8月11日、光る君へ(女性版)

「8月11日、光る君へ(女性版)」


【登場人物】

美雪(みゆき):真っ直ぐ元気な女子高校生

夏帆(かほ):美雪に振り回される女子高校生だった。現在27歳


―本編―

~日差しが照りつける夏。学校からの帰り道~


美雪:「ぐーちょきぱーで、ぐーちょきぱーで、なにつくろー、なにつくろー。右手はパーで左手もパーで」


じっと夏帆の顔を見つめる美雪


夏帆:「・・・なに」


美雪:「なんだと思う?」


夏帆:「・・・ザビエル?」


美雪:「正岡子規!」


夏帆:「手ぇ関係ないの!!グーチョキパーで何か作ってよ!!」


美雪:「えぇ・・・」


夏帆:「なんで私が頭おかしいみたいな顔されなきゃいけないの」


美雪:「わかった、次はちゃんとやるわ。任せて」


夏帆:「ほんとか?」


美雪:「ぐーちょきぱーで、なにつくろー、なにつくろー。右手はチョキで、左手もチョキで目潰し目潰し!!」


夏帆:「っうわ!あっぶな!!!」


美雪:「これを避けるとはお主やりおるな・・・」


夏帆:「バカなの?!あんたバカなの?!!?」


美雪:「なんで?」


夏帆:「手遊び歌で目ぇ潰しに来るやつがどこにいんだよ!!」


美雪:「ここにいる」


夏帆:「右手はチョキで、左手もチョキで・・・ふんっ!(美雪に目潰ししようとする)」


美雪:「っぉあ!あんただって目潰しにくるじゃん!!!無言はダメ!!反則反則!!」


夏帆:「くそ、えぐれなかったか」


美雪:「すっごい怖いこと言ってない?!あたしの目をえぐろうとしたの?!あんたの方が怖いって」


夏帆:「次は逃がさねぇ」


美雪:「やべぇ、このままだと殺られる・・・!こうなったら・・・!右手はチョキで、左手はパーで・・・」


夏帆:「(攻撃が来ないか警戒する)」


美雪:「・・・」


夏帆:「・・・え、なんもしないの」


美雪:「ねぇ、チョキとパーで何作れる?」


夏帆:「は?目潰しからのビンタとかあるじゃん」


美雪:「は?何も作ってないじゃん」


夏帆:「どの口が言ってんだてめぇ」


美雪:「だってさだってさ!グーとチョキでカタツムリ、グーとグーで最高に可愛いあたし、パーとパーで正岡子規じゃん」


夏帆:「そこまでするならチョキとグーもボケろ。正解が異質みたくなってるでしょ」


美雪:「でさ、チョキとパーって出てこなくない?」


夏帆:「流しそうめんくらい綺麗にスルーするじゃん。・・・まぁ、そう言われればそうかも?」


美雪:「ちょっと夏帆やってみてよ」


夏帆:「おん。グーチョキパーで、グーチョキパーで、何作ろー、何作ろー。右手はチョキで、左手はパーで・・・」


美雪:「・・・」


夏帆:「(ちょっと考える)・・・あっはさみ」


美雪:「おぉ!確かに!」


夏帆:「あとは・・・ブランコとか?」


美雪:「確かに確かに!あっ!チョキを反対にすれば東京タワーっぽくない!」


夏帆:「・・・あっ、そのままチョキの指を交互に動かしてみて」


美雪:「ん、こう?あっ」


(同時に)

