第15話



 でっけーな。5m以上あるんじゃないの?こいつ。

 俺は向かってくるトロルゾンビを見上げる。元は何色だったのかはわからないけど、ドス黒く変色して腐った筋肉質な体。生気を感じない瞳でこちらを見据えながらゆっくりと向かってくる。


バチ


「大晴、あれには効きそう? ちょっと近づきたくないんだけど」


「同感。絶対に近づきたくない。全力で抗おうと思っとります」


バチ


「すごい溜めてるよね?いま」


「そりゃね。ぜっったいに一撃で仕留める」


バチ


 俺はひたすら超速摩擦を続ける。あの馬鹿でかい図体全体に行き渡る電撃が必要だ。


「大晴、だいぶ近づいてきたわ。そろそろ動きを止めるよ?」


バチ


「OK! お願いしゃす!」


「ふん!」


 凪さんは重圧を仕掛けてトロルゾンビの動きを抑える。


「ぐぅぅぅぅ」


 上からの重圧にもがくトロルゾンビ。周囲に腐敗した肉片が飛び散っていく。俺は溜めまくった静電気を全力で、弾く。


バチチ!!


 強烈な電撃の一閃がトロルゾンビに直撃し、一瞬で周囲を明るく照らす。


 トロルゾンビの全身を電撃が巡り、その場で立ったまま硬直している。


「決まった..」


「凄まじい威力ね」


 そのまま、ズドンと仰向けに倒れるトロルゾンビ。有言実行である。


「よし」


「あ」


「え? どうしました? 凪さん」


 急にあたふたし始める凪さん。どうしたのだろうか?


「は、配信開始するの忘れてた..」


「えぇ..」


 まさかのポカである。凪さん、ウキウキしすぎて忘れてたのかな? 俺的にはどうでもよいのだが、偉業を世界に知らしめるという意味では手っ取り早いということは理解出来ている。


 慌てて配信準備をし始める凪さん。


‘’あ、始まった!‘’

‘’正座待機してたんですが‘’

‘’ちょ! すでに攻略開始してるし!‘’

‘’姫、絶対忘れてたよ‘’

‘’なんか馬鹿でかいモンスターが倒れてるんだけど‘’

‘’デコピンか!? デコピンがまた何かやらかしたのか‘’


 もうすげーコメントラッシュ。そうなるわな。


「みんな、ごめんね。配信開始するの忘れてた」


 凪さんのテヘペロ。かあいいから許しちゃう。


‘’今日も姫は最高だな‘’

‘’誰か怒ってるやついるか? 俺が黙らせてやる‘’

‘’デコピンは何をやらかしたんですか!?‘’


「大晴、お待たせ。じゃあ、攻略を続けよう!」


「うっす。どんどん行きますよ」


‘’魔境のはずなのにすごい安心感だぜ‘’

‘’今日はどんなトンデモが見れるのか‘’

‘’富士山を取り戻してくれ!‘’


 視聴者の皆さんも期待してくれているようだ。




——樹海中間地点


 樹海の中をひたすら富士山に向けて歩き続ける俺達。


「凪さん、ここは東京ダンジョンと違ってそんなにモンスター襲ってこないね」


「まあ、かなり広域だからね」


「ゾンビ共が絶え間なく襲って来てたら心折れそうだったからホッとしたよ」


「油断はしないでよ?」


「うっす」


 俺は凪さんに答える。


「た、大晴..」


「ん? どう、しま、し」


 俺は凪さんに聞き返そうと振り向いて話すうちに異変に気付いてしまった。今、凪さんはどなたでしょう?


「え? え? 凪さん?」


「私はこっち!」


『ふふふ』


 後ろの凪さんが主張する。たしかにこの隣の凪さん、少し透けてる??でも俺達に敵意は持っていないと思う。俺の直感さんが反応していないからな。


『貴方は期待出来そう。応援してる』


 そう言うと隣の凪さんはスゥーと粒子に変わって消えていった。


「な、なんか謎存在に期待されてしまったんだけど」


「なんで私の姿?」


‘’なんぞ、あれ? 幽霊?‘’

‘’樹海には不思議な精霊が出るって聞いたことない?‘’

‘’ああ、それ俺も聞いたことあるぞ‘’


 おお、視聴者博識。


「凪さん、精霊なんているの?」


「詳細はわからないけど私も噂程度では聞いたことある。襲ってくることはないくて、なんか話しかけてくるみたいな話」


「あれもモンスターなんだろうか」


「どうなんだろう? 攻撃をしてこない時点でなんかちょっと違う気もするけど、わからないわ」


「なんか攻略を期待されてる気がするのでここを攻略すればわかりそうですね」


「たしかにそうね。楽しみが一つ増えたね」


 なんとも不思議な存在だったな。でもなんだろう。ダンジョンのモンスターとは違うと直感が囁いてる。また現れてくれるだろうか。


 ガチャガチャガチャ


「ん?」


「次のモンスターがお出ましね」


 前方から樹海には全くもって不釣り合いな存在、全身真っ赤なフルプレートアーマーが数体現れた。


「あれ、ちょっとかっくいくない?」


「結構かっこいいね。あの鎧のデザイン」


‘’リビングアーマーだ!‘’

‘’でも色が違くない?‘’

‘’普段見る奴ってくすんだシルバーっぽいよな‘’

‘’真っ赤はかなり危険な雰囲気‘’


 ほう。レアなリビングアーマーってやつか。あれ倒したら鎧貰えるのかな?

 腐ってなければなんてことはない。


 迫るリビングアーマーに対して、俺と凪さんは身構えた。











ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

不定期更新のお話です。


「面白い」「続きが楽しみ」と思って頂けましたら、ぜひご支援を。

ブックマークや応援で指の力が溜まり、レビューの星を頂けましたらデコピンの威力が上がります。


皆様のご支援、よろしくお願い致します!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

スキルはデコピン—ゴミ認定されたスキルが弛まぬ努力で最強に— 脱兎 @datolu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