Vol.5 最後の波が寄せるとき
「最後の波は いつ来るのかしら?
寄せては返す営みを
海は いつから始めて いつ辞めるのかしら?」
君のソプラノの声が 海を渡る風と共に
僕の髪の中で はしゃいでいる
「それじゃあ あれが 最後の波だ」
僕は 遠くで生まれた小さな波を指さす
君は微笑んで僕を見つめ 指し示した波に目を移す
波は盛り上がり 沈み込み
岩を超え うねりを増し
小さかったはずの波は 大きな白波となって
僕らの足下へ 力強く押せてくる
「うそつき!」
君はよろめきながら 僕にしがみつく
「なぜ?」
「次の波が もう近づいてきているわ」
生まれたての いくつもの波を指さしながら
すねて僕のシャツを引っ張る君
「そうだな」
僕はうつむいて 笑う
君のその反応が 僕の楽しみなんだ
だって
海が 寄せては返す営みを いつ辞めるのか
僕だって 知らない
君が 唄わずにいられない歌姫のように
僕が 書かずにはいられない詩人のように
最後の波が寄せるときは
きっと 誰にも分からない
ポエム 柊 あると @soraoda
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