夏帆:「ヒト」

美雪:「人生じゃん!」


夏帆:「人生つった?」


美雪:「うん」


夏帆:「壮大になったねぇ」


美雪:「よくない?子供とかの前でさ、こう、ぐーちょきぱーで、ぐーちょきぱーで、なにつくろぉなにつくろぉ。右手はチョキで、左手はパーで(突然いい声で)人生」


夏帆:「やだよ」


美雪:「こうやって道がないと人は歩けないんです。だから無駄なことなんてない。それが人生なんだよってさ」


夏帆:「手遊び歌で人生語られても困るって」


美雪:「あたしはいいと思うけどなぁ」


夏帆:「あっ、もう1個思いついたわ」


美雪:「なになに?」


夏帆:「ちょっと私の隣来て」


美雪:「うん」


夏帆:「じゃあいくよ」


美雪:「おうよ」


夏帆:「グーチョキパーで、グーチョキパーで、何作ろー、何作ろー。右手はチョキで、左手はパーで、(いい声で)初めての痴漢(右手はピース、左手で美雪の胸を揉む)」


美雪:「なるほどぉ!ってあたしの胸を揉むなぁ!!」


夏帆:「いい胸だなぁ、手からちょっと溢れるのがいいねぇ」


美雪:「この変態!気持ち悪っ!・・・仕返しだっ!初めての痴漢!!げっへっへ、お胸はどこだぁ?」


夏帆:「まぁしょうがないから?特別に?揉まれあげてもいいよ?」


美雪:「ん~?これは板かなぁ?」


夏帆:「おっ?喧嘩するか?あんたのそのたゆんたゆんな胸、もいであげようか?おん?」


美雪:「もげるもんなら?もいでみなよ。あたしは板には興味ないのさっ!(夏帆のお尻を揉む)」


夏帆:「いだだ!!お尻揉むな!!」


美雪:「おっほっほ、こっちは柔らかいねぇ!ほれほれぇ!」


夏帆:「ばっっか!!力加減考えろ!!離れろ怪力バカ!!!」


美雪:「あたしぃ、初めてだからわかんなぁい!」


夏帆:「このやろっ!!(美雪の胸を揉む)」


美雪:「いたたたたっ!!ねぇ!!夏帆は知らないかもしれないけど、胸って揉まれたら結構痛いんだよ?!」


夏帆:「さっきから一言多いんだよ!!このアマっ!」


美雪:「痛いって!!お口が悪いですことよ!!」


夏帆:「わたくしから手を離していただくまで揉みしだきますわ!!」


美雪:「ではわたくしも揉み揉みさせていただきます!!」


夏帆:「いたああああぁい!!痛いですわよ!!この怪力女!!」


美雪:「うるさいですわよ!胸なし女!!」

夏帆:「はぁ?!胸はあるわ!!ふざけんな!!!」


美雪:「・・・っふふ、あっははは!」


夏帆:「ははっ、あはははっ」


~二人共揉むのをやめる~


夏帆:「はぁ~くだらないっ」


美雪:「ふふ、ほんとだよ。なにこれ」


夏帆:「チョキとパーでできること」


美雪:「それが初めての痴漢~?ないわ」


夏帆:「人の胸を板って言った人に言われたくないね」


美雪:「だって事実じゃん」


夏帆:「また揉まれたいの?」


美雪:「痛いからいやでぇす。やめてくださーい」


夏帆:「お嬢様口調も意味わからないし」


美雪:「お嬢様が胸とお尻揉み合ってるの見たくないよ」


夏帆:「しかもエセお嬢様ね」


美雪:「どっちも庶民だろうなぁ」


夏帆:「同人誌でもそんな展開見ないわ」


美雪:「確かに。・・・これさぁ、いっぱい人集めれば連鎖できるんじゃない」


夏帆:「なんの?」


美雪:「初めての痴漢連鎖」


夏帆:「何そのパワーワード」


美雪:「だって1列に並べば女の子のおっぱいとお尻揉み放題よ」


夏帆:「思春期男子みたいなこと言う」


美雪:「輪になればループ入るし」


夏帆:「痴漢無限ループ?やだわぁ」


美雪:「女性限定だね」


夏帆:「じゃないと地獄だよ。てか女性限定で痴漢連鎖しましょう~って言って集まる?」


美雪:「意外と来るんじゃない」


夏帆:「えー」


美雪:「合法的に揉めるなら揉みたいじゃん!」


夏帆:「そうかなぁ?」


美雪:「さっきおじさんムーブしてたのに?!」


夏帆:「あれはノリだよ」


美雪:「へぇ。あたしは素直なので、これからも許される限り夏帆のお尻揉みたいです!」


夏帆:「いやです」


美雪:「だめか~!じゃあこれが最初で最後の痴漢だ」


夏帆:「まさか痴漢する日が来るとは思わなかった」


美雪:「普通は良くないからね」


夏帆:「初めての痴漢が美雪でよかったわ」


美雪:「改めて聞くと強すぎる語感。でも、それってどういう意味?」


夏帆:「知らない男性とかにされたらトラウマになっちゃうもん」


美雪:「それはそう。じゃあ、あたしは初めての女ってわけだやったー!」


夏帆:「そこ喜ぶところ?」


美雪:「夏帆の初めては全部貰いたいからね」


夏帆:「ほーん」


美雪:「ねぇ!幼馴染に向ける視線じゃないよ!」


夏帆:「幼馴染なら、もっとかっこいいイケメンがよかったなぁ」


