女の子が幸せそうな顔で食事している絵を見ると泣けてくる

脳幹 まこと

好いとーよって言ってるあの子の話


 満面の笑顔で「好いとーよ」って言ってる女の子の表紙が目に入った。ラーメンかなんか持ってた。

 読んでない。ただ表紙を見かけただけだ。

 いい歳したおっさんが突然泣きたくなった。「勘弁してくれよ」と思いながら足早に去っていった。


 日常系の絵柄がすっかりダメになってしまった。ウシジマくんは真顔で見れるのに。

 あの子らはふとした拍子に幸せそうな顔をする。俺はそういうのを見ると心の奥がキュッとなってしまう。キュッとした弾みで黒くてドロドロしたものが絞り出される。俺はそれを浴びて叫ぶ。

「萌え」とか「尊い」とかじゃない。有り体に言えば「クソが」と。


 しばらく前から、俺は夜に生きることを強いられた。

 多分生まれた頃から頑張ってたらどうにかなったかもしれない。どこかで「お前は夜な」と言われて、以降太陽の下を歩けなくなった。

 夜がもたらすどんな闇も俺は素通りできた。怖くなかった。むしろケタケタと笑ってやれた。人に引かれることには慣れていた。お決まりの呪文があったのだ。

「俺がこんなになったのは、一体誰のせいだ?」

 これを言ってやるだけで、気持ちは楽になった。


 代わりに、昼の光を直に受けると体が溶けるようになった。

 そういうのを見ると、自分が如何に縁がなく、ふさわしくなく、みすぼらしく、クソったれな存在であるかを痛感させられる。

 高貴な吸血鬼だったはずが、片足でけんけんするゾンビにでもなった気分だ。

「幸せそうな顔を見せるのが一番の仕返し」だなんてクソ理想論を聞いたことがあるが、実際そうかもしれないと最近は思っている。


 帰ってから、家の中にある食いもんを手当たり次第に食い散らかした。

 常備してるガムも、袋ラーメンも、おやつのクッキーも、非常食の乾パンも、缶詰も、全部食べた。全然ダメだった。

 いくらモノを知ろうがかすみじゃ腹は膨れないのと似てるかもしれない。


 クソがとは思ってるが、別に昼の連中をぶち壊したいとは思わないし、目指したいとも思わない。

 やったところで虚しいだけ。なったところで苦しいだけ。

 顔を覆って表舞台から逃げるだけだろう。そんな惨めは御免だ。

 臆病者は臆病者らしく、非現実的なスカッと話で脳を摩耗させていればいい。


 たらふく食ったせいで眠くなってきた。

 これは熟睡コースだ。目が覚めたら休日が終わってる。心底アホらしいなと思った。それが俺だ。笑顔と言われてニコルソンのJOKERが浮かぶ、そういうやつだ。


 読んだこともないが、「好いとーよ」って言ってる表紙の子には幸せになってて欲しいな。

 んなこと思いつつ、意識はまどろみに消えた。

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