第9話 ~閑話~ エライザの企み2
急がなきゃ‼
以前にこの辺りで狩りをしている時に見つけたんだよね、マタタビの木が数本茂っている所。 その時は猫系の獣や魔獣が現れる可能性があるなとは思ったけれど、里からそんなに近いわけでもないから処理せずにいたんだけど、あの時の私グッジョブ!! まさか猫系の聖獣さまが現れるなんてね。
「うにゃ~」
採ってきたマタタビの葉付き枝を部屋に投げ込むと、途端にうっとりとした表情になって、蕩けたような鳴き声をあげながら前足でてしてし。 と枝を叩いたり噛みついたり、体を擦り付けているカキさま。 枝を投げ込む直前までは明らかにヤバそうな空気だったけれどもう大丈夫みたい。
危なかった~。
危うく里脱出計画が破綻に追い込まれるところだった。
それにしても失敗だったな~。
でもやっぱり聖獣さまの体だけど、人間であった時の記憶や精神が強いというのが今回のことでよくわかった。 猫系だから水に浸かることなんて嫌がると思ったのに、まさかお風呂に入りたがるなんて。 だけどエロおやじっぽい雰囲気を感じたからお風呂は別々にしたんだよね。 まぁなんだかんだ言っても猫だし、何かできるわけでもないとはわかっているんだけど、一度気になりだしたら気になって仕方がないんだもん。 元人間だけあって、男女別ということに理解してくれたし問題なし!
あと、私以外の女の子と仲良くなって貰ったら困るっていうのもあったんだよね。
うん、嫉妬とかじゃない、それだけは絶対にない。 下手に仲良くなられて、いざ里を出る時にその子を指名されたりしたら計画が狂っちゃうからだし。
ただ予想以上にカキさま人気がすごかった。 他の女の子がうらやましそうに言っていたのもそうだけど、男湯から聞こえてくる盛り上がり尋常じゃなかったし。 あとで聞いたところ、数十人で代わる代わる体を洗いまくっていたらしい。風呂後に緊急会議が行われ、カキさまの体を洗う順番を決めることになったんだけど、 男衆だけなんてズルいって女衆が言い出した。 そこで私に聖獣さまの気持ちはどうなのか? 女に体を洗われるのは嫌なのか? って聞かれたんだけど、思わず「男だけに洗ってほしいらしいよ」。 なんて言ってしまったせいで、まさかあんなにショックを受けるとは思わなかったよね。 まぁそんな雰囲気を出すから、一緒にお風呂に入るのを躊躇うことになるんだけど……。
「あぁ~俺のマタタビ……」
「魔法を何が使えるか知りたかったんじゃないんですか?」
「知りたいけれど……ウニャ~」
あれだけ昨日までは魔法について目を輝かせていたのに、今日は完全にダラケきってる。 マタタビ効果もあるんだろうけれど、よほど男衆に体の隅々まで洗われたことがショックだったのかな? まぁカキさまにお付き合いしていれば、仕事もさぼれるしいっか。
問われるままにこの世界の成り立ちを、神話を語ることになったんだけど、途中途中で「ほ~」「へ~」「そうなんだ」。 なんて合いの手を入れてくれるからなかなか話しやすかった。 ただ獣人の存在になんでそんなにショックを受けているのかがわかんなかったな~。 耳の位置だとか、毛深さだとか、手はどうなっているのか? なんて意味不明な質問もかなり多くて戸惑ったし、 「そっち系か~」。 なんて1人納得してたのもよくわかんなかった。
「タワワ神……タワワねぇ」
っ‼
神の名を何度も口にするから、もしかしたら知っているのかと思ったら、ジッとりとした目でわたしの胸を見てため息ついた!!
これまでなんか侮辱されたような視線ってこれだ!!
