処刑まで、あと1日

 「飽きないなぁ」


力なく笑うオスカーを前に、二人は正座する。


「もう、話すことはないぞ」

「構いません。残りの時間、少しでも長く側にいたい」

「過去と今の話がないのなら、共に未来の話をしましょう」


レオとアーサーの瞳に、覚悟が宿る。オスカーは「強くなったな」と誇らしげに笑うと、


「では聞こう。お前たちはどんな未来を見る」


愛弟子たちに問う。二人は互いに顔を見合わせ


「僕は、人間と魔族が手を取り合い、安心して共存できる未来を見ています」

「私は、争いで泣く子どもがいなくなる未来を見ています」


はっきりと、オスカーに言った。


「簡単に変われる生物はいない。これからも、人間は魔族を迫害し、魔族は人間を恨むような世界が続く。それでも、お前たちには、本当にその未来が見えているか?」


その言葉を受けても、二人の瞳は真っ直ぐに、オスカーの目線と合っている。


「今は見えなくても、必ず形にします」

「貴方の夢は、私たちで叶えてみせます」


断言する二人に、オスカーは微笑んだ。


「それは、頼もしいな」


安らかな顔で、眠るように、瞳を閉ざす恩師。二人は込み上げる涙を堪えながらも、最後まで笑っていた。


「ルナのことを頼む。勝手な頼みで申し訳ないが、あの子は幼い。大人の力が必要だ」

「えぇ、もちろんです。私が預かります」

「それから、俺の家は好きに使ってくれ。俺の私物は燃やしてくれて構わない。剣はレオに、魔術の本はアーサーにやる。好きに使え」

「ありがとうございます」

「それから……」


オスカーの遺言は、まるで独り立ちする子どもたちを父親が気遣うようなものだった。それを聞く二人もまた、旅立ちを見送る父の話を聞く子どものように、何度も頷きながら、そして、時には笑いながら、オスカーの話を傾聴した。


「願わくば、お前たちやルナが結婚し、幸せに暮らす世界を見たかったな」


ポツリと最後にオスカーは呟く。それは紛れもなく本音であり、オスカーが最後に見せた弱音でもあった。死に対して、受け入れ態勢を崩さなかったオスカーが、初めて、死の前日に弱さを見せた。人間らしい恩師の一言に、二人は、どこか安心した様子で苦笑いを溢す。


「必ず、その時が来たら報告に参ります」

「任せてください。結婚はわかりませんが……貴方の分まで、幸せに生きてみせます」


レオとアーサーの言葉に、オスカーは微笑む。


「すぐ地獄で再会したら、許さねぇからな」


二人は深く頷くと、オスカーに笑みを見せた。その表情は、一番、輝いて見えた。

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