第3話 手紙と離れゆく心
幼い頃のあの日、俺の人生は一変した。村に現れた巨大な龍によって、俺は両親を失った。母は俺の目の前で無残に食い殺された。父は最後まで俺を守るために戦い、その背中が俺の唯一の避難所だった。村を焼き尽くす炎、悲鳴、そして混乱の中、俺はただ恐怖に震えていた。
そんな時、俺は一人の少女と出会った。彼女もまた、この恐怖から逃れようとしていた。俺たちは手を取り合い、必死で逃げた。そして、父の落とした剣を手に、俺たちに襲い掛かる魔物に立ち向かった。その剣で魔物を刺し殺し、俺たちは奇跡的に生き延びた。血まみれの身体、しかし生きる希望を胸に。
その少女は後に、遠くの大都市へと引き取られたと聞いた。あの日の恐怖から救ってくれた、俺の最初の戦友とも言える存在。彼女との別れから10年、その記憶は今も俺の心の奥深くに残っている。
両親を失い、孤独と恐怖に満ちた世界で、剣が俺の唯一の友となった。剣を振ることで、自分を守り、他人を守る力を得た。あの日以来、俺は剣の道を歩み続けてきた。けれども、心の中にはいつも、あの日の恐怖と、失われた両親の愛が渦巻いている。
目覚めたとき、俺は激しい夢から抜け出たばかりだった。両親の悲鳴、村人の叫び声、そして炎に包まれる村の光景。それはいつもの悪夢だ。俺は汗だくで、ほし草のベッドから起き上がる。胸はまだ重く、心臓は激しく鼓動していた。
アイリが王国に行ってから、既に少しの時間が経っていた。彼女からの手紙は、俺の唯一の慰めだった。その内容は日常のことばかりだが、彼女の言葉が俺には何よりも大切だった。王国での生活、彼女の周りで起こる出来事。少し心苦しいけれど、彼女が1年後に帰ってくるという約束が俺を支えていた。
「ジュラークへ、
王国の生活は想像していたよりも忙しいけれど、毎日新しい発見があって楽しいよ。ここには美しい庭園があって、私が歌を歌うと花が咲くんだ。そんな小さな魔法のようなことが起こるの。でも、やっぱりジュラークのそばで、一緒に畑仕事をしていた日々が懐かしいな。
ああ、そうだ。先日、私の歌声を聞いた王様が、とても感動してくれてね。私の力がこの王国に役立っているみたい。それは嬉しいけれど、ジュラークに会えないのは寂しいよ。
でもね、約束する。1年後には絶対に村へ帰るから。その日まで待っててね。
愛を込めて、アイリより」
手紙を読んで、俺はつぶやく。
「アイリ……お前はいつも強いな。王国で頑張っているんだな」
部屋の隅に立てかけた剣を見つめながら、俺はさらにつぶやいた。「お前がいないと、ここは本当に寂しいよ。でも、お前が帰ってくる日を信じてる。」
手紙には彼女の温もりが感じられた。彼女の言葉一つ一つが、遠く離れた彼女の姿を思い浮かばせる。
「アイリが歌で花を咲かせるのか……その光景、見てみたいな」
俺は独り言を漏らす。そして、ふと窓の外を見やり、遠くの空を眺めた。
「王国での生活はきっとキツイだろう。でも、お前なら大丈夫だ」
彼女の手紙を大切に折りたたみ、俺はもう一度心に誓う。
「アイリ、お前が帰ってくるその日まで、俺は強くなる。そして、お前をずっと守るからな」
俺の心の中は、彼女の帰りを心待ちにする気持ちと、彼女がいない寂しさでいっぱいだった。アイリが戻ってくる日を思い描きながら、俺は毎日を過ごしている。彼女と再会するその日まで、俺は強くなり続けることを誓った。
アイリが王国に行って、もう1年が経とうとしている。彼女の力、その特殊な「天歌」の能力が王国で重宝されているって、手紙に書いてあった。彼女の声が傷を癒やし、魔力を増幅させるなんて、まるで魔法のようだ。王国は、その力を誰かに継承させたいんだって。
この世界では、特殊な力を持つ者たちがいる。それを「天魔」と呼ぶんだ。天魔は人それぞれに異なる形を持ち、普通の人には理解しがたい神秘的な力だ。そして、アイリはその中でも珍しいタイプの天魔を持っている。彼女の力は「天歌」と呼ばれ、その声には特別な魔力がある。
アイリが歌うと、まるで周囲の空気が変わる。その声には癒しの力があり、傷ついた者の身体を回復させることができるんだ。さらに、彼女の歌声は魔力を増幅させる効果も持っていて、周囲の魔法を強化することもできる。そんな特別な能力が、王国からの注目を集めたんだろう。
「アイリの力、本当にすごいものだ」
俺は思う。彼女はいつも謙虚で、自分の力を大したことがないように言っていた。けれど、その力は多くの人々を助けることができる。王国はきっと、その力を利用して、何か大きなことをしようとしているんだろう。
