黙示
平 一
黙示
表紙:
https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818093074700707652
図1: 聖人
https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818093074696656379
「悪魔よ、退け!」と聖人が叫ぶと、
今にも襲いかかりそうだった魔物は消え
垂れこめていた恐ろしい黒雲も引いていきました。
物陰に隠れていた人々はただ感心して、
その光景を見守るばかりです。
かつて私は各所で、そんな舞台を演じていました。
しかし、心の中ではこう思っていたのです。
「この銀河系には、皆さんよりも
進歩した種族が数多くいます。
私は彼女達を統治する星間帝国のために、
貴方達の文明発展を助ける仕事をしています。
でも、ご免なさい。 今はまだ、
そのことをお知らせできないのです……」と。
図2:銀河帝国
https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818093074696776151
文明とは、高度な技術を伴う生活様式です。
技術は私達に大きな力を与えますが、
それは
それまで、古き先進種族と突然に出会った
若き発展途上種族は、遥かに進んだ文明を前に、
過剰依存や
突然得られた高度な技術の悪用・誤用や副作用から
衰退・自滅してしまうことが多かったのです。
そこで私は、皆様の目から私達の存在を隠して、
秘密裏に観察・支援する方法を考えました。
特に「全能なる神は善き人々を救う」という神話は、
人々の心を癒し、救いを与える文化活動であると共に、
社会を健全に保つ政策を助ける、優れた社会技術でした。
それは知的種族が
それらが速く育ちすぎないよう社会のために制御して、
初期文明の発展を支援するのに大きく貢献したのです。
図3:神話
https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818093074696861085
何しろ帝国の最先進段階にある種族達は、
全ての人々の人格を量子頭脳網に
そうした種族は
種族全体が帝国の様々な役職を務められます。
また、個々の人格が量子頭脳に宿って母星外に
様々な生物・機械工学的身体に人格を
自由自在に活動することもできるのです。
様々な星で神話を広めるために天使や聖人、
悪魔や怪物を演じるのは
図4:物語
https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818093074697164275
後に私は、若き種族が帝国と公式に接触したとき
皇帝種族が支持を得やすいよう、配慮も加えました。
偉大なる皇帝種族のような性格の神を中心に、
他の様々な種族に地位や外見が似た天使や悪魔が
登場する神話を、作って用いるようにしたのです。
皇帝種族は
見識の高い種族でした。
その昔、近隣恒星の新星化により滅びかけた
私の種族を救ったのは、
すでに多くの種族を率いて星間帝国を建設しつつある、
彼女だったのです。
図5:皇帝種族
https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818093074697218975
彼女は銀河統一後の平和社会建設を念頭に、
肉体的にも性格的にも戦士には不向きな
その種族を助けました。
そして帝国の公用語で〝逆境に抗う者〟
〝滅びを拒む者〟という意味の名称さえ与えて、
私達の生存と帝国への加盟を祝福してくれたのです。
私の種族は彼女の先見的・人道的な配慮に心を打たれ、
その恩義に報いるべく民生分野での貢献を希望しました。
そして途上種族の支援に力を尽くした結果、
私自身もこうして
文明開発長官の地位を得ることができました。
図6:感謝
https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818093074697483716
しかし、そんな帝国にも問題はありました。
国家建設に功績のあった軍事種族の増加が止まらず、
特に皇帝種族の側近団をなす〝中枢種族〟達が、
領土拡大の停止と共に、腐敗と抗争に陥ったのです。
帝国政府は軍事技術による銀河統一に専心する余り、
経済・社会活動を健全に保つための利害調整や、
それに必要な人々の向上、政府組織の改革といった、
新政策の導入に失敗してしまったのでした。
図7:内紛
https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818093074697609987
中枢種族は新興の産業・技術種族に不法な要求を行い、
統一戦争に敗れて以来、発展を制限されてきた
銀河系外周の種族からも、資源を奪い続けました。
それに加えて彼女達は、
未来ある種族達を自らの
私達の支援計画にも非人道的な干渉を加えました。
力を増した中枢種族の一部はさらに、皇帝種族を
帝国の実権を
そして
皇帝種族を初め多くの種族を滅ぼして、
帝国を崩壊させてしまったのです。
図8:崩壊
https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818093074697999118
そこでこのたび、私達文官種族の
多数の有能な産業種族・技術種族や、
良識ある穏健派軍事種族と共に新王朝を設立し、
平和回復と国家復興に努めることを決めました。
私達はまた、恒星間を渡れる発展途上種族や、
銀河系外周種族とも協力を図りつつあります。
図9:新帝種族
https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818093074698038923
幸いにも、内戦以前から私の種族のもとには、
〝先帝〟種族から多数の人格が亡命・避難しており、
彼女達にその指導を
私達の願いは〝先帝〟が常に目指していた、
〝全種族のための文明発展〟です。
図10:継承
https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818093074698120545
未来ある若き種族が帝国に加入できる条件は、
惑星統一政府や恒星間航行技術を持つことですが、
内戦の
皆様との正式な接触は予定より早まりました。
戦いの
しかしこれまで人類の皆様は、
神話の中の倫理や道徳を見事に
時に
めざましい文明発展を
図11:繁栄
https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818093074698238129
それゆえ皆様は
必ずやきっと私達〝新帝国〟種族の誠意と熱情を信じ、
私達を逆族として討滅しようと
中枢種族の
自世界の平穏と繁栄を保ってくださることでしょう。
私達の新国家の理念とは、
政策が文明の発展に伴い、人々の向上を前提として、
国家の拡大・統合など広域化すると共に
民主化・自由化など分権化するというものです。
その理由はといえば、驚くほどに単純明白です。
図12:文明発展図
https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818093074698496084
技術の進歩に伴って、
経済・社会活動が拡大・省力・複雑化すれば、
より多くの人々が共に考えないと政策が運営できず、
それができる生活の余裕も生まれる一方、
それ以外の仕事はなくなっていくからです。
旧帝国においては銀河系の広大さが、
その発展を一時的に退行させていたにすぎず、
今後はさらなる生産・輸送・通信技術や
保健・教育・組織運営技術の発達によって、
政策の広域化と同時に分権化もまた可能、
かつ必要となりゆくことでしょう。
そのため私達は、〝先帝〟種族の
遺志実現のためにも将来の民主化を目指し、
必要な次世代技術の裏付けを得たうえで、
様々な種族の向上と協力を増進しつつ、
旧帝国の側近種族達と戦っています。
図13:防衛
https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818093074698606821
しかし、偉大な文明を築きつつある人類は、
いずれの陣営が勝利しようとも、
新たな銀河秩序の中核を担うまでに
発展できるものと、私は強く期待しています。
ですから人類の皆様、私は今、このように
真実を語れることをとても嬉しく思うのです。
図14:地球
https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818093074698823578
「……以上の
旧帝国文明開発長官にして新帝国皇帝種族たるサタンは、
帝国の慣習法に従い、
母星の量子頭脳網と当分離個体と派遣頭脳の名において、
この太陽系第三惑星〝地球〟を含む、
銀河系内の実効的支配領域における統治を宣言する……」
図15:天使な魔王
https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818093074699237552
黙示 平 一 @tairahajime
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