最終話 探偵は今日も征く!

 数年が経った現在。

 街は復興し、人々の生活は安定し始めた。

 直射日光が当たることがなくなった現在は空調機は必要なく、快適な生活ができる場所だった。

 以前とは違い、まだ舗装もされていない道だが、みんなの頑張りによって道と呼べるものとなっていた。

 建物はビル群だったものは無くなり、平家の家が多く高くても二階建てであった。

 それもそのはず、国民の数が獣人と旧人類を合わせても三千人程度しかいないのだから。

 逆に三千人でよくここまで復興したものだといえる。

 街の中で一軒の二階建ての建物があった。

 一階はオフィスで二階が居住スペースとなっており、玄関には『獣人探偵事務所』と看板が掲げられてあった。

 社員数は二人。

 それも夫婦でやっていると街では有名なところである。

 中では今では珍しい木の机に向かって、新聞を拡げる人がいた。

 彼は獣人で探偵をしている。

 名前はアドラ。

 奥の給湯室の方からもう一人の獣人が出てくる。

 彼女は助手のノナ。

 この二人は夫婦で日々街の困り事を解決する探偵である。

 便利屋とも言えるのだが。


「アドラさん、今日は平和だね。」


「そりゃあ、毎日事件が起きては困るだろう?俺たちは儲かって良いんだが……。」


「今日はお散歩にでも行かない?」


「そうだな。たまには事件以外でも外に出ようかね。」


 アドラは背伸びをしてトンビコートを羽織る。

 彼には右腕がない。

 この国が崩壊する前であれば再生技術もしっかりしていたという事で治療はできたのだが、失った時期が非常に悪かった。

 そのため、彼の腕は一生左腕だけの生活になってしまったのだ。

 しかし、それを一度も不便に思った事はなく、気にもしていない。

 ノナがいる事でアドラは仕事も生活も変わりなくできた。

 逆にノナは自身のせいでアドラが腕を失ってしまった事に罪悪感を感じている。

 新人類の計画していた最後の事件でドラゴンとなったニンゲンに喰われかけた時、アドラがノナを庇い右腕を犠牲にしたのだ。

 コートを着るのに手間取っているとノナが背後に周り袖を通したり肩の位置を合わせる。

 そして、鹿撃帽を被せて満足そうな笑みを浮かべる。


「すまないね。コートはそろそろやめた方がいいのかもしれないね……。」


「だ、だめです!コートのない探偵なんて全然それっぽくない!わたしが手伝うのでコートは着てください!」


「そ、そうなの?うーん……今日はとりえず着ていこうか。……あれ?無いな……。」


「これでしょ?はい、あーん。」


 アドラはラムネ棒を咥えると左手を差し出す。

 ノナは嬉しそうに手を繋いで探偵事務所から出る。

 数年が経った程度では以前のような高度な技術は復興できない。

 車両を全て管理するコンピューターも地震の影響で建物諸共壊れてしまい、走ることができなかった。

 皮肉にも交通災害ゼロがここ最近達成できている。


「前のような生活に戻るのはいつになるかな?」


「うーん、以前のようにとはならないかもね。あの生活ができたのは新人類の力があった事で実現したものだし。獣人の器官が保存してあるところを掘り当てるまでは大規模工事なんてできないだろうし……。」


「……獣人の器官を使うのは嫌では無いのですか?」


「……もちろん使うのは嫌だよ。でも、役にも立てずに死を待つだけは彼らが嫌がるだろう。新人類の手でなく、俺たちの手で彼らを使ってこの国を救ってやりたい。」


「そうだね。声でも出してくれたら見つけてあげられるんだけどなぁ。アドラさんの鼻でもわからないんですよね?」


「うん、残念ながらニオイは漏れでてないからね。と言う事はまだ保存している装置は壊れていないって証明だね。」


「早く見つけてあげようね。」


「そうだね。それに、それまでは島に描いた刻印の呪文で見つからないように暮らしていかないとな。」

 

 アドラはポンポンとノナを撫でると再び街中を散歩する。

 すると人だかりが出来ていたのでアドラは野次馬をしに行く。

 すると張り紙がされてあり、よく見ると『事件』と書いてあった。


「ふむふむ……。雪山の別荘で殺人事件が起こった、か……。物騒だね。」


「アドラさん行こう!これを解決してあげなきゃ、みんなは安心できないよ!」


「き、キミはやる気だねぇ。」


 アドラはやる気満々なノナに少し引いていると周りの人々にアドラだと気付かれる。

 

「アドラさん、行ってきてくださいや。」


「そうよ!貴方が解決しなきゃ、誰が解決するの?」


「みんなー!英雄アドラが雪山事件解決するってよ!」


 人々はアドラが事件解決するのを輝いた目で見ていると、何故アドラに期待しているのかわからなかった。

 すると、少年が一冊の本をアドラに見せると頭を抱えた。


「ゼクスのやつ……。勝手に人の本を出しやがって……。」


「こうなっては仕方ないね……。アドラさん行こう!」


「寒いところ苦手なんだけどなぁ……。しょうがない、みんな行ってくるよ。」


 人々の応援を背にアドラたちは雪山へと歩いていく。

 大きなため息をついて、真っ直ぐと目標に向かって指を指す。

 ノナは首を傾げて疑問に思っていると、アドラは気合を入れたような声を出す。

 

「名探偵アドラ、出勤開始だ!」


「アドラさん……。それ、やっぱりかっこよくないよ?でも、行こう!」


「えぇ……。」

 

 アドラとノナは手を繋ぎ歩いていく。

 彼らは今日も街のみんなの困り事を解決していく。

 それが彼らの探偵という仕事なのだから。


――――――――――――

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 街のみんなの救世主『獣人探偵事務所』!

 ご相談お待ちしております♪

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 ケモノの探偵屋 終

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