8月11日、光になった君と

菜乃花 月

8月11日、光になった君と

「8月11日、光になった君と」


【登場人物】

爽太(そうた):真っ直ぐ元気な男子高校生

廉(れん):爽太に振り回される男子高校生だった。現在27歳


―本編―

~日差しが照りつける夏。学校からの帰り道~


爽太:「ぐーちょきぱーで、ぐーちょきぱーで、なにつくろー、なにつくろー。右手はパーで左手もパーで」


~じっと廉の顔を見つめる爽太~


廉:「・・・なに」


爽太:「なんだと思う?」


廉:「・・・ザビエル」


爽太:「正岡子規!」


廉:「手ぇ関係ねぇじゃん!!グーチョキパーで何か作れよ!!」


爽太:「えぇ・・・」


廉:「なんで俺が頭おかしいみたいな顔されなきゃいけねぇんだよ」


爽太:「わかった、次はちゃんとやるわ。任せて」


廉:「ほんとか?」


爽太:「ぐーちょきぱーで、なにつくろー、なにつくろー。右手はチョキで、左手もチョキで目潰し目潰し!!」


廉:「っうお!あっぶねぇ!!!」


爽太:「これを避けるとはお主やりおるな・・・」


廉:「バカなのか?!お前はバカなのか?!!?」


爽太:「なんで?」


廉:「手遊び歌で目ぇ潰しに来るやつがどこにいんだよ!!」


爽太:「ここにいる」


廉:「右手はチョキで、左手もチョキで・・・ふんっ!(爽太に目潰ししようとする)」


爽太:「っぉあ!お前だって目潰しにくるじゃん!!!無言はダメだろ!!反則反則!!」


廉:「くそ、えぐれなかったか」


爽太:「すっげぇ怖いこと言ってない?!俺の目をえぐろうとしたの?!お前の方が怖いって」


廉:「次は逃がさねぇ」


爽太:「やべぇ、このままだと殺られる・・・!こうなったら・・・!右手はチョキで、左手はパーで・・・」


廉:「(攻撃が来ないか警戒する)」


爽太:「・・・」


廉:「・・・え、なんもしないの」


爽太:「なぁ、チョキとパーで何作れんの」


廉:「は?目潰しからのビンタとかじゃねぇの」


爽太:「は?何も作ってないじゃん」


廉:「どの口が言ってんだてめぇ」


爽太:「だってさだってさ!グーとチョキでカタツムリ、グーとグーで最高に可愛い俺、パーとパーで正岡子規じゃん」


廉:「そこまでするならチョキとグーもボケろよ。正解が異質みたくなってるだろ」


爽太:「でさ、チョキとパーって出てこなくない?」


廉:「流しそうめんくらい綺麗にスルーするじゃん。・・・まぁ、そう言われればそうか?」


爽太:「ちょっと廉やってみてよ」


廉:「おん。グーチョキパーで、グーチョキパーで、何作ろー、何作ろー。右手はチョキで、左手はパーで・・・」


爽太:「・・・」


廉:「(ちょっと考える)・・・あっはさみ」


爽太:「おぉ!確かに!」


廉:「あとは・・・ブランコとか?」


爽太:「確かに確かに!あっ!チョキを反対にすれば東京タワーっぽくね!」


廉:「・・・おっ、そのままチョキの指を交互に動かしてみて」


爽太:「ん、こう?あっ」


(同時に)

