第45話 魔法ソード少女、のマリティーとして

「ぶっつけの合体魔法せいこう……かぁしら〜〜っ。困ったことに、完璧な姉はできるヤツが分かっちゃうのよねー、慧眼けーがん。ね、トイ」


「そ、そうだねお姉ちゃん。こんなの見たことない、かも…」


「あぁーん?なんてったぁ? もっと腹から声出しなさいよーこのこのーあぁーお腹すいたーー」


「え、え…ごめ、でも…お姉ちゃん……っみみが……」


灰色の姉妹が見上げていた虹色の玉は、キラキラとソラにそのまりょく残滓の余韻をのこし────



やがて手を繋ぎやわらかな風をくだってゆく、黒セーラーと赤備え。


握りしめた──二つのツルギが舞い降りてゆく。


「おおーーーーい、おスカしさっなだふれーーーーい、はぁはぁ…まったくまったく何やったらあぁなるってのよー」


ポップは水色髪を揺らし、着地すると同時にいち早く駆けつけていた。


息を乱しながらも大声でポップはブランとふれいの2人に話しかける。

目を見合わせた隣り合わせのブランとふれいは──お互いの親指をゆっくりと立てた。


「ダイナミック──」


「ソード──!」


「はぁぁ? ってそれソピーズのイチバン代表曲じゃないのーー!!! ってなんでおスカしが知ってんのよ?(あんたそういうの興味あったの? さすがに人気バンドだから知ってた?)」


「なにをいってるの? 魔法ソード少女のことは調べているから、わかるわ」


「調べ…あんたおかしいでしょ…そこから入るのは。ま、いいわそれより天才マリティーポップのお膳立て──やってくれたわね!」


ポップもながされたようにノリよく右の親指を立て、2人に明るくウインクをした。


「ふっ、そうね。──ここにいる…魔法ソード少女だから勝てた」


「あはははまぁ、アソコにいるアレも? マリティーポップの次ぐらいには?」


壊れかけの無事な電柱にもたれかけていた銀髪、髪はいつの間にかうなじが見えるほど短くなってイメージが変わっているが顔は同じ。組んでいた腕をとき、3人へと近づいていった。


「馬鹿。そんなのはどうでもいいから、赤太郎と…黒太郎、怪我はないの?」


お嬢様気質が噛みつきの一つでもするとポップは思っていたが違った。ごくごく自然な表情でブランとふれいのことを心配していた。


「あんたまたその黒太郎はないでしょ。ってそうね、私が無神経みたいな感じになっちゃったけど…まともな事言うじゃない。大丈夫なのあんたたち?? 今更遅いかもしれないけど、なんならおぶってあげるけど、活躍に免じて今日だけは」


ポップもコアの言葉に同調し気の利いた台詞を添えた。

ブランとふれいはまたゆっくりと顔を見合わせる。お互いの目を覗き込んで──またポップとコアに向き直った。


「問題ないわ」

「うん、もんだいないよ」


2人の魔法ソード少女はけろっとしている。


「嫉妬する気もおこらないわね…あはは…」

「チッ、とっととイレブンより上にいけ、ふふ」


ポップとコアは思わずその反応に苦笑い──わらい。

今になって共に勝利を分かち合うように。


「イレブンより上…それはわからないけど。マリティーポップあなた、いつもより魔法を撃ちすぎていたようだけど、もうとっくにまりょく0なんじゃない? おかしいわあなた」


「ってよく見てるわね…はいはいありがとちょっと色々左の小指がつったりなんやかんやで私のことはどうで……って今マリティーポッ」


「ダサパーカー静かにしろ!! アレは……なんだ!」


「はぁ?? え、ちょっと何アレ…?」


突然コアが怒りポップの語りをさえぎった。


コアが見上げる先を、ポップふれいブラン皆が見上げてゆく。



曇り空が濁っていく、黒い霧のように広がり。


ふたつの奇怪な…赤子が浮いている。


何が起こっているのかはわからず、しかし──とてつもなく嫌悪感を抱くモノであった。


ふたつ、黒いベールに覆い隠されてゆく。


ひとつは泣き叫び、ひとつは高笑い。



混じり合って────生まれてしまったのだ。





悪が





⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎



⬛︎⬛︎



⬛︎⬛︎





⬛︎



⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎

⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎






「ありがとう、ありがとう、イヤーーな産声をあげ生まれてきてくれてありがとう──再びこの世にこの新しい手でまずは拍手を送ろう。はははお陰で理想以上の完全体だ。今日という特異日を見事天運とともに迎え、イロイロ悪も善もスベテ応援アイしたかいがあったよねええええははははは」



