第8話 〜閑話 〜 エライザの企み
「おっエライザ狩りか? 気を付けてな」
「はーい、行ってきまーす」
「美味い肉をよろしくな〜」
門番のおじさんに視線を切るように道なき道へと逸れて深い森の中へと入る。
里から出て世界を見て周りたいと両親に言ったけど、お前はまだ若いからダメだと反対されてから、いつかのためにという理由で狩り係にされて30年ほど。 一体いつになったら行けるのか。 誰か私を連れ出してくれるような素敵な人が現れないかな〜。
誰も来たことがないお気に入りの丘で寝転んで、空をボーっと見上げながら時間が経つのを待つ。 昨日捕ったボアがまだ収納バッグに入ってるから、これを今日の成果として出せばいいのでおサボりタイムだ。
里での生活は確かに楽しいけれど、全く刺激がない。
少し前……50年かそれくらい前に迷い込んだ6人の普人族冒険者たちから聞いた、旅する間に起きた様々なハプニングや出会い。 大怪我を負っているのに、とても楽しそうに笑う彼ら彼女らの姿が、すごく印象的だった。
あの日から外の世界への憧れているけれど、お母さんお父さんを始めとして、里の誰も私が外に出ることを許可してくれない。
最近なんて、近隣の里の男と結婚すれば? なんて勧めてくるし。
いっそ家出してやろうかとも企んだけど、お母さんとお父さんが悲しみそうだから、それも出来ないでいる。
「ニギャア〜! 」
えっ? 今赤子の泣き声がどこからか……。
声の方向に耳を澄ませ視線をやると、アカゴサライが何かの子供を掴んで飛んでいるのが目に入った。
放り出していた弓を構え、矢に魔法を込めて狙い撃つ……命中っ! 落下で死にはするだろうけれど、それでも私の手で傷付けるのは嫌なので、アカゴサライが掴んでいる子供に当たらないように気を付けながら立て続けに矢を放った。
よし、落ちてきた。
落下地点に急いで走る。 滅多に捕れないけど、アカゴサライのお肉は美味しいから他の魔獣や動物にとられないようにしないと。 攫われていた子供が何かは分からないけれど、原形を留めていてくれたらいいなぁー。
えっ?
な、何今の??
地面に激突すると思ったら、地上10mくらいのところで四角くいモノが光ったと思ったら、アカゴサライと何かの子供みたいなのが弾んでるんだけど……。
「えっ? 聖獣さま!? 」
最初は珍しい色の猫かと思ったけど、尻尾も長いし二又に別れてるので聖獣さまみたいだ。
えっ?
耳にはニャーニャーという声が聞こえてくるけれど、頭の中に声が響く……え?
やはり聖獣さまだっ! 昔見た聖獣さまはこんなこと出来なかったけどスゴい。
……なんか今、侮辱するような視線を感じたような。 気のせいだよね?
この聖獣さまはどうやら自分のことがよくわかっていないらしい。
名前はカキさま。 こだわりがあるみたいで何度も発音練習をさせられた……妙に人間くさいけど、聖獣さまの考えていることなんて、私のようなただの可愛い森の民にわかるわけないよね。
話を色々聞いてみたところ、とんでもない人生? 猫生?を経てここに辿り着いたことがわかった。 というか、もしこれをただの人が言ったとしたら、あぁ頭の病気なんだな。 って可哀想な目で見られるヤツよね。 まぁ私は、可愛くて理解力のある森の民だし、相手も聖獣さまだから荒唐無稽な話を受け入れることが出来るわけだけど。
聖獣さまをこのままにしておくと、また魔獣や普人族に襲われそうだから里に誘ってみたら、前のめりに返事がきた……やっぱり人間くさい。 いや、元人間だったからそうなんだよね。 んん? ということはさっき感じた侮辱の視線はやっぱり? いやいや、こんな若くて可愛くて理解力のある森の民の私に対しておるわけないよね。 うん、気のせい気のせい。
「聖獣さま!?……エライザがお連れしたのか? よくやった」
里にお連れしたら、みんなカキさまに驚いたあと私を褒めてくれる。
みんなに見せつけるように遠回りをして長老の家に行く。 あぁ賞賛の声が気持ちいい。
「せっせっせっ聖獣さまっ!? ありがたやありがたや……」
プッ……なんか身体を投げ出して拝み始めた。 えぇ〜? 失神するほど?? 確かに聖獣さまは珍しいし、会話出来るなんて初めて聞いたけど、そこまでになる? ちょっと引くんだけど……。 いやでもこの感じなら、カキさまが一言言ってくれれば、私の長年の夢である里からの脱出が可能かも?