廉:「ヒト」

爽太:「人生じゃん!」


廉:「人生つった?」


爽太:「うん」


廉:「壮大になったな」


爽太:「よくない?子供とかの前でさ、こう、ぐーちょきぱーで、ぐーちょきぱーで、なにつくろぉなにつくろぉ。右手はチョキで、左手はパーで(突然いい声で)人生」


廉:「やだよ」


爽太:「こうやって道がないと人は歩けないんです。だから無駄なことなんてない。それが人生なんだよってさ」


廉:「手遊び歌で人生語られても困るって」


爽太:「俺はいいと思うけどなぁ」


廉:「あっ、もう1個思いついたわ」


爽太:「なになに?」


廉:「ちょっと俺の隣来て」


爽太:「うん」


廉:「いくぞ」


爽太:「おうよ」


廉:「グーチョキパーで、グーチョキパーで、何作ろー、何作ろー。右手はチョキで、左手はパーで、(いい声で)初めての痴漢(右手はピース、左手で爽太の尻を揉む)」


爽太:「なるほどぉ!って俺のケツを揉むな!!」


廉:「いいケツだな」


爽太:「やめろぉ変態!・・・仕返しだっ!初めての痴漢!!」


廉:「いだだだだ!!おま、バカ!!力加減考えろ!!」


爽太:「俺、初めてだからわかんなぁい!」


廉:「いだだ!!ちぎれる!ちぎれちゃう!」


爽太:「こうかぁ!?」


廉:「ばっっか!!俺のケツはちぎりパンじゃないんだぞ!!!離れろ怪力バカ!!!」


爽太:「ふふ、しゃーないなー」


廉:「てっめぇ」


(顔を見合わせ笑い合う)