「こっ、こいつ……なんなの」


「くっ、クソ野郎……」


荒れ果てた地に膝着く魔法ソード少女たちを、暗雲に浮かぶ悪は見下ろす。


「いったろ?俺とブラザーフリーズは、ふ・た・ご♡──搾りカスでも俺の与えたチカラを持つ弟には俺への憎悪を掻き立てて、同じく長年じっくり生かさず殺さず水をやり応援アイしてやったってわけ。そしてひとつのやわな母胎からべつべつに育った俺本来のチカラを回収するためにはそれこそ莫大なパワーが必要だったのね、それがお前ら。魔法ソード少女さんっ俺を殺してくれてムカつくが、俺をアイしてくれてありがとねええええええハハハハハハッハッハーーーーーッ!!!!!!」


全身黒いボディに青い氷の精が外へと這い出ようとするように渦巻き巻きつく。兄と弟、ジェミニ…対であったそれらが強引に融合したように見える禍々しい出来栄えに、人のカタチをした黒と青は赤く帯電した両手をたおやかに広げ笑っている。


「冗談…よねぇ…! いくら天才マリティーポップも今日はさっきィお開きのきぶんだったんだけど…ッ」


「傲慢すぎる…神様は馬鹿か、なんでこんなヤツが死んでまた生きている!」


ポップは渋く苦笑う、ニヤリと笑うことはない──本当にこれまでを何段も上回るほどの最悪に見舞われたときは。


コアは顔を顰め見上げ怒る、傲慢な悪人を生き返らすという馬鹿な奇跡を起こしたはた迷惑な神様に対して。



「ネアトイ合体ッ【猫にシンバル】!!!」


たおやかに広げていた余裕の手の元に、灰色の猫が飛び上がり齧り付いた。


玩具のシンバルを思い切り叩き合わせて、爆発音が青黒のジェミニモンスターの至近距離で鳴り轟いた。


しかしピタリと空中に静止する、びくりとも動かない。


それはこの猫騙しの魔法がこの大物に効いたのではない、玩具のシンバルはちょこんと2本の黒と青の指でつままれ────つままれ触れた部分から凍っていった。


「あぁ? 耳掃除か? ハイおつかれ──悪善の王は完全体、ニンゲンのものさしで測るなんてバッカァァ」


慌ててシンバルから手を離した灰猫は、時既に──ジェミニモンスターの空いていた手から放たれた赤い雷の玉をバレーボールのようにサーブされその身に受けてしまった。


猫になった姉が堕ちていくのを妹はとどかない手を伸ばし────地へと赤玉と灰色は到達し轟音が鳴り響いた。



「とはいえしまったなぁ……少し強くなりすぎたか? そうだな──いったんクリアしよう! 君達も世界も裏にいる奴等もこそこそ観てるヤツらもスベテ掃除してみんなゼロからスタートしてみよう!!! ──俺という絶対的悪魔のいる世界でね。ハハハきっとたのしいことになるぞおお!!!」


世界を既に手に入れたかのように自由に思い描き宣う、悪へと──熱源が接近した。


「【ふれいぼむ・えんど】!!!」


衝突し爆発するまりょくを一気に放出した巨大な炎球が咲き誇り、


「────お前、チカラの使い方が下手。ただ単に切ってしょんべん撒き散らして学習しねぇのか? ふーん、──せっかくのいい高レベル武器も宝の持ち腐れ。お前の周りはこそこそこそこそ手を変え品を変え大変だな、当人はオネショも治す気のない馬鹿。だがソレ★お前だけのせいじゃないよなぁー平和でぬくぬく肥えていたお前、どう着飾ってももうダメ。やっぱり必要だな中途半端な出来栄えのお前のようなお人形には俺の作る悪善の王国が、そしてやっぱいらないやお・ま・え★未完成品は壊れろヘンピン!!!」