美雪:「なんだよなんだよぉ、ナイスバディなあたしじゃ不満ってことぉ?」


夏帆:「別にそうは言ってないでしょ」


美雪:「あたしはこーーんなに夏帆のこと大切にしてるのに!」


夏帆:「ありがとー」


美雪:「棒読みーー!!なにもありがたいって思ってないでしょ!」


夏帆:「ソンナコトナイヨー」


美雪:「んもうっ!悲しくなったからアイス買いに行こっと」


夏帆:「私、ハーゲンダッツのイチゴね」


美雪:「夏帆も一緒に買いに行くんだよっ!(夏帆を引っ張る)」


夏帆:「っと、わかったよ」


美雪:「てか、サラッとハーゲンダッツって言った?」


夏帆:「うん」


美雪:「うん、ってそんな真顔で言われても困りますよお姉さん」


夏帆:「あんたなら何も考えずに買いそうだと思って」


美雪:「あたしの事何も考えないバカだと思ってる?!」


夏帆:「グーチョキパーで正岡子規作ってるやつはバカでしょ」


美雪:「バカじゃないですぅ、人が思いつかないことができるっていう天才ですぅ」


夏帆:「はいはい、バカと天才は紙一重」


美雪:「そんな風に言うとハーゲンダッツ買ってあげないよ!」


夏帆:「・・・買ってくれんの」


美雪:「今年の夏帆の誕プレでいいなら」


夏帆:「いいよ」


美雪:「よくないよ!!」


夏帆:「なんであんたがツッコむの」


美雪:「だって!あたしら女子高校生じゃん!JKじゃん!!もっと欲張ろうよ!ハーゲンダッツで満足するのは勿体ないじゃん!!」


夏帆:「じゃあ彼氏ちょうだい」


美雪:「・・・」


夏帆:「ごめんごめん。今のは私が悪かった。そんな顔しないでよ。ハーゲンダッツでいいからさ」


美雪:「ほんとにいいの?」


夏帆:「ほら、私の誕生日ってさ、知っての通り夏休みど真ん中なわけよ。しかも謎の祝日になったし。山の日って、もっと他にあったでしょって思うんだけどさー。

で、毎年祝ってくれるのあんたくらいだから貰えるだけで嬉しいってゆーか」


美雪:「それを聞いちゃうと余計ハーゲンダッツじゃ勿体ないよ」


夏帆:「別にいいって。どうせ明日は例年通り一緒に過ごすでしょ。その気持ちだけで充分だよ」


美雪:「そう?」


夏帆:「うん。正直、今、彼氏欲しいとかもないからなー。美雪といるのが一番楽」


美雪:「えへへ、嬉しいこと言ってくれる」


夏帆:「ね、お互いの誕生日祝うようになって結構長いよね」


美雪:「中学の時からだから今年で五年目かな」


夏帆:「マジ?もうそんな経ったか」


美雪:「早いね」


夏帆:「五年も祝い続けてんのか~」


美雪:「そうだよ」


夏帆:「どうする?おばさんになっても二人で祝い続けてたら」


美雪:「いいじゃん。老人ホーム一緒かもよ」


夏帆:「えーなにそれ」


美雪:「あたし、老人ホーム入る時は夏帆を引きずり込むって決めてるから」


夏帆:「あっはは、そんなの初めて聞いた」


美雪:「初めて言ったもん。そんで本気だから」


夏帆:「面白いじゃん、いいよ。一緒に老人ホーム行こ。あっ、さすがに彼氏ができた時はそっちを優先してね」


美雪:「えー」


夏帆:「えー、じゃないよ。好きな人を優先するのは当たり前でしょ?」


美雪:「私に恋人出来るかなぁ」


夏帆:「できるできる。だって美雪可愛いもん」


美雪:「夏帆の方が可愛いよ?」


夏帆:「はいはい、そういうのはいいから。どっちも可愛い。それでいいでしょ?」


美雪:「うん。夏帆に恋人できたら教えてね!結婚式も呼んでよ!」


夏帆:「言うし呼ぶに決まってんじゃん」


美雪:「夏帆のウェディングドレス姿楽しみだなぁ。絶対似合うんだろうなぁ」


夏帆:「私は美雪のウェディングドレス姿も見たいですけど~?」


美雪:「あたしは・・・多分結婚しないよ」


夏帆:「なんで?」


美雪:「んー、そういう画が見えないから、かな」


夏帆:「ふーん、そっか。でもまぁ、人生何が起こるか分からないし、案外美雪の方が先に結婚してるかもよ」


美雪:「それはないと思う」


夏帆:「そう?」


美雪:「だって、あたしは幼馴染の夏帆が一番好きだもん」


夏帆:「えー?じゃあ結婚しちゃう?そしたら二人でウェディングドレス着れるし」


美雪:「いいの?」


夏帆:「お互い結婚相手が見つからなかったらね」


美雪:「じゃあ見つからなくていいや」


夏帆:「いや、よくないよくない!ちゃんと美雪を大切にしてくれる人見つけないと」


美雪:「・・・夏帆もね」


夏帆:「うん」


美雪:「もし、あたしに恋人出来たとしても、夏帆の誕生日はお祝いするからね!なんなら死んでも祝い続ける」


夏帆:「はぁ?」


美雪:「幽霊になって「誕生日おめでとう~!まだこっち来ちゃダメだぞ~結婚はしたか~」って出てきてやる」


夏帆:「愉快な幽霊だな」