廉:「はぁー、くっだらねぇ」


爽太:「ほんとだよ。初めての痴漢はないわ。教育に悪いよ」


廉:「お前だけには言われたくないわ」


爽太:「だって1列に並べば連鎖できるじゃん」


廉:「初めての痴漢連鎖?」


爽太:「輪になればループ入るね」


廉「痴漢無限ループはやだわぁ」


爽太:「俺もやだよ。てか痴漢とか初めてした」


廉:「俺もだわ」


爽太:「まじ?お前の初めていただきぃ」


廉:「喜ぶとこか?」


爽太:「俺はね、廉の初めてはなんでも嬉しいの」


廉:「きもいな」


爽太:「おいおい、幼馴染に言うセリフかよぉ」


廉:「幼馴染ならもっと可愛い女の子がよかったな」


爽太:「なんだよ、俺じゃ不満ってことかぁ?」


廉:「別にそうは言ってねぇよ」


爽太:「へへへっ。俺は廉のこと大切だよ」


廉:「お、おう。あぁ~!男同士で言ってるのキモっ!キモすぎるっ!鳥肌立ったわ」


爽太:「ひどぉ!!!」


廉:「何もひどくないだろ」


爽太:「はぁっ、悲しくなったからアイス買いに行こっと」


廉:「俺、ハーゲンダッツのチョコでよろ」


爽太:「お前も一緒に買いに行くんだよっ!(廉を引っ張る)」


廉:「おい、引っ張るな」


爽太:「てか、サラッとハーゲンダッツつった?」


廉:「うん」


爽太:「うん、ってそんな真顔で言われても困りますよお兄さん」


廉:「お前なら何も考えずに買いそうだと思って」


爽太:「俺の事何も考えないバカだと思ってる?!」


廉:「グーチョキパーで正岡子規作ってるやつはバカだろ」


爽太:「バカじゃないですぅ、人が思いつかないことができるっていう天才ですぅ」


廉:「はいはい、バカと天才は紙一重」


爽太:「そんな風に言うとハーゲンダッツ買ってやらないぞ!」


廉:「・・・買ってくれんの」


爽太:「今年の廉の誕プレでいいなら」


廉:「あーー。まぁ、それでもいいか」


爽太:「よくないだろ!」


廉:「なんでお前がつっこむんだよ」


爽太:「だって!俺ら男子高校生じゃん!!もっと欲張ろうよ!ハーゲンダッツで満足するのって勿体ないだろ!!」


廉:「じゃあ彼女」


爽太:「・・・」


廉:「ごめんごめん。今のは俺が悪かった。そんな顔するなって。やっぱハーゲンダッツでいいから」


爽太:「ほんとにいいの?」


廉:「ほら、俺の誕生日ってさ、知っての通り夏休みど真ん中なわけ。しかも、謎の祝日になったし。山の日って・・・もうちょっとあっただろ」


爽太:「痴漢の日とか?」


廉:「やだよ」


爽太:「お兄さん、誕生日いつですか~」


廉:「あーあれです。痴漢の日なんです~」


爽太:「あぁ!そうなんですね!」


廉:「あぁ!じゃねぇよ最悪だよ」


爽太:「ふふっ、覚えてはもらえそうだけどね」


廉:「絶対痴漢の日ってのをいいことに本当に痴漢するのやつ出てくるって」


爽太:「夏の風物詩、痴漢」


廉:「速攻廃止だろそんな祝日」


爽太:「だね」


廉:「話逸れたけどな、祝日でも夏休みでも毎年祝ってくれるのなんてお前くらいなわけ。だから貰えるだけで嬉しいっつーか」


爽太:「ならやっぱハーゲンダッツじゃ勿体ないって」


廉:「どうせ明日もいつも通り一緒に過ごすんだろ。その気持ちだけで俺は充分だ」


爽太:「そう?」


廉:「おう。いつからだっけ。お互いの誕生日祝うようになったの」


爽太:「中学の時からだから今年で五年目かな」


廉:「マジ?もうそんな経ったか」


爽太:「早いね」


廉:「五年も祝い続けてんだ俺ら」


爽太:「そうだよ」


廉:「はぁー、このままいくと彼女と夏を過ごす前に青春が終わっちまう。どうする?おじさんになっても二人で祝い続けてたら」


爽太:「いいじゃん」


廉:「キモくね?」


爽太:「俺は嬉しいけどなぁ」


廉:「ま、ここまでなんやかんや続けてきたもんな。おじさんでも祝うか。あっ、さすがに彼女ができた時はそっちを優先しろよ」


爽太:「えー」


廉:「好きな人を優先するのは当たり前だろ?」


爽太:「それはそう。でもおじさんになっても、なんなら死んでも祝い続けるから」


廉:「はぁ?」


爽太:「幽霊になって「誕生日おめでとう~!早くこっちに来いよ~!」って出てきてやる」


廉:「お前は昼ドラで殺された愛人か何かなのか」


爽太:「昼ドラってそんなことするの?!」


廉:「イメージだよイメージ」


爽太:「じゃあ墓参りしてる時に後ろから「サプラァイズ」の方がいい?」


廉:「何年後の話をしてるんだ」


爽太:「先のことは考えておくべきだろぉ!」


廉:「先すぎるって!てか、なんで先に死ぬ気満々なんだよ」


爽太:「ほえ?廉には死んでほしくないなって思って」


廉:「俺もいつかは死ぬんだぞ」


爽太:「そうだけど!なんていうか廉には長生きしててほしい。廉が先に死ぬのは嫌だ。それなら俺が先に死んで空から見守ってたい」


廉:「あのさぁ」


爽太:「ん?」


廉:「先ばっか見てたら疲れちまうって」


爽太:「・・・うん」


廉:「まぁ、気持ちはわからなくもないけどな。今だって光源病(こうげんびょう)とかいうワケわからん病気が流行って、対策としてこんなクソあちぃ中マスクしてんだから」


爽太:「身体が光って死んじゃうって不思議だよね」


廉:「あぁ。死亡者もどんどん増え続けてるしな」


爽太:「うん、実感はないけど嘘ではないんだろうなって思ってる。変な感じ」


廉:「警戒するに越したことはねぇけどさ。どうなるかわからない先ばっか見て、暗いこと考えるのは疲れるだろ。どっちが先に死ぬのかも今はいいじゃん。死ぬ時は死ぬんだから。こうやって制服を着て帰る時間なんてのも限られてんだから、楽しいこと考えようぜ」


爽太:「初めての痴漢やったり?」


廉:「ずっと言うじゃん。気に入ったの?」


爽太:「うん。なんかハマった。密かに廉を痴漢するタイミング狙ってるよ」


廉:「やめろよ変態」


爽太:「初めてはさっきやったから二度目の痴漢になるのかな」


廉:「常習犯になるのはさすがにまずいだろ」


爽太:「あっ!ちゃんとチョキとパーで通じるよ!二度目の痴漢!すごい!」


廉:「・・・お前ってたまに怖いくらい無邪気だよな」


爽太:「へ?褒めてる?」


廉:「褒めてる褒めてる」


爽太:「へへっ、ならいいや。あー、でもさすがに二度目は捕まっちゃうか」


廉:「一回目で捕まるって」


爽太:「じゃあ俺ら、前科一犯ってこと?!」


廉:「いんや、バレなきゃ犯罪じゃない」


爽太:「うっわ、犯罪者の言葉だ」


廉:「別に男のケツ揉んだくらいで捕まらねぇよ」


爽太:「俺以外にやっちゃダメだぞ!電車とかで好みの男見つけて揉むのもなしだからな!」


廉:「やらねぇよ!ほんとに捕まるっつーの!てかそんな趣味ねぇわ!!」


爽太:「あっはは」


廉:「ったく。・・・てか行かないの」


爽太:「え?どこに?」


廉:「アイス」


爽太:「あぁ!そうだった!!」


廉:「ほら、買いに行くぞ。暑すぎて無理」


爽太:「うん!

