6 優しき生き物

「なるの祖先たちがどんな文明を作っていたのか、知りたくてね」

幼馴染のエルフのイリスは言った。


現在、人類文明を受け継いだのはAIたちだ。

エルフ勢力とAI支配地域は、未だくすぶっていて、簡単には近づけない。

もちろんAIたちにとって電力は必須なアイテムだ。


「綺麗な図書館だね」

とエルフのイリスに褒められて、人類として少し嬉しくなった。

12年前、ぼくが生まれた時には、この地域の人類文明は、崩壊し始めていたから、実際の人類文明をぼくは知らない。


その人類文明の遺産である図書館がある程度綺麗なのは、あのガーゴイルが、何かをしているのだろう。


電力の供給がなく空調が動いてないらしく、図書館には本の香りが充満していた。


自動ドアがあったと思われる所には、木で出来た重厚なドアに代えられていた。

照明のない図書館内は、どこか薄暗かったが、深い趣を醸し出していた。

きっとセンスの良いガーゴイルなのだろう。


イリスは見たかった図鑑のコーナーに向かった。


イリスは図鑑を選び、木で出来た頑丈な椅子に座って、ぼくに隣に座るように、隣の椅子をポンポンと叩いた。

多分、ガーゴイルが新しく選んだ椅子だ。

キャンプ場にありそうな頑丈な椅子だ。


イリスの隣に座ると、イリスと腕とぼくの腕が擦れあった。

楽しそうに図鑑を見つめるイリスの横顔は、好奇心に満ちていた。

エルフの知能の高さが伺えた。

同じ年だけど、ぼくよりあどけないイリスは、まるで賢い妹を見ているような気がした。


そんな幸せな雰囲気の中、少しだけ気になることがあった。

何かの気配を感じるのだ。


空気の流れのない図書館を、じっと見まわした。

何かいる!

ぼくが剣に手を添えると、その行動に反応するように「コト」っと音がした。

やはり!


するとイリスが、剣に添えたぼくの手に触れて、首を振った。


「なに?」

「剣から手を離して」


ぼくはそっと剣から手を離した。

イリスは図鑑を捲り、

「きっとこれ」

と図鑑をぼくに見せた。

図鑑には優しそうな生き物が描かれていた。


「コロボックル?」

「そう優しい妖精たちだよ」


ぼくは図書館内を見渡したが、コロボックルの姿を見ることは出来なかった。

きっとぼくが剣に手を添えてしまったからだろう。

もう姿を見せてくれないのかも知れない。


「きっとこの図書館は、ガーゴイルとコロボックルが守ってるんだよ」

イリスがぼくの耳元で囁いた。


そう言われると、ガーゴイルの頑丈さと、コロボックルの繊細さが、良い感じに重なり合わせているように見えた。


イリスが図鑑に満足した後、ぼくらは図書館を後にした。

結局、優しき生き物のコロボックルは、姿を見せる事はなかった。


「きっと次来た時は、姿を見せてくれるよ」

イリスはそう言うと、優しく微笑んだ。

エルフのイリスも、優しき生き物なのだろう。



つづく

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幼馴染のエルフは全部見えちゃうそうです 五木史人 @ituki-siso

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