スケルトンとモチベーション
今日も今日とてやられ役。
それこそが自分たちの役割。
「何て言ってられるかー!!」
『控え室』で、Aさんが荒れていた。
「そうだそうだ! オレたちだってたまには勝ちたいっすよ!」
Bさんがそれに同調する。
「そんなこと言っても、やられ役として新米冒険者の相手をするのが、我々ボーンサーバントの役割らしいですから」
「Cさん! お前はいつからそんないい子ちゃんになったんだ」
Aさんはビシッと音がしそうな勢いでCさんを指さした。
「いえ、僕はずっとこんなですけど」
「そんなこと言っていいのか、お前も一度は骸骨王を目指して――」
「わーーーー、そのことは忘れましょう! あれは血迷ったんです! いえ、幻です。幻」
「まあいいや、Cさんいじってても満たされねえしな。とにかく、俺たちだってよ、レベルアップしてみたくね?」
「おお、いいねっすね。スケルトンのレベルアップ! で、どうなるんすか?」
Bさんの言葉に、AさんとCさんは首を傾げた。
「やっぱ、強いスケルトンと言ったら、ドラゴンスケルトンとか?」
「いいっすね! ドラゴンにはやっぱり痺れる憧れるぅっすね!」
Bさんはノリノリだ。
「骨のゴーレムみたいなもんだって、魔女さんも言っていたんで、鉄とか、金とか、ダイヤモンドとかになるんですかね?」
「本格的なゴーレムじゃん! でもダイヤモンドは捨てがたい。砕けないっすもんね♪」
「何アホなこと言っているの? アンタらにレベルアップはないよ。強くなっちゃいけないんだから。弱いことに意味があるの」
魔女の少女が突然現れ、三体の会話に割り込む。
「最弱が最も恐ろしいてことっすか?」
「そう言うのじゃないわよ。てかBさん、さっきから何わけわかんないこと言ってるの?」
「あ、気にしないでくださいっす。でも、姐さんは魔女だし、タロットカードとか持ってないっすか? そこからカッコいい二つ名つけるとかどうっすか?」
「Bさん、そろそろその顎を砕いたほうが良くなるかもしれないので黙ってもらおうかしら?」
―――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ―――
「はい、やめるっす」
あまりにも少女の醸し出す空気が怖かったので、Bさんは正座して小さくなってしまった。
「でも、僕たちの役割は新米冒険者のその覚悟を試すといった意味合いだったと思うのですが、この迷宮を作った悪神は、冒険者に最奥に辿り着いて欲しいのですか?」
「それは、私には分からないわよ。てか私に使命を与えたのは悪神ではないわ。何にしろ、少なくとも私には、そう言った使命が与えられたの。新米冒険者の覚悟を試し、この先に進むか否かをその身に問う役割」
「カッコよさそうに言うけどさ。俺らだってやられてばっかりじゃストレス溜まるぜ。人権侵害だ。いや、骨権?」
「何言っているの、アンタらに人権も骨権もないわよ」
「それはいけませんねえ~。我々に『人格』を与えたのは適当であれ姐さんなんですから、その『人格』の持つ『権利』をないがしろにするのはよくないですねえ~」
Dさんのニョロニョロしながら放った言葉に、三体の骸骨から「おー」と感嘆の声が上がる。
「う、ま、まあそうね。ま、アンタらが自分たちの役割を全うしつつ、今の仕事にやりがいを持つために工夫をするのは、良いことなんじゃないかしら」
「お、姐さん、なんか面白そうなこと言ったっすね」
Dさんの言葉で立ち直ったのか、しばらく黙っていたBさんが立ち上がって声を上げた。
「そうだな。せっかくだから楽しまなきゃな」
Aさんが同調。二人はワクワクした雰囲気を醸し出し始めた。
「しかし、具体的にどうするかですね? 強くならず、弱いまま。自分たちの役割を果たすということは、相手に恐怖を与えることが重要ですかね?」
「それだあ!」
Cさんの言葉に、Aさんが何かを閃いた。
「Aさん、何かいい案があるっすか!?」
Bさんがワクワクを隠さずに尋ねた。
「恐怖を与えるには見た目が重要。つまり、仮装だ!」
— * — * — * —
数日後
街の冒険者たちが集まる酒場で、ある噂が流行り始めた。
曰く、『根源の大穴』の入り口は行ってすぐに、その場にそぐわない強そうな魔物が四体現れるというのだ。
