処刑まで、あと……
檻から出たオスカーは、一週間ぶりに夜空を見た。星はキラキラと輝き、優しい月明かりは皆に等しく降り注いでいる。こんなにも静かな夜ならば、美味い酒が飲めるだろう。……が、この大自然の静けさは、民衆の罵声によって、台無しにされていった。
腹部と腕を鉄製の拘束具で縛られ、処刑台に続く階段を登っていく。
処刑台に登ると、そこにはレオとアーサーの姿があった。一方、ルナの姿は見えなかった。オスカーは、その事実に安心したように笑うと、静かに処刑台の上で膝を折った。
「何か、言い残すことはあるか」
国王は、少し離れた場所からオスカーに問う。その情けない国王の姿に、オスカーは、一つ、ため息を溢すと、
「……では、予言しよう」
レオとアーサーの方をチラリと見て、
「所詮、人間と魔族はわかり合えない。この俺が死んだところで、未来は変わらない。戦争は起こる。それも百年以上続くものだ。数百万の命が消え去り、数億の被害が出るだろうなぁ。人間も、魔族も、互いに、苦しみ続けることになるのさ。……だが、それがお前たちの望んだ末路だ」
『魔王』として、言葉を紡いだ。
__民衆の罵声が、大きくなっていく。
レオは、ぎゅっと拳を握り締め、震える唇を微かに噛み、大きく深呼吸すると、
「止めてみせる。僕は人間と魔族が共存できる世界を作る。絶対に。お前の言う通りにはさせない」
『勇者』として、オスカーに言った。
オスカーは、レオが乗ってきたことを幸いに言葉を続ける。
「どうだか。俺を殺した後は、そいつのことも殺すのだろう?」
アーサーを見ながら、微かに嘲笑を交えて言うオスカー。アーサーは、恩師の演技にゾッと身を震わせた。が、
「殺さない。善良な魔族と、そうでない魔族の区別くらい、できる。言ったはずだ。『共存』してみせると」
レオは強く言い放つと、バッとアーサーの手を取った。アーサーは、これに、一瞬だけ驚いた表情を見せたが、レオのその手がひどく震えていたことに気がつくと、優しく、その手を握り返した。そして、レオの目を見て、しっかりと頷き、
「我々魔族と人間が力を合わせられたのなら、より良き世界になると思いませんか?」
『魔王』の言葉を否定した。
「ならばやってみるがいい。必ず争いの時代は来る。俺の正しさは証明される」
オスカーは満足げに笑うと、のそのそと処刑台に身を置いた。そうして、
「レオ、アーサー」
魔法を使い、二人にのみ聞こえるように、話しかける。
「愛している」
たった一言、それだけ残し、オスカーは人差し指と中指をクロスさせた。
怒りに呑まれた国民に、そのサインが伝わることはなく、ただ、レオとアーサーだけがそのサインを見逃さなかった。
助け出したくなる気持ちを、グッと堪える。ここで、オスカーの覚悟と想いを、無駄にするわけにはいかない。
……『魔王』として、最悪の事態を予言し、そうさせないように誘導した。
オスカーの、最後の
民衆の、声にもならない声が魔王に向く。
オスカーは静かに目を閉じると、自分の死を待った。
足元がパチパチと音を立てながら熱を持つ。
ゆっくりと炎が天に昇り、オスカーを包む。
その身を焼かれながらも、オスカーは笑っていた。
民衆の罵声が、歓声に変わる。
満天の星空に、火花が散る。
黒煙が、美しい星空を隠している。
炎の音が、激しさを増す。
ぱらぱらと、火の粉が舞い落ちる。
不思議なことに、レオとアーサーは、恩師の散り際を「美しい」と思えた。悲しみよりも、感動が先に来た。
『魔王』としての役割を全うし、炎の中に、静かに消えていく恩師。二人は最後の最後まで彼から目が離せなかった。
おそらく、オスカーが悲鳴を上げることなく散っていったのは、二人にトラウマを与えないための配慮だったのだろう。
彼の栄光を知る者は、ただ二人のみ。
最期まで、二人にとって、オスカーは最高で最強の恩師だった。
恩師 葉月 陸公 @hazuki_riku
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