だが、俺にとってアイリは、その力を持っているから価値があるわけではない。彼女自身が俺にとって大切なんだ。天魔があるとかないとか、そんなことは関係ない。アイリはアイリだ。ただ、彼女が王国にいる間も、俺は彼女の安全を願ってやまない。
けれど、俺にとっては、アイリがどんな力を持っていようと、それがどうでもいい。彼女は俺にとってただのアイリだ。その力があってもなくても、彼女は変わらない。ただ、彼女のそばにいられないこの時間が、俺を苛立たせる。
「1年の期間って言ったけど、本当に帰ってくるのかな……?」
俺は心の中で疑問を抱く。王国の役に立っている彼女が、本当に村へ戻ってくるのか、不安がよぎる。
「アイリ……お前のことを信じてる。でも、待ってるこの時間が長く感じるよ」
そう呟きながら、俺は手紙をもう一度手に取る。彼女の文字から感じる温かさが、少しでもこの孤独を和らげてくれる。
「待ってるからな、アイリ。無事に帰ってきてくれ」
窓の外を見ながら、俺はそう心に誓う。彼女が帰ってくるその日まで、俺はここで強くなって待っている。アイリのために、そして俺たちの未来のために。
朝が来ると、いつもより早く目覚める。まだ辺りは薄暗い。アイリがいたころは、彼女の声が俺を起こしてたんだが、今はその声もない。ただ、俺一人、静かに起き上がる。
外に出ると、畑仕事を始めるんだ。以前はアイリが手伝ってくれていた。彼女の笑い声、話し声が今でも耳に残っているよ。でも、今はその声がないんだ。俺は、彼女の分まで畑を耕し、作物を世話する。アイリがいたあの頃を思い出しながらな。
畑仕事を終えたら、俺の剣の訓練の時間だ。木を斬ったり、炎の属性を剣に込めたりしてな。剣を振るうことが、俺の心を落ち着かせてくれるんだ。俺の剣技は、もうこの世界でも有数のもの。アイリが帰ってきたときのために、自分をもっと鍛えなければ。
俺の名前は、今や剣士たちの間で広く知られている。幼い頃から剣を握り、一つの目標に向かってひたすらに鍛えてきた。そして今、俺の剣の腕前は、世界中の剣士たちに認められているんだ。
剣士としての俺の特技は、剣に炎の属性を込めること。これは特別な才能で、俺は幸運にもこの能力を持って生まれた。炎の属性は、攻撃力を大きく高める。剣に込められた炎は、どんな強敵も一瞬で灰に変える力を持っている。
この属性の力は、修行や生まれつきの才能によって決まる。剣士の中には様々な属性を持つ者がいるが、炎は最も攻撃的で強力なものの一つだ。そして、俺はその力を自分の剣技に組み込んできた。毎日の修行で、その力をさらに磨き上げている。
俺がこの力を手にしたのは、幼い頃のあの事件からだ。両親を失い、自分を守るために剣を取ったあの時。その時の憤りと絶望が、俺の中に炎のような力を生み出したんだ。そして今、その力が俺の剣の一部となっている。
「アイリ、お前は今、どんな風に過ごしてるんだろうな……」
心配になる。彼女の無事を祈りながら、剣を振り続ける。彼女が戻ってくる日を信じて、今日も一日が終わる。俺の心には、いつもアイリのことがあるんだ。彼女が帰ってくるその日まで、俺はここで待ってる。
あの日、アイリが王国へ行くときに、俺たちは約束したんだ。必ず帰ってくるって。彼女の唇から離れた後の温もり、その感触が今も俺の頬に残ってる。それから、時間はまるで止まってしまったようだ。
俺はその間、様々な仕事をこなした。魔物を倒し、村人を守る。そういうことが俺の日常になっていた。それは、アイリが戻ってくるまでの間に強くなるためだった。でも、心の中では、彼女の帰りをただひたすらに待ち続けていたんだ。
そして、気がつけばもう2年が経っていた。そう、その日がやってきた。アイリが村に帰ってきたんだ。だけど、彼女はもう、以前のアイリじゃなかった。見た目も、心も、まるで別人のように変わっていた。
「アイリ……? お前、どうしたんだ?」
俺は彼女を見つめながら、声をかけた。でも、返ってきたのは、冷たい視線と、見知らぬような言葉だった。彼女の瞳には、かつての温かさや愛情の輝きはなかった。
俺の中で、何かが壊れる音がした。アイリの変わり果てた姿に、俺の心は混乱し、痛みで満たされた。あの約束、あのキス、あの日々が、まるで遠い夢のように思えた。
「アイリ……俺はずっと、お前の帰りを待っていたんだ。なんでこんなことに……」
言葉が詰まる。俺はただ、彼女の変わった姿を目の前にして、絶望を感じたんだ。
愛する妻を寝取られても、天才剣士なので新しい嫁を探そうと思う ワールド @word_edit
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