日記という名の備忘録

@shiinarata

2024 3/31

缶ビールを飲み干す道すがらに、パーラメントを3本吹かして夜を後にした。

イヤホンから流れるブルーハーツが涙を誘わないことが、私の中の孤独感が枯れてしまったことを意味しているように思わせる。一人では何も成し得ないくせに、私は独りではなくなってしまったのだ。

徐に歩き出したは良いものの、自立歩行が難しくなってしまって、静かな団地の最中に立ち竦む。将来への不安とか、人を信用出来ないこととか、ひねくれた性根に由来する感情を整理するためだ。飽き性の私は、一分と立たぬ間にその残滓を路上に吐き捨てて帰路に着いた。


皆はよく私のことを「気難しい奴だ」と宣うが、当の私からすれば世界の方がよっぽど複雑で難しく思える。世に敷かれた生存システムがもっと簡単であれば、こんな風に酒に酔って頭を抱えて、己が行く末を案じる必要もないだろうに。


暗い外を飛び出すと、玄関にバターの香りが漂っていた。優しさを上着と一緒くたに脱ぎ捨てて殻に閉じこもる。その隙間で、ご飯、食べないのと彼女は私に問うが返事は曖昧で、私は食べると答えるが、それはうわ言のようだった。頭と心がぐちゃぐちゃで、歌詞を認めようにもメロウを奏でようにも、それを塞き止めんとするダムが城壁のように聳えて、渦巻き状に濁る私の懊悩をより一層駆り立てるせいだ。


その最中、私は悟った。私の仄暗い人生をいつだって薄明るく照らしていたのは、音楽であると同時に言葉であると。人類文明の原初に位置する概念は、知らぬ間に私を救っていたのだと。そうして、かの法師のように徒然なるままに筆を執り、文言を綴り出したのであった。


ヘッドライトさえも走らない閑静な街は瞬く間に朝に呑まれ、気付くと私の言葉が目覚めたのは翌日の昼であった。労働の暇、鬱屈とするそのネガティヴを良いように扱ってやるにはこうする他ないからだ。

気を抜くといつも頭蓋にはアラートが響いてしまうから、マルチタスクが不得手な私の脳みそは高速回転をするフィルムが焼き切れるかの如く働き続ける。忙しないその運動はキャパシティなど優に超えて、いつも私への視線に欠陥を齎すから、一様に外みだけを見る彼らは私を茫然自失と嘲笑う。嘘が上手い私は、その糸はさしずめ愛に由来するものと騙すのである。


実のない時間を過ごし、実態のない理解を手に収めて、今も尚、行く宛のない手紙を書いている。きっと私のことであろうから、一時も経たぬ内に放り出してしまうことだろう。そうなってしまった後、ふと記憶の残り香を辿り、このメッセージを反芻しながら咀嚼した時。毒牙のような戒めが私を苦しめるのならば、動悸を抑えて文字を連ねたこの時間も愛せるだろうから。

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