(ふと立ち止まり)太陽が眩しいねぇ。手ぇの平を太陽に~透かして見~れ~ば~」


~歌いながら太陽に手をかざす爽太~


爽太「・・・。なぁ見て!廉!俺の身体光ってる!!」


廉:「(爽太の方は見ずに歩き出しながら)あーはいはい光ってますねー」


爽太:「ほんとに光ってるんだって!見てよ!」


廉:「おいてくぞ~」


爽太:「あっ待ってよ!!」


~間~


~アイスも食べ終わり、分かれ道まで来た二人~


廉:「もうこんな時間なのに、まだ明るいな。マスクあっちぃし」


爽太:「だねぇ。苦しすぎる」


廉:「ま、アイス美味かったし満足満足。結局ハーゲンダッツありがとな」


爽太:「お誕生日様のお願いだったからね」


廉:「だから明日だわ」


爽太:「誤差誤差」


廉:「じゃあ、お前の誕生日もハーゲンダッツ決定な」


爽太:「俺の誕生日冬なのに!?アイス!?まぁ、もらったら食うけど」


廉:「食うんだ」


爽太:「あったりまえだろ~!廉からもらったもんは何でも嬉しい!」


廉:「はいはい。じゃあ俺こっちだから」


爽太:「うん。ばいばい廉」


廉:「あぁ、また明日」


爽太:「(廉の背に向かって)なぁ!俺、お前のこと、好きだぞーー!」


廉:「(振り向いて)うるせぇよばーか!!」


爽太:「あと!誕生日おめでとう!!17歳!!」


廉:「まだ16だわばーーーか!!!」


爽太:「えへへ」


~廉のことを見送る爽太~


爽太:「(ぽつりと)じゃあね、廉」


~間~


~10年後、大人になった廉~

~場面は爽太の墓の前~


廉:「よっ、久しぶり。俺のスーツ姿どうよ。見慣れねぇだろ。俺は見慣れた。気付けばスーツが似合う大人になっちまったなぁ。・・・嘘。似合うかどうかはわからねぇけど、毎日着てるから着慣れたよ。

・・・お前は10年経っても制服のままだな。そりゃあそうか。


なぁ、今日は何の日か知ってるよな。そう、俺の誕生日でありお前の命日。

あの日、お前の訃報っていうとんでもないプレゼントもらってよ。未だにあの日を超える誕生日はねぇよ。


あん時さ、待ちくたびれてお前の家に行ったら電気ついてなくて。入れ違いかなって帰ろうとしたらお前の親御さんに会って。そしたら爽太は亡くなったって聞いて。訳わかんなくて。


その後のことはよく覚えてないけど、しばらくしてから聞いたよ。

爽太、病気だったんだな。

そんなこと俺全然知らなくて。聞いた後も信じられなかった。だってお前そんな素振りちっともなかっただろ。いや・・・(逡巡し言葉を飲み込む)


俺さ、お前がいなくなったことに慣れないまま大人になって、結局ここに来るのも10年かかっちまった。


ほら、これ。お前があの日くれた本当の誕プレ。今でもつけてるよ。ハーゲンダッツよりも高いもん準備してんじゃねぇよばか。準備してんだったら直接渡せよ。なんで、なんでお前の親御さんからもらわなきゃいけねぇんだよ。意味わかんねぇよ。


