十四話まで拝読してのレビューです。
タイトルやあらすじから、わたしは相当の覚悟をして本作に臨みました。
作者さまは人間描写、ドラマを刻み出すことにたいへん長けておられる方です。そういう作者さまが、これだけ濃密な舞台設定でなにやら仕掛けられる、と。
ずしんと腹の底におちるなにかを受け止めるべく、腹筋を緊張させて向かったわけです。
あにはからんや。
たしかに明治、軍人、港町、半妖と、まあとろとろに煮詰めた情念に首まで浸かるような物語を予期させる要素が次から次へと押し寄せます。そしてそれらは偽りなく、おはなしの核を占める。
でも、違った。
ころころとなんとも心地の良いテンポで胸元くすぐられるような、えへへと笑みが溢れるような、それこそ強い酒に浸けた桜桃をラムネに浮かべてくちにするような、爽やかで妖しげで、どうにも魅力的な空気感。これっていったい、なんだろう。
きっと作者さま、そんな気持ちを胸に抱えて右往左往するわたしやあなたを見て、してやったりと口角を上げておられるのです。
してやられました。