夢の続き
ゆすら
夢の続き
「夢の続きが見たいんです」
学校の中庭でそう告げられた。そこには卒業する生徒たちの門出を祝うかのように満開の桜が咲いていた。そんな中めずらしくしゅんとしている後輩の、そのあまり見かけない様子が気になった。それに夢の続きとはいったいなんなのだろう。考えてしまい反応できなかった間に後輩の言葉は続く。
「どうしてこんなに寒いんですか」
今にも消えそうな声。でも怒りのようなものも感じさせる、そんな言い方だった。
ん? 寒い? どういうことだ? 頭の中が疑問符でいっぱいになる。
「先輩! 今日はどうしてこんなに寒いんですか、桜だって満開なんですよ!」
「えっ?」
よくわからないことで語気を強める後輩に困惑しつつも、持っている知識をフルに回転させる。
「今日は本州の南東に前線があって、前線に向かって冷たい北風が――」
「そんなこと聞いてません! これだから理系は」
話は見事に遮られ、よくわからない謎の理系ディスりもいただいてしまった。
その後の話によると後輩は土曜日の夜に満開の桜の下で花見をする夢を見たらしい。それで週明けの今日暖かい中、一緒に桜を見たかったんだそうだ。ちなみにそこにはアルコール飲料もあったようで、夢の続きとは酔っぱらった姿を見てみたいという意味だったらしい。意外と身近に危ない人物はいるものである。
満開の桜の下で花冷えの一日に怒りを露わにした後輩だったが、今度はしんみり散りゆく花びらを眺めていた。
「先輩、来年卒業なんですね」
「ん? ああ」
「来年はこんな風にバカみたいな会話できませんね」
「そんなことないんじゃない?」
「むぅ。まったく、わからず屋ですね」
後輩は口を尖らせて少しの距離をとる。
「来年こそ夢の続きを見させてくださいね。私、来年のは自信あるんです」
そう言ってドヤ顔で指ハートを作ると、照れくさそうにその場から立ち去っていってしまった。
北風が吹く。でもそれも今はあたたかく感じられた。
夢の続き ゆすら @64_yusura
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