美雪:「じゃあ墓参りしてる時に後ろから「サプラァイズ」の方がいい?」


夏帆:「何年後の話をしてるの」


美雪:「結婚の話もしてたじゃん?未来を見据えるの大事じゃん?」


夏帆:「結婚はともかく死後は先すぎるって!私達まだ高校生だよ」


美雪:「いつ死ぬかはわからないじゃーーん。今だって意味わからん病気流行ってるんだよ?」


夏帆:「光源病(こうげんびょう)ね。身体が光って死ぬとかいう」


美雪:「そうそう。おかげでこんな暑い中マスクしてんだから」


夏帆:「それなぁ。まぁじでメイク崩れるから外したい」


美雪:「あたしは最近目だけやってるから楽」


夏帆:「それいい、私も明日から目だけしよ」


美雪:「身体が光って死ぬってどんな感じなんだろうね」


夏帆:「さぁね。幸い私の周りでかかった人はいないけど、死亡者はどんどん増えてるからね」


美雪:「数字で現実感はあるけど実感はないなぁ。不思議な感じ」


夏帆:「警戒するに越したことないけど、未来を考えて不安になるのも嫌だよね~。せっかくなら楽しいこと考えたい」


美雪:「初めての痴漢やったり?」


夏帆:「そうそう。連鎖は絶対しないけど」


美雪:「次やったら二度目の痴漢になるのかな」


夏帆:「常習犯になるのはまずくない?」


美雪:「夏帆のお尻揉むのはだめ?」


夏帆:「揉むたびに前科増えるけどいい?」


美雪:「じゃああたし、既に前科一犯ってこと?!」


夏帆:「うん」


美雪:「うっわ、ひどい。それで言ったら夏帆も前科一犯だよ!」


夏帆:「女子の胸揉むのはあいさつでしょ」


美雪:「じゃあお尻揉むのも許されるでしょ」


夏帆:「それは違う」


美雪:「基準どこ?!もー!私の以外のおっぱい揉んじゃやだよ!」


夏帆:「えー」


美雪:「揉んだら夏帆のお尻もぐからね」


夏帆:「怖すぎ。

・・・てか行かないの」


美雪:「え?」


夏帆:「アイス」


美雪:「あぁ!そうだった!!」


夏帆:「ほら、買いに行くよ。暑すぎて無理、溶ける」


美雪:「うん!

(ふと立ち止まり)太陽が眩しいねぇ。手ぇの平を太陽に~透かして見~れ~ば~」


~歌いながら太陽に手をかざす美雪~


美雪:「・・・。ねぇ見て!夏帆!あたしの身体光ってる!!」


夏帆:「(美雪の方は見ずに歩き出しながら)あーはいはい光ってますねー」


美雪:「ほんとに光ってるんだって!見てよ!」


夏帆:「おいてくぞ~」


美雪:「あっ待ってよ!!」


~間~


~アイスも食べ終わり、分かれ道まで来た二人~


夏帆:「もうこんな時間なのに、まだ明るいねぇ。マスクあっつい」


美雪:「だねぇ。苦しすぎる」


夏帆:「ま、アイスも美味しかったし満足満足。結局ハーゲンダッツありがとうね」


美雪:「ううん、お誕生日様のお願いだったからね」


夏帆:「まだ誕生日じゃないわ、明日だわ」


美雪:「誤差誤差」


夏帆:「じゃあ、あんたの誕生日もハーゲンダッツ決定ね」


美雪:「あたしの誕生日冬なのに!?アイス!?まぁ、もらったら食べるけど」


夏帆:「いいんだ」


美雪:「あったりまえじゃん~!夏帆からもらったものは何でも嬉しいもん!」


夏帆:「はいはい。じゃあ私こっちだから」


美雪:「うん。ばいばい夏帆」


夏帆:「うん、また明日ね~」


美雪:「(夏帆の背に向かって)ねぇ!あたし、夏帆のこと、誰よりも大好きだよーー!!」


夏帆:「(振り向いて)どうしたの急に」


美雪:「あと!誕生日おめでとう!!17歳!!」


夏帆:「ふふ、まだ16だわばーーーか!!!」


美雪:「えへへ」


~夏帆のことを見送る美雪~


美雪:「(ぽつりと)じゃあね、夏帆」


~間~


~10年後、大人になった夏帆~

~場面は美雪の墓の前~


夏帆:「よっ、久しぶり。私のスーツ姿どうよ。見慣れないでしょ。私は見慣れた。気付けばスーツが似合う大人になったよ。・・・嘘。似合うかどうかはわかんないけど毎日着てるから着慣れたよ。

・・・あんたは10年経っても制服のままだね~。そりゃあそうか。


ねぇ、今日は何の日か知ってる?そう、私の誕生日でありあんたの命日。

あの日、あんたから訃報っていうとんでもないプレゼントもらってさ。未だにあの日を超える誕生日はないよ。


あの時さ、いつになっても集合場所に来なくて、メッセージ送っても既読つかなくて。不安になってあんたの家行ったら電気ついてなかったの。入れ違いかなって帰ろうとしたらあんたの親御さんに会って。そしたら美雪は亡くなったって聞いて。訳わかんなくて。


その後のことはよく覚えてないけど、しばらくしてから聞いたの。美雪が病気だったって。そんなこと私全然知らなくてさ。聞いた後も信じられなかった。だってあんたそんな素振りなかったじゃん。いや・・・(逡巡し言葉を飲み込む)