・・・なぁ、今日は俺の誕生日だぞ祝えよ。・・・祝ってくれよ、爽太」


爽太:「10年・・・か」


廉:「え?」


~振り向くと10年前の姿と変わらない爽太が立っている~


廉:「な、なんで」


爽太:「サプラァイズ」


廉:「爽太・・・なのか?お前、本当に爽太なのか?」


爽太:「そうだよ」


廉:「お前・・・生きてたのか?」


爽太:「まっさかぁ。もうとっくに死んでるよ」


廉:「でも」


爽太:「ぐーちょきぱーで、ぐーちょきぱーでなに作ろ~。なに作ろ~。右手はチョキで左手はパーで二度目の痴漢!」


廉:「っ」


~爽太の手は廉の身体をすり抜ける~


爽太:「ほら、廉に触れない。もう痴漢もできない。そういうことだよ」


廉:「・・・」


爽太:「久しぶり、廉」


廉:「爽太っ!」


爽太:「なぁに」


廉:「俺、俺さ」


爽太:「ふふ、場所を変えようか。ここだと他の人も来そうだから」


廉:「なんでお前そんなに冷静なんだよ」


爽太:「俺はずっと見てたから」


廉:「ずりぃな」


爽太:「はは、そうだね」


廉:「俺はまだ状況がよくわかってねぇよ」


爽太:「そりゃあ、墓参りに来たら本人と会話してるからねぇ」


廉:「なんかのドッキリじゃないのか?」


爽太:「違うよぉ!本当に俺だよ!どうやったら信じてもらえるわけ?・・・あー!カメラ探してもないからね!」


廉:「ないのか。あったら安心できる気がするのに。ただ、こんなふざけたことを企画したやつはぶん殴ってやる」


爽太:「誰もいないよ!!俺だけだから!!とりあえずその拳を下ろしてよ!」


廉:「・・・わかった」


爽太:「ほら、このままだと廉が変な人みたいになるから。ついてきて」


廉:「あ、おい、ちょっと待てよ!(追いかける)」


~間~


爽太:「こっちこっち」


廉:「ここって」


爽太:「初めての痴漢をした場所だよ!」


廉:「間違ってないけど言い方」


爽太:「だって事実じゃん」


廉:「そうだけど。・・・高校生振りに来たわ」


爽太:「言っておくけど、先に痴漢始めたのは廉だからね」


廉:「そうだっけ」


爽太:「そうだよ。俺がこんなヘンテコなこと思いつくわけないだろぉ~」


廉:「右手がパーで左手もパーで?」


爽太:「正岡子規!」


廉:「・・・お前だけにはヘンテコなんて言われたくない」


爽太:「えぇー!俺のはちゃんと実在するのに!」


廉:「だって、だいたいの人が思い浮かべる正岡子規、横顔じゃん。両手のパーどこいったんだよ」


爽太:「え?普通に下ろしてる」


廉:「意味ねぇじゃん!」


爽太:「手を使わなきゃいけないルールないでしょ?」


廉:「使わなきゃいけないんだよ!お前も歌ってただろ!グーチョキパーでなに作ろうって!グーとチョキとパーで何かを作る歌なんだよ!なのにただ下ろしてるだけだと意味ないんだって」


