第32話 明日香の図書館事件から少し経ち……

 生徒会室にて、

 俺は前に図書室にて起きたことをすべて河野会長に話した。


「なるほど、この学校にサキュバスが紛れていたのか」

「はい」


 河野会長は頭を抱えた。


たまを取られるところでしたよ。全く」

「つまり、そのサキュバス……鈴川明日香と言ったか。そいつを殺したのだな?」

「はい、彼女は今いません」

「なるほど、では彼女の情報は学校のデータベースから削除しておこう。ご協力感謝する」


 そう言って、河野会長は俺に退室を促した。

 しかし、俺はまだ去らない。


「あと、まだ報告がありまして……」

「ん?なんだ?」

「その騒ぎのせいで、例の部屋の扉が破壊されまして、セキュリュティがガバガバになっていましたので、報告しておきます」

「……」


 俺はその報告を言い残して、生徒会室を去った。

 河野会長は何とも言えない顔をしていた。


*****


 俺が校舎外に出ると、そこには神々しい影を持った女、女神がいた。


「あ、宗太、帰りましょ!」

「ああ……うん」

「あれ?随分テンションが低いですね?」


 女神は俺の顔を覗き込んだ。


「そうか?」

「はい。とっても負の感じがします。特に明日香の事があってから」


 それは俺も心当たりがある。

 あの事があってから、妙に感情が不安定な気がしているのだ。


「もしかして、宗太……明日香に落とされてました?」


 俺は心臓をビクッとさせた。

 これは意識したものではない。「反射反応」だ。

 しかし、世間的にこの仕草は「図星」を意味する。それは、天界でも同じなようで……。


「図星ですか?」


 彼女は悪戯っぽい顔をして、俺に訊ねた。


「しょうがないですよね……何せ相手はサキュバス。男を落とすのには手慣れた奴です。しかし、そんな感じでサキュバスにホイホイ落ちていたら……いつか、宗太のたまがとられるかもしれません。私はあくまで貴方にかけた呪い、『テンプレラブコメをふむ呪い』が上手くいっているか、しかと上手くいくかを見届けるただの監視者なので……貴方の感情にそこまで干渉したくはないのですが……」

「なんでだよ……」


 俺は俯いたまま、呟く。


「はい?」

「なんで、貴様らは俺たちにそんなものをかけたんだ?なんで悪魔とか女神を知認させた……?」


 すると、女神は気難しそうな顔をしている。


「本気で言ってますか?」

「この目を見て分からないのか?」


 俺は彼女を睨んだ。


「しかし、すみません……本気でその問いに答えることはまだ私にはできません」


 女神はそう言って、頭を下げた。

 しかし、俺は認められない。勢いよく地面を蹴り、彼女の胸倉を掴もうとした!

 だが、彼女は腐っても女神。たかが人間の攻撃などささっとかわしてしまう。


「落ち着いてください!」


 彼女は必死に俺に訴えた。

 俺はそれに無言を貫く。


 この時、女神はその様子を見て、すぐに察した。


 西村宗太はとっくにサキュバスに落とされきっている。

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変態たちのテンプレラブコメ 端谷 えむてー @shyunnou-hashitani

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