一体はミュータントスケルトンと名付けられた。
腕も足も間接が一つ増えた異形で、それゆえ背が高い。あちこちにつぎはぎされた骨が棘のように突き出し、まさに骨の怪物といった様相。まるで子供が適当に作ったおもちゃのようなちぐはぐさと不規則な動きが、より不気味さを醸しているという。
一体はバンパイアスケルトンと名付けられた。
大きなマントを羽織り、牙を持つその姿は、悪の迫力と威厳があり、その姿と唸り声に恐れをなし、金縛りにあった冒険者もいたとかいないとか。
一体はフルプレートスケルトンと名付けられた。
初心者では傷すらつかなさそうな全身鎧を身にまとったスケルトンで、重量感のある足取りで冒険者を追い詰める。
最後の一体はボーンデュラハン
その手に自らの頭を抱え現れるその姿は、目にしたものに畏怖を与える。そして相手の死を宣言するかのように剣を掲げてから、華麗なる技で襲い掛かってくる。
ベテラン冒険者が退治に乗り出そうとしても現れず、決まって新米冒険者ばかりが出会う。そのため、恐れをなして冒険者希望者の減少が見られている……らしい。
— * — * — * —
『控え室』に四体のスケルトンが集められ、珍しくDさんも含め全員が中央のテーブルに腰掛けていた。そして、四体全員が頭を下げ、傍で仁王立ちする背低めの魔女に怒られていた。
「ちょっとやりすぎよ! 冒険者が来なくなるのはダメなの!」
姐さんは非常にご立腹だった。
「それは俺たちだって分かってるよ」
「ここまで怖がられるのはオレらも想定外っすよ?」
「と言いますか、冷静に考えればおかしいってわかると思うですが」
Cさんはそう言って、四体の姿を見渡した。
ミュータントスケルトンと呼ばれているAさん、
バンパイアスケルトンと呼ばれているBさん、
フルプレートスケルトンのCさんに、
ボーンデュラハンのDさん。
「俺なんて、適当に骨とつなげて大きくしたもんだから、竹馬に乗ってるみたいにフラフラだぜ?」
Aさんはまさに子供のような発想で骨をつぎはぎした。思い付きで手足を伸ばすためにもう一本骨を足しもんだから不安定極まりない。
「オレなんてバンパイアスケルトンなんて言われてるっすけど、アンデッドの花形バンパイア様は、やられたら骨も残らずに消えると思うんすよね」
Bさんは牙をつけて、マントを羽織っただけのお手軽仮装だ。悪の迫力がどうのこうのはちょっと特徴的な立ち方をして、『ウリィィィィ』とうなり声を上げたことでそういう印象を与えたのかもしれない。
「僕は魔女さんに頼んで全身鎧を用意してもらっただけです」
結果、鎧のあまりの重さに、Cさんはほとんど動けない。ほぼ置物状態で、ズリズリと足を引きずることしかできない。
「わたしなんて、自分の頭を小脇にかかえているだけですよ~」
Dさん思い付きのボーンデュラハンは、Bさんよりもさらにお手軽。その発想力にはみんなから感嘆の声が上がっていた。
「姐さんだって、協力してくれたじゃないっすか」
一方的に責めてくる魔女に、Bさんが不満の声を上げる。
Aさんの体をつなぎ合わせるには魔女の魔術の力が必要だし、Bさんの牙も新調した。Cさんには要望通りの防具を取り寄せていた。
「ま、まあ、それは」
仮装大会みたいで楽しくなってしまったのは正直なところであった。
「何にしても、このままじゃアンタたちは役立たずなの! はい戻った戻った。」
そう言って、魔女は自分の掛けた魔術を解き、鎧は片付けた。
Bさんはマントを脱いで、歯を取り換えるだけだし、Dさんは頭を戻すだけだ。
「でも、少しだけど楽しかったなあ」
「たまにはいいっすね」
「だけど、みんな逃げてくだけだから、ちょっとつまらないと言えばつまらないですよ」
「強くなることで、できなくなることがあり、弱いからこそ、できることがあるわけですね~」
「「「おおお」」」
Dさんの最後の言葉に、三体のスケルトンが感心の唸り声をあげる。
「魔女さんよりいいこと言うねえ」
「あんたたちの骨、全部骨粉にしてそこらの木に巻いてやろうかしら」
すけるとん’ズ マサムネ @masamune1982318
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