私さ、あんたがいなくなったことに慣れないまま大人になっちゃった。結局ここに来るのも10年かかっちゃった。来るのが遅くなってごめんね。


今日は伝えたいことあって来たんだ。

あのね、美雪。


私、結婚したよ。


来月結婚式もあげるんだ。ウェディングドレス着るからさ。見ててよ。


あと、これ。あんたがあの日くれた本当の誕プレ今でもつけてるの。ハーゲンダッツよりも高いもん準備してんじゃないよばか。準備してんだったら直接渡してよ。

なんで、なんであんたの親御さんからもらわなきゃいけないのさ。私にもお返しさせろっつーの。


・・・ねぇ、今日は私の誕生日だよ。死んでも祝い続けるって言ったじゃん。

・・・祝ってよ、美雪」


美雪:「10年・・・か」


夏帆:「え?」


~振り向くと10年前の姿と変わらない美雪が立っている~


夏帆:「な、なんで」


美雪:「サプラァイズ」


夏帆:「美雪・・・なの?あんた、本当に美雪なの?」


美雪:「そうだよ」


夏帆:「生きてたの?」


美雪:「まっさかぁ。もうとっくに死んでるよ」


夏帆:「でも」


美雪:「ぐーちょきぱーで、ぐーちょきぱーでなに作ろ~。なに作ろ~。右手はチョキで左手はパーで二度目の痴漢!」


夏帆:「っ」


~美雪の手は夏帆の身体をすり抜ける~


美雪:「ほら、夏帆に触れない。もう痴漢もできない。そういうことだよ」


夏帆:「・・・」


美雪:「久しぶり、夏帆」


夏帆:「美雪っ!」


美雪:「なぁに」


夏帆:「私、私さ」


美雪:「ふふ、場所を変えようか。ここだと他の人も来そうだから」


夏帆:「なんでそんなに冷静なの」


美雪:「あたしはずっと見てたから」


夏帆:「ずるい」


美雪:「そうだね」


夏帆:「私はまだ状況がわからないよ」


美雪:「そりゃあ、墓参りに来たら本人と会話してんだからねぇ」


夏帆:「なんかのドッキリじゃないの?」


美雪:「違うよぉ!本当にあたしだよ!どうやったら信じてもらえるわけ?・・・あー!カメラ探してもないからね!」


夏帆:「ないんだ。あったら安心できる気がするのに。ただ、こんなふざけたことを企画したやつはぶん殴ってやる」


美雪:「誰もいないよ!!あたしだけだから!!とりあえずその拳を下ろして!」


夏帆:「・・・わかった」


美雪:「ほら、このままだと夏帆が怪しい人みたくなるから別の場所行くよ。ついてきて」


夏帆:「あ、ちょ、ちょっと待てよ!(追いかける)」


~間~


美雪:「こっちこっち」


夏帆:「ここって」


美雪:「初めての痴漢をした場所だよ!」


夏帆:「間違ってないけど言い方」


美雪:「だって事実じゃん」


夏帆:「そうだけど。・・・高校生振りに来たわ」


美雪:「言っておくけど、先に痴漢始めたのは夏帆だからね」


夏帆:「そうだっけ」


美雪:「そうだよ。あたしがこんなヘンテコなこと思いつくわけないじゃん」


夏帆:「右手がパーで左手もパーで?」


美雪:「正岡子規!」


夏帆:「・・・あんただけにはヘンテコなんて言われたくない」


美雪:「えぇー!あたしのはちゃんと実在するのに!」


夏帆:「だって、だいたいの人が思いつく正岡子規、横顔じゃん。両手のパーどこいったの」


美雪:「え?普通に下ろしてる」


夏帆:「意味ないじゃん!」


美雪:「手を使わなきゃいけないなんてルールないでしょ?」


夏帆:「使わなきゃいけないんだよ!あんたも歌ってたでしょ!ぐーちょきぱーでなに作ろうって!グーとチョキとパーで何かを作る歌なんだよ!なのにただ下ろしてるだけだと意味ないんだって」