『赤太郎使え!』


「もうイチゲキ? のがれたか?」


手元に現れたエレガントソードは硬直のジレンマを解消し、振るわれた悪の鎌に衝突。


二度咲き誇った炎球はやがてじわりと黒と青の迸るまりょくに呑まれ塗り替えられた。


二刀で堪えた赤備えが力及ばず空から落下していく。



激しい攻防にまた、虹色を拙くもおさえ己のシルエットに纏い黒セーラーの少女は悪の背中へと飛び出していった。


「おー向かってきたかい。一番強い子だ────でもキミ本物じゃないだろ?」


「!」


「あはははは、分かるんだよ生物としてのレベルが高くなったらふふ俺じゃなくてももう随分気付いているヤツもいると思うよ。お前はちまちまと浅瀬で経験値稼いでる勇者くんみたいなものだって。いや勇者でもないただの戦士くん」


『ただのしょうじょ♡』


限界近く…超えて、スピードを上げた10合以上にもなる高速の打ち合いも──気が付けば背後でささやく悪魔がいる。


ゾワリと感じた死の予感に、反応するも背中をかるく抉られた。


魔法ソード少女の背を切り裂いた悪魔の鎌は、新鮮な赤を滴らせながら……嗤っている。



「以前の俺ならばこの上なく楽しめたと言えたが……そろそろ飽きたな、狭くてくさい母胎から抜け出して新しく受肉したこの完全なカラダはどうも欲張りで困るナァ?? フフッさてさてさっきので搾っちゃったか?これ以上はなさそうだ、よしなら片付けるかァ。そうだ、でもここまで俺の誕生会に付き合ってくれたんだ★今から全力で善滅アイするから、もしかりにかりに生きていたら悪善の国にご招待っっハッピーバースデーアークぅ〜〜〜〜〜〜ッッ!!!!!!」



八岐黒大蛇ヤマタノブラックオロチ



シールド値とまりょくを減らした魔法ソード少女たちへと、


鎌は虚空を次々と斬り裂き、八つ首の黒蛇がひび割れたゲートから現れる。


禍々しく赤雷を纏い伝説の蛇は唸り、数多の雹が天から降りそそぎ荒れる。




「かお姉ちゃん!!!」

「かぐやっ!!! あんたトロいんだから1人で動かない!!!」

「こんなときにすっからかんってクソゲーじゃないの!!!」

「クソ野郎……!!!」

「みんな離れて──私があの魔法をサークルスイッチで集めるッ、……ふれいっ頼める」

「ぶらん? ん、わかった!!!」




割れかけた黒い円盤の元へと八岐黒大蛇は蛇舌を舐めずりつどう。


マリティーブランは盾となり、真田ふれいは迎え討つ秘刀名刀をその前で片手に構えた。


手を繋ぎふたたび合体魔法を試みる……汗がすべる手をしっかりと…………





⬛︎




⬛︎⬛︎︎⬛︎︎









⬛︎⬛︎︎⬛︎︎⬛︎︎⬛︎⬛︎⬛︎︎⬛︎︎




⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎






⬜︎



牙を剥いた────八岐黒大蛇にはちょうど八つ首がない。



ななめに駆け抜けたのは流れ星、願い事もいえないほどにはやく。



八つのクビが白く落とされた。



切り落とされた首は白く焼かれ、やがて切口は膨らみつづけ──爆ぜた。





「トゥ〜〜〜〜ぉハッ!?!? ナ──何がだ!?」







「え────────」


差し迫っていた緊迫に息をし、いつの間にか悪の魔法は失せ救われていた────いま、ブランのまえにいる。



それはめのまえ…強烈な光を宿していて、そんなことはありえなく、わからない。



その白セーラーの背は、

その短く美しい金色の髪は、


爽やかに振り向いて、その輝かしいいつかのエメラルドはおおきくなった少女を見つめ────走った。



駆けたのは流れ星ではない、かぶっていた埃を風にとかした人間だ。



白セーラーは悪へと臆せず向かい剣は操られ振るわれる。


たった1本の普通の剣が巻き起こした超絶速い切り結びに、火花が星となり風にながれ輝く。



「だれだだれだだれだだれだァァァァ俺の善滅魔法アイをヤッてくれたのはお前も魔法ソード少女かァァははは!!!!!!」


激しすぎる剣劇に、悪の鎌は徐々に剣を凍らせ──


ジェミニモンスターはニヤリ口角を引き攣り笑う、幾度も打ち合った剣があっという間に凍え砕けた。


砕け散る剣、

驚くエメラルドの瞳、

死の予感をたくわえた鎌は空を切る。


「足ぃぃぃ!???」


ジェミニモンスターの側頭へと空に逆立ちしながら真横へと伸びたすらり長いしろい足、つぎに驚き顔になっていたのは悪意殺意を込めた鎌を空振り嘲笑うように蹴られた方であった。


