。きっと普通は元彼にLINEなど軽々しく送れるようなものではない。
「えうん。何?嫌なの?」
すぐに返ってきた返信はあっさりとしていた。淡々と冷たく返される。開き直ってるようにもとれた。心臓にナイフがグサッと刺さったような痛みを感じて心臓のあたりを押さえる。
どうしようどうしよう、なぜかすごく嫌で焦りが私を襲う。好きじゃないはずなのに嫌だと思うのはきっとペットに噛まれた飼い犬のような気持ちだったからだと今になっては思う。付き合っていた頃はなんでもいうことを聞いてくれていた彼。その彼が冷たい態度を取っているという事実に脳が追いつかない。私はお嬢様で、可愛くて、わがままで、でもそのわがままが毎回通る、、それが私の中の彼氏像であり当たり前だった。彼氏のことは私が全部管理する。それが彼氏というものでありそこに付き合う価値を見出している。私にとってメリットがないなら付き合う意味はない。そんな風に昔から考えていた。今までの彼氏はそれで通っていた。私が冷めて振る最後の日まで。しかし今、20年間生きてきて初めてペットが強く当たってきている。初めて男の人から冷たい態度を取られている。この状況が許せなかった。思い通りにしたい。そう思って必死に食らいつく。
「そんなことしたらみんなが気づいて気を遣っちゃうでしょ。ブロックするのはいいけど卒業してからにしなさいよ」
私はとてもプライドが高かった。傷つくからやめてほしいと素直に言えない。
「いや別に別れてるんだからみんななんとも思わないだろ。当たり前だよ。別れてまでみくに指図されなきゃいけないわけ?」
今までの彼では考えられないほど冷たい。
「わかった。あんま気を遣わせないであげてね」
私もここで開き直ってしまう。
「嫌いなやつにわざわざそんなこと言われたくねぇし第一別れたんだからもう勝手にさせてくれ。」
「嫌いなんだ、、」
「あぁ、嫌いだよ。当たり前だろ。俺はお前に何十万も使わされてんだ。金返せよ。」
どんどん彼がヒートアップしていく。これ以上刺激しないようにするしかないと悟った。
「わかった。赤ちゃんにお供物とかだけはちゃんとしてね。渡してくれたら置いておくから。」
私たちの子供は火葬して、お骨は私の家にある。
「わかってるよ」
子供のことになるとあまり突っかかってこないのでそこで会話は終わった。だが、赤ちゃん用のお菓子を受け取ったことは10年以上経った今でも一回もない。もちろん家を訪ねてきたこともない。クズだった。私も彼も。
会う前から全てをやり直したいかと聞かれればそうだと答える。出会ったこと自体が間違っていたのかもしれない。私がちゃんとした意味での恋愛をしたことがなく、ただ男の人を従えてきただけだからやっとうまくいかなかったのかもしれない。彼がもともとネガディブな性格で細かいことも気になってしまうような性格だからうまくいかなかったのかもしれない。どちらにせよきっと相性は最悪だっただろう。
私はそれからまた、少し荒れることになる。
相変わらず授業、空きコマ、お昼、登下校、全ての時間を1人で過ごしている。一言も会話をすることなく1日が終わっていく。毎日が限界だった。私はどうにかこの心の穴を埋めてもらおうとマッチングアプリに初めて手を出す。顔がそこそこ良く、そこそこ勉強ができる私はすぐにアピール文と写真で会う人が見つかった。大学が終わると、毎日誰かしらと会ってお酒を飲んで帰る日々が続いた。パパ活した方が稼げるな、なんて思い始めていた矢先、ある1人の男性と出会う。
「けいさんですか?」
私はびっくりしながらニコニコ近づいてきた男性に尋ねた。
「そうだよ、よくわかったね。みくちゃん?」
そういう彼は私より5つ年上の童顔の人だった。めちゃくちゃタイプの顔立ちで、可愛らしい。私はまた一目惚れをしてしまった。だが彼はすごくいい人で話も面白い。居酒屋も決めていてくれて予約もバッチリ。お会計は私がお手洗いに行っている間に終わらせてくれていた。
「すみません、ありがとうございます。」
私はお会計を済ませてくれていた彼に頭を下げる。
「いいよ、その代わり今度みくちゃんのおすすめのところ連れて行ってよ」
「もちろんです!」
なんていい人なんだろう。私は心から感動していた。
お店を出るとさらっと手を繋がれてぶらぶらと横浜を歩く。彼氏以外と手を繋ぐなんて久々すぎて変にドキドキしていた。人気のないところに着くと彼が立ち止まって真剣な顔をしてこちらを見る。
思わず目を逸らそうとした時、彼は私の顎を持ってキスをしようとしてきた。
「ごめんなさい、付き合ってない人とキス以上はできないです。」そう言ってもしつこい彼を無理やり離すと私は1人で勝手に歩き出した。歩き出しながら考える。
どういうこと?私のことが気になってるって言っときながらもう手を出そうとしてるの?やりもく?
その可能性が90%以上を占めている。でも私も惚れてしまった身。結局もやもやとしたままその日は早めに解散した。
皆殺し @amaiyumedake
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