美雪:「でも、初めての痴漢にはインパクトは負けるよ」


夏帆:「争うとこそこ?」


美雪:「だってずるいじゃん!右手はチョキで左手はパーで(いい声)初めての痴漢、はさぁ!」


夏帆:「正直、あの時なんでそれが思いついたか私もわかんない」


美雪:「衝撃だったもん」


夏帆:「初めての痴漢連鎖」


美雪:「痴漢ループ」


~笑い合う~


夏帆:「あっはは、改めて口に出すとひどい」


美雪:「ははっ、ほんとにね」


夏帆:「はぁー、なんだか懐かしい。あの頃に戻ったみたい」


美雪:「ほんとだね」


夏帆:「本当に美雪なんだ」


美雪:「やっと信じてくれた?」


夏帆:「うん。私の親友の美雪」


美雪:「親友、ね」


夏帆:「どうしたの?」


美雪:「いや、なんでもないよ」


夏帆:「そう?」


美雪:「そういえば、今はもうマスクしてないんだね」


夏帆:「あ、あぁそうか。あの時はマスクしてたね。懐かしい」


美雪:「あん時は地獄だったよねー。暑すぎて死ぬかと思った。あっもう死んでたわ」


夏帆:「笑えないんですけど」


美雪:「笑ってよー!」


夏帆:「じゃあ聞くけど、逆の立場なら笑えるの?」


美雪:「大笑いするね」


夏帆:「それもどうなの」


美雪:「まぁ!ひっさびさに可愛い夏帆の顔見れて嬉しいよ!やっぱりマスクしてない夏帆が一番可愛いし、光源病も落ち着いたみたいで何より!」


夏帆:「時間はかかったけど、なんとかね。治療法もワクチンもあの時よりはある。完全になくなったわけではないけど、マスクをしてる人の方が今は少ないよ」


美雪:「平和が戻ったってことだ」


夏帆:「そうだね」


美雪:「・・・」


夏帆:「・・・」


~会話が途切れる~


夏帆:「私さ、あんたに聞きたいことたくさんあるの」


美雪:「うん。何でも聞いて」


夏帆:「どうして死んだの」


美雪:「わぁお、ど真ん中ストレート」


夏帆:「ごめん、それしか言葉が浮かばなくて」


美雪:「どうして死んだか、ねぇ」


夏帆:「・・・」


美雪:「あたしの家族から話は聞いてる?」


夏帆:「・・・病気で死んだって」


美雪:「うん、病気だよ。それが答えだけど・・・納得はしてなさそうだね」


夏帆:「・・・あんたが死んだ原因ってさ」


美雪:「光源病だよ」


夏帆:「・・・やっぱり」


美雪:「うん。ピカピカ~って光って死んだ」


夏帆:「・・・」


美雪:「あれすごいんだよ!急に身体の力が入らなくなって、ふと手を見たら、光ってるの。ちょっと淡く光ってて、綺麗だなって思った」


夏帆:「・・・」


美雪:「でも同時に、これ目閉じたら死ぬなって思った。だから頑張って夏帆へのプレゼントを引っ張り出して、机に置いたよね。用意しといてよかったよ~。あとは家族に託したんだけど・・・(夏帆の腕を見て)ちゃんと渡してくれたみたいでよかった」


夏帆:「・・・うん」


美雪:「ねぇ、夏帆」


夏帆:「なに」


美雪:「あの後、光源病にならなかった?」


夏帆:「・・・かからずにここまで来たよ」


美雪:「よかったぁ!あたし、夏帆にうつしてたらどうしようってそれだけが心残りだったの。あたしのせいで夏帆が死ぬのは嫌だったから」


夏帆:「私のせいじゃないの」


美雪:「夏帆?」


夏帆:「美雪が死んだのは、私のせいじゃないの」


美雪:「だから光源病のせいだよ。夏帆はなにも」


夏帆:「(被せて)あの時、もう症状が出てたんでしょ」


美雪:「・・・」


夏帆:「光ってるって、言ってたよね」


美雪:「・・・言ってないよ?」


夏帆:「言ってたじゃん!」


美雪:「夏帆」


夏帆:「アイス買いに行く前、身体光ってるって言ってたじゃん」


美雪:「・・・覚えてないなぁ」


夏帆:「私は覚えてる」


美雪:「・・・」


夏帆:「私、あの時そんなわけないって軽く流したんだよ。だって、だって人間の身体が光るわけないって思ってたから。私たちは大丈夫だって、関係ない話だってどこかで思ってたから」