「けんけんけんぱっなくすとこまった…ン──? ちょっとかりるよ」


きょろきょろと辺りを探した、エメラルドのこまった瞳は一際引き寄せられるまりょくにひらめいた。


驚くふれいの腰に差さっていた黒い鞘へと刀はひとりでに仕舞われ、そのまま見つめるエメラルドの視線の方へと飛んでいった。



高速回転しながら飛んできた悪意のまりょくを纏った鎌の必殺を、白セーラーはかりた得物を抜刀すると同時に一太刀で弾いた。


「ハァハァ…アリ得ないことを次から次へとッッお前はなんだァァ【八岐黒大蛇】この悪善の王の受肉した二度目の誕生の日に死んでおしえてミロおおおおお!!!」



上に白セーラー、下に青黒ジェミニモンスター。

瞬く間に天と地が入れ替わり、


意図も容易く弾き返されて手元へと戻ってきた鎌で、悪善の王を自称する者はまた空間を出鱈目に斬り裂き魔法を召喚する。



「この感触……ふっ、久しぶりということ かな。あれなんか…色変わった? んー…ってことでよろしく ねッッ!」



魔法ソード少女は柄に刃にまりょくを込める。


その切先からまりょくビームは発射された。


細い切先からは考えられない、太い白い閃光は大蛇の蛇腹を射抜き。

白いビーム斬撃は、魔法を噛み砕かんとする大蛇の口の口端を広げて──真っ二つ。


あり得ないことは普通のこと。

普通の斬撃が普通の魔法が、八岐黒大蛇をあっという間に刻み平らげた。


悪善の王は生まれて初めて流れる冷えて凍っていくその汗粒を拭う間も無く。


「フザケんなッッこの俺は悪善でェェ完全だぞッッ【ジェミニフリーズ】トマレッ凍れッッ訳の分からないッッ!!!!!!」


大魔法に次ぐ大魔法。

融合し手に入れたチカラを矢継ぎ早に放った。

大地にとてつもない怒りを模ったような氷山が突如としてあらわれる。



「やったか……殺ッタかァァァァはは!!!!!!」


その光景にやはり悪は、悪善の王は安堵する。

やはりここまでアイしてこの日ついに実らせた自分こそ完全であるのだと、白いまやかしを打ち払う見事な目の前にできた氷の山に────



「ひゅー……ブランクってこわいね(スカートがちょっと凍っちゃったのはおこられる?)」


「は!?」


背にゾワリ、冷えているのは氷山の冷気ではない。悪の耳にきこえただけの──フツウの女の声。


「久々すぎてあんまり上手くいかないけど、いけるよね? ──【リミットメルト】!!」



悪が振り返り構えたときには、──怒涛の剣撃が鎌を砕いていた。



疾風怒濤の剣風は氷山を砕き坑道をこじ開けながら突き進む、耀かしき強烈な虹色を纏う白セーラーの女はその剣を止めない。



「がァァぁぁぁこのバワーァァこのばやさありえ」




なめらかな剣舞をしながら滑るローファーコンベアは、やがて氷山を抜け、そのまりょくを込めた虹色の靴底で切り刻んだ悪を天へとおもいっきり蹴飛ばした。


蹴飛ばされた悪はわからない、ソレを見たことがない。


幾度も宙を舞い、宙を舞う敵を四方八方から縦横無尽に光の刀は斬りつけた。



「ソコで見ているだけじゃ恥ずかしいからさ、──またはじめてみることにしたよ」




【はぎんぐ enjel fezar】





「魔法ソード少女、のマリティーとして」




おおきな天使の白羽は滅多斬りにした悪を包みこみ、白く神々しく縛りつけ唸り続け、やがてまたその大翼を大空へと勇ましくひろげた。




6人の魔法ソード少女たちはマリティーブランは見上げる、────そして同じ目線にイマ見つめる。



ひらかれた魔法にスベテ白く爆ぜる、暗雲を塗り替えていくのは



強烈な光。



金色の髪ゆらす白セーラー、エメラルドの瞳は悪に振り返らず微笑う。


運命を共にした白蜜、今は黒い鞘に秘刀名刀は仕舞われ。



伝説の魔法ソード少女、マリティーはふたたび地へと────舞い降りた。





第2章 伝説の魔法ソード少女編(終)

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魔法†少女ド屑オンライン 山下敬雄 @takaomoheji

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