「エライザや、里のみなに言うのじゃ。 このミシュライラに聖獣さまがお越しになられたことを祝う準備をすることを! 」
誰かに伝えようと長老の家を出たら、もう既に広場に祭壇みたいな物が設置され始めてた。 あっ、カキさまがお肉に期待してたからアカゴサライを提供してこなきゃ。
それにしてもみんな張り切ってるなぁ〜。 いつもすぐにどこかが痛いって言っては、若い私たちに仕事をさせようとしてくる爺婆が、見違えたように動き回ってるし……。 ちょうど夕食時ってこともあったからもあるだろうけど、すごい勢いで料理が作られていってるから、私はお手伝いに呼ばれることもなさそうでよかった。 まっ、もし言われてもカキさまのお世話と言って逃げさせてもらうけど。
「な、なぁ……俺祀られる感じなの? 」
祭壇に座ることを伝えられたカキさまが戸惑ってる。 その気持ちはよくわかるけど、座ってもらうしかないんだよね。
カキさまが居心地悪そうに座った瞬間、長老を初めとした爺婆から年齢順に列を作って並んで、カキさまに挨拶をし始めた。
「おいエライザ。 このアカゴサライが聖獣さまを掴んでいたのか? 」
「うん、そう」
「こいつの肉を喰らえば御利益がありそうだ」
挨拶を終えた人や、まだ挨拶には時間が掛かりそうな人がこぞって拝みながら肉に手を出し始めた! ヤバイ、せっかくのアカゴサライのお肉が無くなっちゃうっ。 やっぱり美味しいっ! 自分で捕ったと思うと尚更だよね。 残っているうちにこっそりとおやつ用に保管しとこっと。 危ない危ない、気が付いたらもう全部なくなってた……あっ、カキさまの分がないや。 ま、まぁしょうがないよね。 食い意地が張った里のみんなが悪いってことにしとこっと。
「聖獣さま。 どうかこの里におられる間は我が家をお使い下さいませ」
『嫌なんだけど……エライザの家に泊めてくんない?』
長老が家を提供しようと声をかけたら、ウンザリしたような口調でカキさまが頭の中に話しかけてきた。 そりゃそうだよね、長老の家なんかに泊まったら、朝から晩までずっと拝まれそうだし気が休まらないよね。 でもう〜ん……元人間の男なんだよね〜。 猫の身体だから何かされることはないんだろうけど……う〜ん、まぁ里を出るためってのもあるししょうがないか。
『大丈夫ですけど、長老にはご自分で断ってくださいね』
『……断ったらショックで死んじゃわない? 』
『……頑張ってください』
確かに話をしただけで失神しちゃうんだから、断られたら死ぬ可能性は大いにあるよね。 だけど私が言ったら絶対に聞いてくれなさそうだし、人殺しになりたくないから自分の口で断って貰うしかない。
「聖獣さまを丁重にもてなすんだぞ」
どうやらちゃんと断ることができたみたいだ。 自分が断られたからって、そんな睨みつけるようにしなくてもいいのに……。
ふふっ、カキさまが長老のことをシワシワエルフとかって呼んでるの知ったら、長老ポックリいっちゃいそうだよね。 今度なんか怒られたら言ってやろうっと。
「では今日は私と一緒に寝ますか? 」
「うん……うんそうだね」
なんかまた侮辱の視線を感じたような……。 いや、うん、そんなわけあるはずない。 こんなに若くてピチピチで可愛くて優しくて最高の私にそんな視線を向けるはずないし。 でも一緒に寝るのは……うん、やっぱり却下だね。 なんか時々エロおやじのような雰囲気を感じるのは確かだし。
「これが知られたら里のみんなも寝たがるかも」
「お、俺はそこの箱でいいよ」
「そうですか? じゃあせめて毛布くらいは敷かせて頂きますね」
ふふっ、してやったり!
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