爽太:「だとしても初めての痴漢にはインパクトは負けるよ」


廉:「どこで競ってんだ?」


爽太:「だってずるいじゃん!右手はチョキで左手はパーで(いい声)初めての痴漢、はさぁ!」


廉:「正直、なんであの時それが思いついたのか俺もわからねぇ」


爽太:「衝撃だったもん」


廉:「初めての痴漢連鎖」


爽太:「痴漢ループ」


~笑い合う~


廉:「あっはは、改めて口に出すとひでぇな」


爽太:「ははっ、ほんとにね」


廉:「はぁー、なんだか懐かしい。あの頃に戻ったみたいだ」


爽太:「ほんとだね」


廉:「本当に爽太なんだな」


爽太:「やっと信じてくれた?」


廉:「あぁ。俺の親友の爽太だ」


爽太:「親友、ね」


廉:「どうした?」


爽太:「いや、なんでもない」


廉:「そっか」


爽太:「そういえば、もうマスクしてないんだね」


廉:「あ、あぁそうか。あの時はマスクしてたな。懐かしい」


爽太:「あん時は地獄だったよねー。暑すぎて死ぬかと思った。あっもう死んでたわ」


廉:「笑えねぇから」


爽太:「笑ってよー!死後ジョークだぞ!」


廉:「初めて聞いたわ」


爽太:「初めて言ったからね」


廉:「お前が逆の立場なら笑えないだろ」


爽太:「大笑いするね」


廉:「そうですか」


爽太:「まぁ!久々に廉の顔見れて嬉しいよ!やっぱりマスクしてない廉はかっこいいなぁ。てか大人になったな」


廉:「そりゃあ・・・まぁな」


爽太:「光源病も落ち着いたみたいで何より!」


廉:「時間はかかったけどなんとかな。治療法もワクチンもあの時よりはある。完全になくなったわけじゃないけど、マスクをしてる人の方が今は少ないよ」


爽太:「平和が戻ったってことだ」


廉:「・・・うん」


爽太:「・・・」


廉:「・・・」


~会話が途切れる~


廉:「俺さ、お前に聞きたいことたくさんあんだよ」


爽太:「うん。何でも聞いて」


廉:「どうして死んだんだよ」


爽太:「わぁお、ど真ん中ストレート」


廉:「それしか言葉が浮かばなかった」


爽太:「そっか。どうして、どうして死んだか、ねぇ」


廉:「・・・」


爽太:「俺の家族から話は聞いてる?」


廉:「・・・病気で死んだって」


爽太:「うん、病気だよ。それが答えだけど・・・納得はしてなさそうだね」


廉:「・・・お前が死んだ原因ってさ」


爽太:「光源病だよ」


廉:「・・・やっぱり」


爽太:「うん。ピカピカ~って光って死んだ」


廉:「・・・」


爽太:「あれすごいんだよ!急に身体の力が入らなくなって、ふと手を見たらさ、光ってんの。ちょっと淡く光ってて、綺麗だなって思った」


廉:「・・・」


爽太:「でも同時に、目閉じたらこれ死ぬなって直感で思った。だから頑張って君へのプレゼントを引っ張り出して、机に置いた。用意しといてよかったよ。あとは家族に託したんだ」


廉:「・・・そうか」


爽太:「ねぇ、廉」


廉:「なんだよ」


爽太:「あの後、君は光源病にならなかった?」


廉:「・・・かからずにここまで来たよ」


爽太:「そっか。よかったぁ!俺、君にうつしてたらどうしようって、それだけが心残りだったんだ。俺のせいで君が死ぬのは嫌だったから」


廉:「俺のせいじゃないのか」


爽太:「廉?」


廉:「爽太が死んだのは、俺のせいじゃないのか」


爽太:「だから光源病のせいだよ。君はなにも」


廉:「(被せて)あの時、もう症状が出てたんだろ」


爽太:「・・・」


廉:「光ってるって、言ってたよな」


爽太:「・・・言ってないよ?」


廉:「言ってただろ!」


爽太:「そうだっけ」


廉:「アイス買いに行く前、お前身体光ってるって言ってただろ」


爽太:「・・・覚えてないな」


廉:「俺が覚えてる」


爽太:「・・・」


廉:「俺さ、あの時そんなわけないって軽く流したんだよ。だって、だって光るわけないって思ってたから。俺たちは大丈夫だって、関係ない話だってどっかで思ってたから」


爽太:「それは俺だって」


廉:「でもお前は死んだ」


爽太:「・・・」


廉:「俺の誕生日に死んだじゃねぇか」


爽太:「・・・」


廉:「お前が死んだって聞いて、意味わかんなくて、しばらくしてから病気が原因って聞いた時、もしかしてって思ったんだ。俺のせいじゃないかって」


爽太:「それは違うよ」


廉:「俺があの時お前の言葉を信じてれば、アイスなんか買わずに家に帰って家族に伝えられてたら、お前は今も生きてたんじゃないかって。ずっと、ずっと思ってて」


爽太:「廉」


廉:「だから、謝りたくて。でも、墓参り行くのも怖くて。お前が死んだって事実を認めるのが嫌で。バカだよな。10年間駄々こねてたんだ。


それで、やっと覚悟が決まったから来たらお前が出てきてさ。やっぱり死んでないんじゃないかって思っちまって。でも触れなくて。俺は10年経って、お前は10年前のままでさ。