お母さんまで敵に回してるし……なんかどんどん聖獣さまを崇める気持ちがなくなってくんですけど。
残念聖獣な気がしてきた……。
気を取り直してカキさまの魔法適性を調べるために祝福の祠へとやってきた。
カキさまは空間と癒しの適性があるらしい。 両方ともかなり扱いが難しいと言われる魔法だけれど、私の風魔法なんていうありきたりだし1つだけだもんな~。 アレかな? やっぱり二又になっているから2種類ってことはさ、ツインテールにしてみたらもしかして……。
「チェッダメか~」
「エライザさん?」
あっ……やってしまった。
ここは必殺! マタタビの術!!
「ウニャ~ン」
危なかった……。
旅に出るときは、しっかりとマタタビを確保して持っていかないとね。
「さ、さぁ魔法の練習をしますよ」
「……うん。 身体強化魔法を覚えた時に魔力の場所とかはわかったから、その辺の説明はなしで大丈夫」
え? なにそれ。 そんな魔法初めて聞いたんだけど?
詳しく聞いてみたら、全身に魔力を張り巡らせることで身体能力が格段にアップするらしい。
カキさまが言うには普人族はやっているとのことだけど、そんな話は聞いたことがまったくない。
カキさまの指導の元、さっそく身体強化魔法というのに挑戦してみたんだけど、そこまで難しいものじゃなかったのですぐに出来るようになった。 発動しながら色々試してみたんだけどスゴイ。 ちょっと目からうろこの感覚だよ。 それにしてもこんな単純な魔力の使い方、どうしてこれまで誰も試さなかったんだろう?
カキさまのドヤ顔がイラっとくるんだけど、確かにスゴイことだから我慢我慢。
里の広場に移動して、今度こそ私が教師役になって空間と癒し魔法講座……という予定だったんだけど、ここでまたカキさまのドヤ顔が出ることに。 なんかすぐに色々出来るようになっちゃったんだよね。 「モトニホンジン舐めんな」。 ってどう意味かはわからないけれど自慢気なのは確か。 これじゃあ魔法をすでに使い熟している私の立場がないじゃん! こうなったら……。
「空間も癒し魔法のどちらも、遣い熟すことが出来ずに生涯を終える者もいると言われるほどに難しいはずなのにスゴいです。 その上誰も知らない魔力の使い方を発見するなんてさすが聖獣さま、カキさまっ! 」
カキ様のドヤ顔を我慢しながら響き渡るような声で褒め称えていたら、案の定わらわらと里のみんなが集まってきたので、改めて身体強化魔法のことと空間と癒し魔法の習熟具合を伝えつつ、爺婆たちをカキさまの方向へと誘導していく。
「カキさまはみんなを癒すことに忙しそうだから、私が身体強化魔法を教えるよ~」
「さすがエライザ」
計画通り!
あっカキさまがジト目で見てきてる……。 フフフ、あんなにドヤ顔を見せてくるからイケナイのですよ。
それに私の胸を笑ったことは許さないんだから!
でも実際のところ、癒しの魔法の威力はスゴイんだよね。
そもそも癒し魔法を授かる人が圧倒的に少ないのもあるけれど、治せるのは外傷だけというのが普通だったのにも拘わらず、試しにして貰ったら普通に病気の人も治しちゃってるし。 それに癒し魔法は魔力をかなり消費すると言われていて、里にいる熟練者でも怪我人を3人も治せば魔力切れで倒れちゃうのに、なんともない様子で何十人も治しているし。 なんだかんだいっても、やっぱり聖獣さまなんだよね。
ただなぁ……そんなに治せることがわかったら、いつもそこらじゅうが痛いとブツブツ言ってる爺婆だけじゃなくて、近隣の里からも来ちゃうけど大丈夫かな? まぁそうなったらマタタビやマッサージをして癒してあげよう。きっとお礼の品が家にも回ってくるだろうし。
ようやくカキさまが旅に出ることを決断してくれたのはよかったけど、どうして「エライザと行く」。 ってハッキリ言ってくれないのか……。 おかげでなんか山ほど立候補してくる人たちが出てくるし、選考会とかいう明らかに暇つぶしイベントが開催されちゃってるし。
最終的に私を指名してくれたからよかったけどさ。
でもようやく世界を見て回れる!
我輩は猫又である マニアックパンダ @rin_rin_rin
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