第43話 花嫁候補は飛び入り参加可能ですか?
「──結婚ってどういう事よ!」
「ですから……」
モルトとヤミィが忽然と消えたリビングには、アイリスの怒号が反響する。
彼女はフロンの胸ぐらを掴み、今にも殴りかかりそうな勢いだ。
「モルトさんの治療費がとんでもない事になっていらっしゃったので、魔法医療保険に加入しないといけないんです」
フロンは困った様子で話を続ける。
「ですが、モルトさんは冒険者としてこの街に滞在しているので住所がなくて、なので保険の適用外でして……。だったらその……、私と結婚して──」
「でもっ……でもっ! その役っ! アンタじゃなくてもいいわよね!?」
「しかし、他に誰が──」
「そっ! それは別に……アンタ以外にも……ほら……」
アイリスがフロンの発言に対して食い気味に、しかしながら尻すぼみに答えていると、2人の背後にある窓がバンッと勢いよく開いた。
「この私ですっ!」
そこにいたのはクイン。
「話は聞かせていただきましたよ!」
彼女は窓枠をヒョイと飛び越え、フロンの家に堂々と不法侵入。
その後あたかも当然かのように椅子に腰を下ろして、満面の笑みを浮かべる。
「お二人とも? モルトのお嫁さんに相応しいのは、私だと思いませんか?」
突然の訪問者の奇天烈な発言に対して、まるで彫刻かのように固まるフロンとアイリス。
しかしながらクインはそんな彼女達に一切の休憩を与えない。
「だってもう、私のカラダは彼に……、モルトに……」
クインは恥じらいながら、2人から視線を逸らす。
そしてゴニョゴニョと発言の判別がつくかどうかも怪しい声量と滑舌で続ける。
「隅々まで、調べ尽くされちゃいましたから」
そんな彼女の爆弾発言は、2つの彫刻を軽々と粉々に破壊する程の威力を有していた。
アイリスは先ほど以上の怒りを露わにする。
「──あの野郎っ! とうとうプリンセスにも手を出しやがった! ロリコンとかそういうレベルの犯罪じゃねぇぞ!」
「犯罪なんか、モルトは犯していません」
「どこがだよ!」
「……私が望んだ事なので」
「最低だっ! アイツ催眠魔法まで使ってやがるっ!」
「アイリスさんアイリスさんっ! 口調がっ! 口調がはしたないですよっ!」
「クインっ!」
アイリスはフロンの静止を振り切り、クインの両肩に手を置いて覚悟を決めたような視線を彼女に送る。
「……王族にこういう事をするのは絶対ダメって分かってるけど、背に腹はかえられないわ」
「あっ……アイリスさん? 何をする気ですか?」
「……歯ぁ食いしばりなさい」
「えっと、少し仰っている意味が理解できないのですが」
「すぐに分かるわ──」
「──へぇ、だからアイツが土下座を?」
「そういう事に、なりますね」
「……はぁぁぁぁ」
警察の事情聴取がやっと終わったと思って家に帰ったら……コレだよ。
クインが涙目でほっぺたをさすってて、そんな彼女を崇拝するみたいにアイリスは美しい土下座をキメてて。
フロンさんに一部始終を訪ねたら案の定面倒くさい事になってて。
「アホというか……、なんというか……」
「モルトさん、私からも質問があります」
俺が頭を抱えていると、フロンさんがぴょこんと小さく手を上げて尋ねる。
「その……、モルトさんとヤミィさんとの距離、近すぎませんか?」
「……近いですかね?」
「はい。とっても」
ヤミィはさっきから俺の懐が我が家だと言わんばかりに抱きついてきている。
状況的には事情聴取前と変わらない。
いや寧ろその時よりも悪化しているわけで、そうなると見た目の犯罪係数は先ほどよりも跳ね上がっていると言える。
じゃあ俺がどうやって事情聴取を切り抜けたかというと──
「──今、ヤミィと俺は兄妹という設定なんです」
すると俺の説明を裏付けるように、ヤミィが呟く。
「……お兄ちゃん」
「ね? ですのでコレは不可抗力という事です」
「へぇ、そうなんですねー。へぇ……」
「納得、していただけましたか?」
「……まぁ、なんというか。……はい」
随分と歯切れの悪いその言葉から、まだ信頼を勝ち取れていないという事がわかった。
「──じゃあヤミィは、モルトと結婚できませんね」
突如、俺たちの会話に割って入ってきたクイン。
彼女はこの上ない笑顔とほんのりと赤く腫れた頬を伴って、ヤミィを挑発する。
「だって、いもうとですからね」
「……は?」
クインはヤミィを覗き込み、勝ちを確信したように続ける。
「私のこと、お姉ちゃんって言ってもいいですよ?」
「……言わない」
「えー? そんなに恥ずかしい?」
「……やだ」
静まり返るこの空間。
しかしながら存在する、ヤミィとクインとフロンさんの思惑。
間に挟まれる、どうにかして借金を回避したい俺。
なぜかまだ土下座を続けているアイリス。
情報量が多すぎて、俺の頭はもうパンク──
「やぁっと見つけた! 俺の
その爆弾発言の主を視界に入れるのに、時間はかからなかった。
だってヤツは悍ましい量の魔力を纏っていたし、そして俺がわざわざ視界に入れようとせずとも既に、俺の真正面……顔面スレスレの位置で、その言葉を発していたのだから。
「──どちら様ですか? 私のモルトに何か御用でしょうか?」
クインの声は震えていない。
……という事はコイツ、女か?
「君の? ……何を言っているのか、さっぱりわからない」
サラサラと滑らかで短い白髪を揺らす中性的な見た目のコイツは、爽やかに続ける。
「──俺の
ちなみにここまでずっと、コイツとの距離感は一切変わっていない。
あと少しでも顔を近づければ、唇と唇が触れ合ってしまうような距離感だ。
「……俺はボッチ・シルソン。そして君はこれから、ボッチ・モルトという名前になるよ」
田舎で師匠にボコされ続けた結果、気づいたら世界最強になっていました 七星点灯 @Ne-roi
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