あーもう訳わかんねぇ。違うんだよこういうこと言いたいわけじゃなくて・・・」


爽太:「・・・うん」


廉:「ごめん」


爽太:「廉は謝ることないじゃん」


廉:「ごめん。本当にごめん」


爽太:「気にしてないよ」


廉:「俺は気にしてんだよ」


爽太:「むしろさ、謝るのは俺の方だよ。簡単に光って消えたんだから」


廉:「お前は何も悪くない」


爽太:「そっくりそのまま言葉を返すよ」


廉:「・・・」


爽太:「・・・そっか。10年間、君を苦しめちゃった。ごめんね」


廉:「謝ってほしいわけじゃ」


爽太:「でも嬉しいな!」


廉:「は?」


爽太:「(廉の左腕を見て)俺からのプレゼント、つけてくれてるんだなって」


廉:「・・・お前からもらった最後のプレゼントだからな。つけるに決まってる」


爽太:「ふふ、それだけで充分だよ。廉と一緒の時間を過ごしたみたいなもんだから」


廉:「俺は本当にハーゲンダッツだけでよかったんだ」


爽太:「俺がいいわけないでしょ。ちゃんと用意してたよ」


廉:「こんないい時計、高校生にしては高すぎんだよばか」


爽太:「頑張ってバイトしてたからね」


廉:「こんな俺に、ここまでしなくていいのにって」


爽太:「・・・だからだよ」


廉:「え?」


爽太:「あー、いや・・・」


廉:「どうした?」


爽太:「なんでもない」


廉:「なんかある言い方だっただろ」


爽太:「これは、その、俺の中で区切りはついてるから」


廉:「は?」


爽太:「ついてるというか、つけたというか」


廉:「なんだよ。この期に及んで俺に言えないことか?」


爽太:「うん・・・」


廉:「もう俺さ、後悔したくないんだよ」


爽太:「・・・聞いたら後悔するかもしれないよ。いや、このまま知らない方が君のためだ」


廉:「またお前だけ知って、俺は何も知らずに終わるのか。そんなのは嫌なんだよ」


爽太:「その言い方は・・・ずるいよ」


廉:「なぁ、教えてくれよ」


爽太:「・・・」


廉:「・・・」


爽太:「この気持ちは言わないつもりだったのに・・・。最期まで親友でいたかったんだけどなぁ・・・」


廉:「え?」


爽太:「ねぇ、ほんとにいいの?だって君にとって俺は親友でしょ」


廉:「そうだよ。大事な親友に決まってんだろ」


爽太:「・・・そういうとこだよねぇ」


廉:「なんだよ」


爽太:「・・・あの日、俺が言ったこと覚えてる?」


廉:「えっと・・・どれ?」


爽太:「別れ際のやつ」


廉:「えぇっと・・・ばいばい?」


爽太:「それも言ったね。でも違う」


廉:「あとは・・・」


爽太:「お前のこと好き・・・って」


廉:「は?」


爽太:「・・・」


廉:「え?え、今・・・」


爽太:「お前のこと好きって言ったんだよ!ばいばいの後に!」


廉:「・・・あっ、あぁーーー!!言ってた!!確かに言ってた!!」


爽太:「・・・もー」


廉:「ちょっと待て、えっ、好きの意味とかって・・・」


爽太:「・・・そこまで言わせんな」


廉:「あっ。あぁ・・・」


爽太:「・・・」


廉:「・・・」


爽太:「・・・」


廉:「・・・え?いつから?」


爽太:「・・・中二の冬」


廉:「思ったより前・・・ですね・・・」


爽太:「そうだよ。悪いかよ」


廉:「いや、悪くない!何も悪くない!ちょっとびっくりしてるだけ」


爽太:「はぁ、せっかく墓場まで持って行ったのにな・・・」


廉:「・・・」


爽太:「お前の言う通り親友でいれば、全部丸く収まる話なんだよ。俺だけが抱えてればそれで終わったのに。・・・嫌いになっただろ、気持ち悪いって思っただろ。俺のこと」


廉:「そんなことない」


爽太:「無理しなくていいよ。気持ち悪くないわけないじゃん。親友だと思ってた相手が10年以上恋人になりたがってるなんて。そんなのさ」


廉:「爽太」


爽太:「・・・俺さ、死んでよかったって思ってるんだ」


廉:「・・・は?」


爽太:「だって、ずっと苦しかったから。お前が彼女欲しいっていう度に、マスクの下で唇噛んでた。親友でいることは嬉しいはずなのに、それ以上になりたいだなんて自覚した瞬間にさ、お前の言葉が刺さるんだよ。俺たちは先に進めないってわかる度に辛かったんだ」


