5 幼馴染のエルフと初めての長旅

夜になると、完全な暗闇がぼくらを包んだ。

科学文明の煌々とした街の明かりは、遠い昔の話だ。

まるで眩い科学文明に疲れた大地を、完全な暗闇が癒しているかのようだ。


少なくともこの地に置いて科学は、魔力に負けてしまった。


ぼくはその闇に包まれた荒野に、小さなテントを張った。

テントの中には、幼馴染のエルフの少女が横になっている。

ランプの灯りが、その美しい横顔を照らしていた。


朝になったら、ぼくらや大きな街の図書館に向かう。

エルフのイリスが、人間たちが作った図書館を見たかがったからだ。


      

          ☆彡



もの心が着いた時から、大好きだった幼馴染イリスの、すべてを見続けるのは、トキメキ過ぎて、おかしくなりそうなので、ぼくは魔道具【すべてが見えるゴーグル】を額に上げた。


「どうしたの似合ってたのに」

イリスは、ぼくの目を見つめながら言った。


「うん、ちょっと熱くなって」

「そうなんだ」


ゴーグルを外すと、服を着ているイリスが現れた。

見慣れたイリスだ。


今日のぼくらの目的は、大きな街の図書館に行くこと。


幼馴染のイリスは、ぼくと同じ年のエルフの少女だ。

エルフと人間の成長時間が違うため、ぼくより、かなりあどけない。


「なる、見て」

見上げると上空には、ガーゴイルが飛んでいた。

なかなか恐ろしい出で立ちだ。


不安になるぼくにイリスは、ぼくの耳元で囁いた。

「大丈夫だよ、ガーゴイルは基本攻撃はしてこないから」


多分、イリスの口がぼくの耳に触れる寸前の距離だ。

イリスの吐息が、ぼくの耳に当たっていた。

その距離だと、森の住人のエルフの、透き通るような香りがする。


ガーゴイルは確かに、上空を静かに飛んでいるだけで、攻撃してくる様子はないみたいだ。



大きな街は、まるで時間が止ったかのように、佇んでいた。

AIによる管制がなくなった街は、みんなそうなる。


AIに管制されていない不便さを嫌った1部の住人は、AIによって管制されている街に向い、1部の住人は、ぼくらのようにエルフと生きる事にした。



ファンタジーな生物は、予言されていたように、北極圏から南下してきた。

この島国には主にエルフが移住して来た。

温厚で知性の高いエルフの移住は、とても幸運だったと思う。


幾つかの戦闘は有ったけど、他の地域に比べたら、平和的に『移住』が進んだ。

イリスによると『帰還』らしいが。


ゴブリンの集団が集団移住して来た国では、12年経った今でも戦闘が続いているらしい。


ぼくとイリスは、大きな街の図書館に入った。

「本がこんなにある!」

図書館に入ったイリスは目を輝かせた。


そこに

「おい!人間&エルフの少年少女諸君!

誰の許可でここに入ってきてるんだ?」

とスライムがぼくらの周りに集まってきた。


思いっきり悪そうな雰囲気を醸し出している。

最弱のくせに。


とは言え、ぼくらにとっては強敵だ。

ぼくはイリスを守る為に、剣を抜いて構えた。


「そんな初心者仕様の剣などしまいな!

俺たちにはこの街のラスボスがついているんだ!

そんな初心者剣で戦うなんて、笑わせるな!」

と最弱感いっぱいのスライムは言った。


確かにぼくの剣は、初心者仕様だけども。


ラスボスって何だろう?

と思ていると奥の方からゴブリンが一匹現れた。


スライムよりは強いけど、ザコキャラじゃないか!

ザコキャラなのに、スライムを従えたゴブリンはラスボス感を出そうとしていた。


まあスライムダあろうと、ゴブリンであろうと、ぼくらにとっては強敵なのは、変わりない。


ラスボスなゴブリンは

「ほお、お前は俺がゴブリンだと知って、剣を抜いたのか?

世間知らずにも程があるぜ!

広い世界ではな、ゴブリンさまには誰もがひざまずいて許しを乞うものだ」


どこの広い世界だろう?


ぼくの背中でイリスが、

「あたしに任せて」

と囁いた。


エルフのイリスは魔法使いだ。

攻撃力は低いけど、かなり高度な魔法を使う。


ラスボスなゴブリンは、「ふっ」と笑って、

「見るからに魔力が弱いじゃないか、このエルフは」


イリスは、

「魔力が弱くたって、召喚魔法なら問題ないでしょう!」


召喚魔法!


イリスの召喚魔法なんて見た事がない。

ぼくがまだイリスの事を、知らないだけなのかも知れない。

いつも一緒にはいるけど、種が違うエルフだし。


「やってみろや!」

ラスボスなゴブリンは強気だ。


イリスは魔法の杖を握ると、魔法を唱えた。

「ゴブリンさん、本踏んでる!ゴブリンさんが大切な本を踏んでるぅぅぅ!」


「これが召喚魔法?」

ぼくらが通っている中学の教室で良く目撃するシーンだ。

イリスは学級委員長なのだ。


確かにゴブリンは、落ちている本を踏んでいる。

ラスボスなゴブリンもスライムたちも「だから?」って顔をした。


そこに一陣の風が吹いた。

一瞬、何が起こったのか解らなかった。


ゴブリンは何者かに、図書館の外に投げ飛ばされた。

「ひぃぃぃぃぃ!」

その様子にスライムたちは、一目散に退散して行った。


そしてぼくの目の前には、ガーゴイルがいた。

ガーゴイルが、ゴブリンを投げ飛ばしたのだろう。

なんでガーゴイルが?


ガーゴイルは、

「本は大切に」

そんな事を呟いた後、ぼくらの前から姿を消した。

「・・・」


イリスは説明した。

「ガーゴイルは知識を尊ぶ。

だから時として図書館司書のような事をする事があるの」

「かなり凶暴な図書館司書だけど、あの投げは意識を失う程の威力はあったはず」


ガーゴイルの顔は美醜は兎も角、知的な顔をしていた。

美醜は兎も角、ガーゴイルとエルフは似ていた。

エルフとガーゴイルは、相性が良いのかも知れない。


「でもこれって召喚魔法って言えるの?」

「結果的には召喚魔法だよ」

「そうなんだ」

「この世界は、結果がすべてでしょう」


つづく

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