美雪:「それはあたしだって」


夏帆:「でもあんたは死んだ」


美雪:「・・・」


夏帆:「私の誕生日に死んだじゃん」


美雪:「・・・」


夏帆:「あんたが死んだって聞いて、意味わかんなくて、しばらくしてから病気が原因って聞いた時、もしかしてって思った。もしかして、私のせいじゃないかって」


美雪:「それは違う」


夏帆:「私があの時あんたの言葉を信じてれば、アイスなんか買わずに家に帰って家族に伝えてたら、美雪が今も生きてたんじゃないかって。ずっと、ずっと思ってて」


美雪:「夏帆」


夏帆:「だから、謝りたくて。でも、墓参り行くのも怖かった。あんたが死んだ事実を認めるのが嫌で。10年間駄々こねてるなんてバカだよね。おかげで大人になっちゃった。


それで、やっと覚悟が決まって来たら、あんたが出てきて、やっぱり死んでないんじゃないかとか思っちゃって。でも触れないし。

私は10年経ってるのに、あんたは10年前のままでさ。

あーもう訳わかんない。違うのこういうこと言いたいわけじゃなくて・・・」


美雪:「・・・うん」


夏帆:「ごめん」


美雪:「夏帆は謝ることないじゃん」


夏帆:「ごめん。本当にごめん」


美雪:「気にしてないよ」


夏帆:「私は気にしてんだよ」


美雪:「むしろさ、謝るのはあたしの方だよ。簡単に光って消えたんだから」


夏帆:「美雪は何も悪くない」


美雪:「そっくりそのまま言葉を返すよ」


夏帆:「・・・」


美雪:「・・・そっか。10年間、夏帆を苦しめちゃった。ごめんね」


夏帆:「謝らないでよ」


美雪:「(夏帆の左薬指に光る指輪を見て)でも、前には進めたんだね」


夏帆:「え?」


美雪:「指輪」


夏帆:「あっ。・・・うん」


美雪:「ふふ、それだけで嬉しいな」


夏帆:「・・・本当は結婚しないつもりだった」


美雪:「えぇー!なんで!あたし言ったよね!夏帆のウェディングドレス姿見たいって言ったよね!」


夏帆:「だって一番見せたい相手がいなくなっちゃったから」


美雪:「あっ・・・」


夏帆:「だから、結婚なんてしないつもりだった。でもね、前を向けるまで支えてくれた人がいるの。その人にプロポーズされて」


美雪:「うん」


夏帆:「正直悩んだけど、その時にね、彼に言われたの。「あなたの親友のことを忘れなくてもいい。むしろ覚えてていいから、あなたのことを支えるお手伝いをさせてくれないか」って」


美雪:「素敵な人だね」


夏帆:「私にはもったいないくらいにね。その言葉を聞いて涙が止まらなかったの。美雪のことを忘れないまま進んでいいんだって思えた」


美雪:「あったりまえじゃん。あたしは夏帆が止まることなんて望んでないよ。・・・止まってくれたら、ちょっとだけ嬉しいけどね」


夏帆:「・・・結婚するって決まったら覚悟決まったんだ、だから私はここにいる」


美雪:「幸せな報告聞けたし、時計もつけてくれてるしであたしは大満足だよ」


夏帆:「本当にハーゲンダッツだけでよかったのに」


美雪:「そんなのいいわけないでしょ。ちゃんと用意してたよ」


夏帆:「こんないい時計、高校生にしては高すぎんだよばか」


美雪:「夏帆のために頑張ってバイトしてたからね」


夏帆:「ただの親友にここまでしなくていいのに」


美雪:「・・・だからだよ」


夏帆:「え?」


美雪:「あー、いや・・・」


夏帆:「どうしたの?」


美雪:「なんでもない」


夏帆:「嘘、なんかある言い方だった」


美雪:「これは、その、あたしの中で区切りはついてるし、迷惑になっちゃうから」


夏帆:「え?」


美雪:「ついてるというか、つけたというか」


夏帆:「なに。この期に及んで私に言えないことあるの?」


美雪:「うん・・・」


夏帆:「もう後悔したくないんだよ」


美雪:「・・・聞いたら後悔するかもしれないよ。いや、このまま知らない方が夏帆のためだよ」


夏帆:「またあんただけ知って、私は何も知らずに終わるの?そんなのは嫌だよ」


美雪:「その言い方は・・・ずるいよ」


夏帆:「ねぇ、教えてよ」


美雪:「・・・」


夏帆:「・・・」


美雪:「この気持ちは言わないつもりだったのに・・・。最期まで親友でいたかったんだけどなぁ・・・」


夏帆:「え?」


美雪:「そうだよ、あたしたち親友だもん!それで話は終わりだよ」


夏帆:「美雪」


美雪:「あう・・・。だってさぁ、この流れで言いにくいじゃん」


夏帆:「私はなんでも受け止めるから」


美雪:「・・・そういうとこだよねぇ」


夏帆:「ん?」


美雪:「・・・あの日、あたしが言ったこと覚えてる?」


夏帆:「えっと・・・どれ?」


美雪:「別れ際に言ったやつ」


夏帆:「えぇっと・・・ばいばい?」


美雪:「それも言ったね。でも違う」


夏帆:「あとは・・・」


美雪:「夏帆のこと大好き・・・って」


夏帆:「え?」


美雪:「・・・夏帆のこと大好きって言ったんだよ!ばいばいの後に!」


夏帆:「・・・あっ、あぁーーー!!言ってた!!確かに言ってた!!」


美雪:「・・・もー」


夏帆:「でもあれっていつものノリじゃなかったの?」


美雪:「いつだって本気だったよ」


夏帆:「えっ、つまり・・・」


美雪:「・・・そこまで言わせる?」


夏帆:「あっ。あぁ・・・」


美雪:「・・・」


夏帆:「・・・」


美雪:「・・・」


夏帆:「・・・え?いつから?」


美雪:「・・・中二の冬」


夏帆:「思ったより前・・・ですね・・・」


美雪:「そうだよ。悪い?」


夏帆:「いや、悪くない!何も悪くない!ちょっとびっくりしてるだけ」


美雪:「はぁ、せっかく墓場まで持って行ったのにな・・・」


夏帆:「・・・」


美雪:「親友でいれば、全部丸く収まる話なんだよ。夏帆結婚するし、あたしだけが抱えてればそれで終わったのに。・・・嫌いになったでしょ、気持ち悪いって思ったでしょ。あたしのこと」


