第2話 緊急会議
観測所には錚々たるメンバーが集まっていた。
と言っても、第一隊、二隊のメンバーと魔法機関の重役の紫乃雪美(雪乃の母)や赤司家当主の裁など全員面識のあるメンバーではあるが。
上田さんや松本さんに軽く会釈をする。
終治も来ており、アイコンタクトで挨拶をした。
「緊急会議を始めさせていただきます」
話し始めたのは唯香さんだった。
「皆様もうすでにお知りになっている方もいらっしゃるかもしれませんが、旧北海道にてブレイクが発生しました」
その発言に観測所は騒然となる。
終治もまた驚いていた。
「現時点ではまだ、魔獣の大移動は確認されていませんが、先日の一件、Cクラスの魔獣がエリアA付近まで現れるなど兆候とも取れる現象が発生しています」
「Cクラスの魔獣がエリアAに近づいた事例は過去にも何件かあるだろう!それだけでは根拠たり得ないのではないか?」
「おっしゃる通りですが、その前例にしてもSクラス相当の魔獣の出現やAクラス魔獣同士の激しい戦闘から逃れるためと言った危険性のある状況下で起きたことです。決して楽観視すべきではないと私は考えます」
「むうう、それは……そうだが、それにしてもブレイクとは……」
今唯香さんに突っかかっているのは機関のお偉方だったか……?
確か相当な金額の出資をしている方だったと記憶しているが、そんな人がなぜこの場に?
「まあ、亀沼君落ち着きたまえ。年配の我々が狼狽えていては実務に当たる若い者たちに示しがつかぬ」
「はっ、裁殿。その通りですな。失礼。取り乱しました。続けてください」
さすが赤司家当主の赤司裁様だ。
もう齢100を超えているというのに全く衰えないその貫禄。
家の爺さんもこのくらい落ち着いてくれたらいいんだが……。
「では、続けさせていただきます。このような事態を放置しておくわけにはいかないため我々未開域開発特殊部隊第一・二隊が状況確認に赴きます」
まあ、そうだろうな。
急に今日集められたことから推察すると、もう早速行くという方向なんじゃないだろうか。
「申し訳ありませんが時間はありません。今日早速出立します」
隊員の面持ちが変わる。
雰囲気が倍ほどに引き締まった。
「どのような危険が待っているかわかりませんので、各隊員分の魔具を用意しました。あるとないとでは大きな違いがあると思います。皆様の魔法特性に合わせて私が作成いたしました。お使いください」
!!!???
9人分の魔具だって!?
「そ、それは本当でしょうか?しかも私たちの魔法適正に合ったものが!?」
「はい。元より開発部隊の皆様には魔具を支給させていただく予定でした」
それにしたってこのタイミングに合わせての予定ではなかったはずだ。
唯香さん相当無理をしているんじゃないか?
よく見れば、いつもより化粧が厚い気もする。
「ん、んんっ!魔具を持ってきますので龍仁くん、手伝ってもらえるかしら?」
「え、あ、はい。わかりました」
わざとらしい咳払いの後、俺は唯香さんに連れられ厳重に管理されている保管庫にやって来た。
「ここよ、10分でパスワードが変わるから急いで入って」
急かされるままに保管庫に入るとガチャりと扉が閉められた。
「龍仁くん、徹夜明けの女性の顔をあんまりじろじろ見るものじゃないわよ」
やっぱりそうだったか。
「いや、確かに申し訳なかったですけど気になりますって。だってこれから任務なのに、前日に唯香さんに無理させるなんて……」
「ふふ。あなたに心配してもらえただけで元気が出たわ。ごめんね、一人でもよかったんだけど元気が欲しくてあなたを連れてきちゃった」
「それは全然気にしてませんよ。あの中じゃ俺と終治と唯香さんが圧倒的に年下ですし仕方ないです」
「あなたたちの中に入ると私はもうだいぶ年上じゃない?」
「4歳差なんてあってないようなものですよ!裁様を見てください。あの方100歳を超えてらっしゃるのに全然60代くらいにしか見えないじゃないですか!」
「それもそうね。でも4歳差はあってないようなもの……ね。ふふ」
何だか悪寒が……直感的にだが、ここに夏葉や花凛がいなくてよかったと思う。
「さて、あんまり待たせても悪いし、さっさと持って戻りましょうか。あ、龍仁くんの魔具は指輪のやつよ」
深い色で光る紅玉があしらわれたひときわ目立つ指輪が目に入る。
「なんかこれだけすごい力入ってないです?」
「当たり前でしょう?あなたのために作った指輪だもの」
なるほど……これは……。
「どうやら、この間は青砥の娘とお泊りして、今日は自宅で紫乃ちゃんとお泊りしてたんだって?」
「ッ!ど、どうしてそれを……」
「お姉さんの情報網を舐めちゃだめだよ?」
さすがは分析担当。
適切な情報を必要な時に使えるように情報収集を欠かしていないんだな……。
「まあ、いいんだけどね?家柄的には十色同士が釣り合いとれてるだろうし。でも実績だけなら誰にも負けない自信があるよ」
「ま、まあ、そういう話は任務が終わってからにしましょう。さあ、戻りますよ!」
「あー逃げた。まあ、そうね。行きましょうか」
そうして、なんとか唯香さんとの密室を乗り切った俺は観測所の方へ戻った。
「こ、これが、魔具……」
ここにいるような超一流の魔法使いでも魔具を持っていない人は多い。
終治もそのようで、どことなくうれしそうだ。
「さて、魔具もいきわたったことですし、各員準備を整え2時間後に旧北海道地区へ出立しましょう。それではこれにて解散とさせていただきます」
「たつひ――」
終治が俺に声をかけようとするより先に俺の前に立ちはだかった人がいた。
「龍仁さん。少しお話よろしいかしら?」
雪美さん……。
「はい。もちろんです。」
横目に親父を見るとにやにやした顔をしており、無性に腹が立った。
「そうですか。終治さんごめんなさいね。少しで済みますから」
「あ、はい。全然お構いなく」
終治も何かを察して、目線を逸らした。
そして俺は研究部の方の主席研究員室に連れていかれた。
当代最強の責任 嵐山田 @arasiyamada
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。当代最強の責任の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます