【No.050】天国から地獄
天国と地獄のBGMが聞こえる。
幻聴!?
いや……これは…………
『何をぼーっとしている。
早く、続きを書けぇーっ!』
一人の男が、俺に向かって、金切り声を上げた。男は、俺のベッドに腰掛けて、俺の本棚から勝手に本を出して読んでいる。青い髪の長いイケメンで、背中に白い羽根が生えている。明らかに人間ではない。
「あの〜……その音楽、止めてもらえませんかね?
気持ち的に焦っちゃって、集中して書けないんで」
日本人の悲しい習性だ。毎年毎年、運動会で聞かされて育つのだ。嫌になるほど身体に沁みついてしまっている。
俺は、パソコンのキーボードから手をどかして言った。
『あーそれは無理。時限タイマーつきだから。
……あ、言い忘れてたけど、この音楽が終わるまでに書き終えなきゃ、キミ、地獄行きだからね~』
「なんで?! そういう大事なことは、もっと最初に言って?
いや、ってか、そんなん無理ゲーっすよ!」
男は、俺の悲痛な叫びを無視して、本を読み続けている。
どうやら天使長さまのお気に召したらしい。
ふふふ……それは、俺のイチ押しの作家が書いた作品だからな、当然……いや、だけど、話す時くらい、こっち見て話せよ。俺に失礼だろ!
『……え、まじ?
人間って、紙まで食べるの?
うわー……ヤギかよ……まじないわぁ~』
食わねーよっ。
そりゃ、フィクションだからな!
大丈夫だろうか……誤った人間の知識を持ったまま天界へ戻ってしまったら…………ま、いっか。俺には、関係ないし。
天国と地獄のBGMは、クライマックスが近い。
どうやら音楽を止める気はないらしい。
俺は、慌てて、パソコンに向き直った。
まだ童貞も卒業していないのに、地獄へは行きたくない。
タイトルは、こうだ。
『異世界に転生したくて自殺したのに、天界で「異世界なんて存在しない!」と言われて追放されました。仕方がないので、地獄で無双して神になってやろうと思います。』
……なんだ、これは。
俺は、一体何を書いているんだ……?!
話は、少し巻き戻る。
いつものように俺がパソコンに向かって、WEB小説を書いていた時のことだ。
突然、一人の天使が現れたのだ。
神々しい光を背負ったまま、その青い長髪の天使は、言った。
『いやー今ね、天界は、まじ困ってるんだよねぇ~。
だから、キミに解決して欲しいんだ~』
砕けた口調だが、見た目はイケメン天使。
喋らなければ、イケメン天使。
「なんで俺なんでしょうか?」
『それは、君がWeb小説とかいうのを書いているからだよ~』
「はぁ……確かに俺は、カクヨムで小説を書いてます。でも、そんなの俺以外にもたくさんいますよ」
『〝運命のルーレット〟で決まったんだ。
神の意志ってやつだな。黙って従えっ』
なんて適当なんだ、神の意志!
ここは、『君の書く小説に感動したのだ!』とか言って欲しかった。
そう言ってくれていれば、もっとやる気も出ただろうに……。
それに、〝運命のルーレット〟だなんて……どこかで聞いたような曲名だ。天使は、人間の音楽を聞いたことがあるのだろうか、と俺は、そっちの方が気になった。
「……で、その天界で困っていることっていうのは、何なんですか?」
天使は、俺が話を聞く姿勢になったことで気を良くしたのか、いきなり相好を崩して、親しげに話し掛けてきた。
『いや実はさぁ~、異世界に転生したい人間たちが自殺しまくってて、天界は今、魂が増えすぎて困っているんだよ~。孫の手も借りたいくらいでさぁ~。
ほら、なんでも最近、WEB小説? とかってやつで、死んだら異世界に転生できるーって話題になってるんだって?
フィクションだっつーの! そんなの信じるやつがいるかよ、ありえねぇよな。
誰だよ、そんな小説書き始めたのは……まじやめて欲しいわぁ~』
いや、お前が言うなよ。
さっき、フィクション読みながら、ありえねぇ誤解してたからな。
俺は、しっかり聞いてたぞっ。
「それで……俺は何をすればいいんですか?」
なんか、面倒くさそうな天使だな。
適当に言うこと聞いて、さっさとお引き取りしてもらおう。
『〝死んでも異世界には転生できない〟と言う小説を書いてくれ』
「断ったら?」
『地獄へ落ちてもらう』
なんて理不尽なっ!
この悪魔っ! 人でなしっ!!
本当に天使なのか?!
『やるか、地獄か、君には二択あるっ』
いや、一択だろ。どう考えても、地獄はねぇーよ。
こいつ、本当は天使じゃなくて、悪魔なんじゃないのか?
「………………やります」
そんなわけで、俺は、今、変な天使に脅されて、仕方なく書きたくもない小説を書いているわけだ。
くそっ、俺が本当に書きたいのは、もっとハードなエロ小説なのに!!
ふいに、天国と地獄のBGMが途絶えた。
しまった、回想シーンに時間を掛け過ぎてしまった……!
『出来ないようだな……』
天使は、ゆっくりと読んでいた本を閉じると、小脇に抱えて立ち上がった。
……いや、何こっそり人の本をパクろうとしてんの?
それが天使さまのやることなんですか??
「いやっ、ちょっと待ってくれ。
第一、俺が書かなかったら、あんたも天界も困るんだろう?
だったら……」
『それなら大丈夫だ。
カクヨムでWEB小説を書いているやつは、他にもたくさんいるからな』
にやり、と口角を上げた天使の頭に、俺は、二本の角を見た気がした。
『地獄へ落ちろぉ~~~!!!』
天使が親指を下に向けると、俺の足元が音を立てて崩れていった。
真っ暗な底のない闇の中に俺は落ちて行く――――。
「ぬおーーっ!!
くそーっ! お前ぇ~……覚えてろよぉ~!!!」
……くそっ、せめてもっと三流っぽくない捨て台詞を考えておくべきだった!
そして、次に俺が目を覚ました時、そこは地獄だった。
目の前には、血のような色をした煮えたぎった池がある。
これから俺は、一体どうしたらいいんだ……。
『あんた、人間?』
ボディコンに身を包んだグラマーなギャルが俺に話し掛けてきた。
少し日に焼けた生足が光って見える。
うっひょ~~~!
地獄に仏! ……じゃない、美女っ!
「ええ、そうですが……お嬢さん、私に何か用ですか?」
俺は、声のトーンを二つ落として言った。
無意識に腹にも力が入る。
……だが、これは結構疲れる。
『うん。ねぇ、あんた、WEB小説っての、書いてるの?
これ読んだんだけど……』
そう言って、美女が俺に見せてくれたのは、俺のパソコンによく似たパソコン……って、俺のじゃねーか!
そうか、地獄に落とされた時、一緒に落ちてきちゃったのか。
「あっ……ああ。それは、俺が書いたんだ」
『へぇー、あんたカクヨムやってんだ。
じゃあさ、ちょっと私のお願い聞いてくれないかな?』
「なんでも言ってください」
俺の声のトーンがもう一つ下がる。
……くっ、これ以上は、無理だっ!
ボディコン美女が、にっこりと俺に笑いかけて言った。
ああ、胸の谷間が美しい……!
『『地獄いいとこ一度はおいで酒はマズイし女はうまい』ってタイトルで、何か書いてよ。地獄に行きたくなるようなやつ』
……あれ?
良く見たら、この美女、お尻から尻尾が生えてる……なんか、悪魔みたいなやつ。
『それか~……あっ、そうだ。
『天界の「異世界なんてない!」というのは、嘘!みんな、騙されるな!異世界は本当にあるよ!だからみんなで異世界へ行こう!』っていうのは、どうかなぁ~?』
「あの……念のためお聞きしますが、お嬢さんの目的は、もしかして……?」
『うんっ!
い~っぱい人間が死んだら、天界のやつら、困るでしょ?
そんでもって、地獄に落としてくれるから、人がいっぱい増えるじゃん?
だからだよ~♬』
……なんてことだ。
俺が地獄へ落とされたのは、巡り巡って、この女悪魔の所為だったのか!
くそっ!
その谷間を強調するの、やめろ~っ!
……こうなったら仕方がない。
俺は、紳士なんだ。
女には、手を出さない主義だ。……童貞は関係ないぞっ!
「くっ……こうなったら、本気でなってやろうじゃないか!
こうして俺の地獄からの下剋上物語が幕を開けた。
BGMは『天国と地獄』じゃない。
スーパ〇フライの『Ashes』だ!!
タイトルは、もちろん、こうだ。
『『異世界に転生したくて自殺したのに、天界で「異世界なんて存在しない!」と言われて追放されました。仕方がないので、地獄で無双して神になってやろうと思います。』……という小説を変な天使に書かされて、出来ないと地獄に落とされました。だから、異世界転生小説をたくさん書いて天界を脅して神になってやろうと思います。』
† Ψ † Ψ † Ψ † Ψ † Ψ † Ψ † Ψ † Ψ
KACのノリで書いてしまった……っ!
Σ(゚д゚lll)ガーン
書きましたよーっ!
シノミヤ師匠に「書けや、こらぁ!!」と脅されたので書きました♡
……あ、嘘ですよ💦
シノミヤ師匠おこんないでぇ~!!
๐·°(৹˃ᗝ˂৹)°·๐
も~連載があるのにぃ~!
……え? 現実逃避だって?
そ、そんなことは……ヽ(・ω・ ;ヽ)三(ノ ; ・ω・)ノおろおろ
ちなみに、わざと台詞を統一させず壊すことで、天使男の奇抜なキャラを演出してみたのですが、どうでしょうか?!
あ、でも嫌いな人には嫌いなキャラだと思います。
うん( ºωº ) 私も嫌いw
きっとシノミヤ師匠なら、もっと綺麗に面白く書いてくれる筈……!
.。.:*・'(*°∇°*)'・*:.。.(←期待の眼差し)
あ~すっきりした~♬
❀(*´▽`*)❀
【SAC】世界が終わるまでは 風雅ありす @N-caerulea
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