夏帆:「そんなわけない」


美雪:「無理しなくていいよ。気持ち悪くないわけないじゃん。親友だと思ってた相手が10年以上恋人になりたがってたなんて。そんなのさ」


夏帆:「美雪」


美雪:「・・・死んでよかったって思ってるの」


夏帆:「・・・は?」


美雪:「だって、ずっと苦しかったから。イケメンの彼氏欲しいとか言われる度にマスクの下で唇噛んでた。親友でいることは嬉しいはずなのに、それ以上になりたいだなんて自覚した瞬間にさ、夏帆の言葉が刺さるんだよ。あたしたちは先に進めないってわかる度に辛かったの。「じゃあ結婚する?」って言われた時、そうなりたいな、なんて本気で考えたのあたしだけだってわかったてたから」


夏帆:「・・・(なにも言葉が出てこない)」


美雪:「でも、夏帆は何も間違ってないし、あたしも間違ってない。ただ、お互いの好みが違うだけ。それだけだから」


夏帆:「・・・うん」


美雪:「そうは言っても苦しいのは変わらないから、死んでよかったって思ってる。死んじゃえばあたしの気持ちは楽になるから。・・・楽になるって思ってたんだけどなぁ」


夏帆:「・・・」


美雪:「ずるいんだあたし。この状況を利用して打ち明けて、自分は楽になろうとしてる。何事もなく生きていたら伝えられないくせにさ」


夏帆:「・・・伝えるかもしれないじゃん」


美雪:「しないよ」


夏帆:「どうして」


美雪:「簡単だよ。夏帆との関係を壊したくないから。あとは」


夏帆:「・・・あとは?」


美雪:「あの頃から多様性とか言われてたけどさ、そういう存在が周りにいるのは受け入れるんだ。でもみんな自分に矢印が向くなんて思ってないんだよ。光源病は身近だけど、自分がかかって死ぬとは思わないようにね。


夏帆もそうでしょ?」


夏帆:「・・・(何も言えない)」


美雪:「だから、隠したままにしたんだ。伝えちゃったら嫌われると思ったから」


夏帆:「そんなことで嫌いにならない」


美雪:「ほんとに?」


夏帆:「本当だよ。私だっていい大人だよ」


美雪:「10年前でも?」


夏帆:「それは」


美雪:「ごめん。夏帆と久々に会ってそんな顔をさせたかったわけじゃないんだ。ただ一言いいたかっただけなんだけど、どうしてこうなっちゃったかな」


夏帆:「・・・」


美雪:「さっきのは忘れて・・・なんていうのも癪だから言うね。

あたしはずっと前から夏帆が好きだよ。親友以上になりたいと思うくらいに」


夏帆:「・・・」


美雪:「・・・」


夏帆:「・・・ありがとう」


美雪:「・・・ふふ、ここでありがとうって言えちゃうのずるいね」


夏帆:「だってさ、好きだって気持ちに嘘はないでしょ。その気持ちを、その言葉をただただ突き離すなんて私にはできないよ。今も、10年前でも」


美雪:「・・・夏帆」


夏帆:「親友の気持ちを受け入れないわけないじゃん」


美雪:「・・・きっと夏帆のそういうとこに惹かれたんだろうね」


夏帆:「誇っていいよ」


美雪:「そうする。夏帆を好きだったことはあたしの誇りで、大切な想いだから」


夏帆:「うん」


美雪:「・・・ありがとう」


夏帆:「なにが?」


美雪:「前に進んでくれて。私を嫌いにならないでくれて」


夏帆:「当たり前じゃん」


~笑い合う二人~

~美雪の身体が淡く光り始める~


夏帆:「美雪、あんた身体が光って・・・!」


美雪:「・・・そろそろ本当のお別れだね」


夏帆:「もういっちゃうの」


美雪:「うん。未練はなくなったからね」


夏帆:「そっか。今日は会えて嬉しかった」


美雪:「私も、大人になった夏帆に会えてよかった」


夏帆:「また来年、来るね」


美雪:「うん、待ってる。今度は旦那さんと一緒にね」


夏帆:「そうする」


美雪:「あっ、墓参りに来てよ。こっちに来ちゃダメだからね!」


夏帆:「わかってるよ!」


美雪:「ふふっ、それじゃあ」


夏帆:「うん、じゃあね」


美雪:「あっ、そうだ」


夏帆:「ん?」


美雪:「大事なこと言い忘れてた」


夏帆:「なに?」


美雪:「スーツ似合ってるよ」


夏帆:「大事なことってそれ?・・・ふふ、ありがとう」


美雪:「あと」


夏帆:「まだあるの」


美雪:「ぐーちょきぱーで、ぐーちょきぱーで、なに作ろー、なに作ろー。右手はパーで左手もパーで、ばいばい夏帆!結婚おめでとう!!大好きだよ!!!」


夏帆:「私も大好きだよ!!」


美雪:「それと誕生日おめでとう!!26歳!!」


夏帆:そう言って美雪は、両手を大きく振って、夏の空に光って溶けた


夏帆:「・・・やっぱり何も作ってないじゃん」


~美雪のいなくなった夏の空を見上げる~


夏帆:「あと、もう27だわ。ばーーか」


美雪:8月11日、誕生日の君と


夏帆:光る君へ


~終わり~

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8月11日、光になった君と 菜乃花 月 @nanohana18

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