廉:「・・・(なにも言葉が出てこない)」


爽太:「でも、廉は何も間違ってないし、俺も間違ってない。ただ、お互いの好みが違うだけ。それだけだから」


廉:「・・・うん」


爽太:「そうは言っても、苦しいのは変わらないから死んでよかったって思ってる。死んじゃえば俺の気持ちは楽になるから。・・・楽になるって思ってたんだけどなぁ」


廉:「・・・」


爽太:「ずるいんだ俺。この状況を利用して打ち明けて、自分は楽になろうとしてる。何事もなく生きていたら伝えられないくせにさ」


廉:「伝えるかもしれないだろ」


爽太:「それはない」


廉:「・・・どうして」


爽太:「簡単だよ。君との関係を壊したくないから。あとは」


廉:「・・・あとは?」


爽太:「あの時から多様性とか言われてたけどさ、そういう存在が周りにいるのは受け入れるんだ。でも、みんな自分に矢印が向くなんて思ってないんだよ。どこか自分には関係ないって思ってる。光源病は身近だけど、自分がかかって死ぬとは思わないようにね。


廉もそうでしょ?」


廉:「・・・(何も言えない)」


爽太:「だから、隠したままにしたんだ。伝えちゃったら嫌われると思ったから」


廉:「そんなことで嫌いにならねぇよ」


爽太:「ほんとに?」


廉:「本当だよ。俺だっていい大人だぞ」


爽太:「10年前でも?」


廉:「それは」


爽太:「ごめん。君と久々に会ってそんな顔をさせたかったわけじゃないんだ。ただ一言、伝えたかっただけなんだけど、どうしてこうなっちゃったかな」


廉:「・・・」


爽太:「さっきのは忘れて・・・なんていうのも癪だから言うね。

俺はずっと前から廉が好きだよ。親友以上になりたいと思うくらいに」


廉:「・・・」


爽太:「・・・」


廉:「・・・ありがとう」


爽太:「・・・ふふ、ここでありがとうって言えちゃう君はずるいね」


廉:「だって・・・俺のこと好きって気持ちに嘘はないだろ。その気持ちを、その言葉をただただ突っぱねるのは違うと思うから、受け止めるよ。今も、10年前でもな」


爽太:「・・・廉」


廉:「親友の気持ちを否定するダサいことはしねぇって」


爽太:「・・・きっと君のそういうとこに惹かれたんだろうね」


廉:「誇っていいよ」


爽太:「うざぁ。・・・でも、そうする。これは俺の大切な想いだから」


廉:「おう」


爽太:「ありがとう」


廉:「なにが?」


爽太:「俺を嫌いにならないでくれて」


廉:「当たり前だろ」


~笑い合う二人~

~爽太の身体が淡く光り始める~


廉:「お前っ、身体が光って・・・!」


爽太:「・・・そろそろ本当のお別れだね」


廉:「もういくのか」


爽太:「うん。未練はなくなったから」


廉:「そっか。今日は会えて嬉しかった」


爽太:「俺も、大人になった廉に会えてよかった」


廉:「また来年、来るからな」


爽太:「うん、待ってる。あっ、墓参りに来てよ。こっちに来ちゃダメだからね!」


廉:「わかってるよ」


爽太:「ふふっ、それじゃあ」


廉:「おう、じゃあな」


爽太:「あっ、そうだ」


廉:「ん?」


爽太:「大事なこと言い忘れてた」


廉:「なに?」


爽太:「スーツ似合ってるよ」


廉:「大事なことってそれかよ。・・・ありがとうな」


爽太:「あと」


廉:「まだあるのか」


爽太:「ぐーちょきぱーで、ぐーちょきぱーで、なに作ろー、なに作ろー。右手はパーで左手もパーで、ばいばい廉!誕生日おめでとう!!26歳!!」


廉:そう言って爽太は、両手を大きく振って夏の空に光って溶けた


廉:「・・・だから何か作れって」


~爽太のいなくなった夏の空を見上げる~


廉:「あと、もう27だわ。ばーーか」



爽太:8月11日、誕生日の君と


廉:光になった君と


~終わり~

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