第10話 双頭の大蛇アンフィスバエナ!魔境グンマー奥地に恐怖のオーク族は実在した!-⑤

 レッドロック村から国道を行く事20分。

 徒歩の時は無限の彼方に思えたグラスポート町も、車で向かえば一瞬だ。

 昨日までの緑茶二色が嘘のように、開けた賑やかな温泉街が私たちを出迎える。


「ムカイさん、ありがとうございます。助かりました。」

「いいの!いいの!あのお化け蛇に困ってたのはみんな同じだもの。急いで報告してあげてちょうだい。」


 カラカラと笑うオーク族の女性に礼を述べて、私たちは今回のクライアント、グラスポート町内会のもとへ赴く。


 要件はもちろん、昨日のアンフィスバエナ討伐の報告だ。

 結果的に事後報告になってしまったが、仕方あるまい。

 あれほどの大物が出て来るとは想定外だった。


 と言うか、それこそ事前に何かしら注意喚起しておいて欲しかったんですけど…

 まあ、私のような出来るエリートの段取り力を万人に求めるのは酷かな?


「まあ~!遠路はるばる、よくおいで下さいました!」

「ウェンズデイ株式会社のナスル・ブン・ハイヤーンです。本日はよろしくお願いします。」


 アンフィスバエナの頭部は盛大に吹っ飛ばしてしまったが、討伐の証拠部位と資料用フォトは抜かりなく回収してある。


 後はこれらを提出して、事の顛末を町内会長に報告すれば、今回の仕事はクローズ…

 のはずなのだが、どうにも雲行きが怪しいぞ。

 一体なんですか、その分厚いファイルは?


「早速ですけれど、今回討伐をお願いしたい魔獣について説明させてください。なんでもアンフィスバエナっていう珍しい魔獣だそうで、つい今朝も被害があったばかりなんです。」

「えっ、今朝!?」


 なんですと!?

 昨日の午後に死んだあの大蛇が、何をどうしたら今朝活動できるんだ。

 まさか、頭部を二つとも潰された状態から再生した?


 いやいやいやいや、百歩譲ってそうだったとしても、あのサイズの死骸が忽然と消えたら誰も気づかない訳がない。

 どういうことだ…


「見て下さい。こちらが、今朝襲われた鶏小屋の防犯カメラに写っていた映像です。」

「は、はぁ…鶏小屋?」


 豚を3頭丸呑みにするような奴の朝ごはんが鶏で足りるのか。

 釈然としないまま見せられた防犯カメラのスクリーンショットには、予想だにしない物が映っていた。


「っっっはぁぁ~!?なんだよ、このちっっっさい蛇!!こんなもんがアンフィスバエナのワケねぇーじゃんよ!!」

「ちょっと、ルーナ。クライアントの前で大声出さないで下さい。」


 いや、でも正直ルーナの気持ちは分かる。

 なんやこのしょぼい蛇。

 体長はせいぜい2メートルちょい?

 デカいっちゃデカいけど、身長比べでオークに負けそうだ。


 そりゃまあ確かに、頭部はちゃんと前後に付いているが、この大きさで捕食できるのは、小動物がせいぜいだろう。

 我々が死力を尽くして倒したあの大蛇と比較したら、槍と爪楊枝くらい差がある。


「えっ…と、これが今回ご依頼のアンフィスバエナ…ですか?」

「はい、その通りです。グラスポートのみならず、ここ近隣一体で鶏や兎が次々に襲われておりまして…酷いときには牛がお尻を噛まれたり、ブタが餌を横取りされたり、暴虐の限りを尽くしているのです…!」


 えー…

 じゃあ、私たちが戦ったあのバケモノは一体なんなんや


 あまりの事に呆然としていると、突如ナスル先輩が持っていた通信機がけたたましい呼出音を発し始めた。


 あ、やべ。

 そう言えば課長への連絡すっかり忘れてたわ。


「すみません、ちょっと失礼します。もしもし、ナスルです…」


『ナスル!ナスルか!やっと繋がった!緊急事態だ、君たちが向かったグンマー西武森林で、ヒドラの目撃情報が上がった!頭が2つしかない奇形との事だが、侮るなよ。その分ヒドラ特有の再生能力が集中して、より厄介に…』


 …え?ヒドラ?

 改めて、目の前のアンフィスバエナの写真を見てみる。

 この瞬間、私たち3人の心は、入社以来もっとも深く一つになっていたのだと思う


「「「ふざっっっけんなよ!!!蛇違いかよ!!!」」」


 私たちの悲痛な叫びは、魔境の深い緑の狭間に、虚しく消えていった。


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はい、こちら認定魔獣捕獲等事業者ウェンズデイ(株)でございます

双頭の大蛇アンフィスバエナ!魔境グンマー奥地に恐怖のオーク族は実在した!-終わり


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はい、こちら認定魔獣捕獲等事業者ウェンズデイ(株)でございます 海原 阿比介 @unabaraabisuke

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