第2話
3年生になって、修学旅行が近付いて来たある日、私と香苗はK君に呼び出された。
「今度の修学旅行で、『ブツ』のやり取りがあると見られます。場所は、下関。関門海峡です」
関門海峡では関門橋を見るために、一度皆バスから降りる。なるほど、その時に動きがあるのか。
「その時に、ターゲットを見張っておいて下さい」
「ターゲットって?」
「
「え?」
中島さんは、うちのクラスの女子。そして、黒川さんは、香苗のクラスの女子だった。
「女子ですか……?」
「ええ。だから、僕たち男子組は、介入できない場所もあります。例えば、トイレや風呂など」
なるほど、と思った。だから、わざわざ女子にしたのかもしれない。
「私達がK君の仕事に協力することは?」
「僕たちは知っていますが、向こうの組織は知らない」
「それと……
「はい」
浜野は、私のことだ。
「浜野さんのバスの添乗員は、向こうの組織の奴です。中島さんとコンタクトを取ろうとするでしょう」
「添乗員さんが?」
「もし、添乗員に怪しい動きがあれば言って下さい」
「わかりました」
こうして、任務だらけの修学旅行が始まった。
私は、とにかく添乗員を
「大丈夫ですか? バスに酔いましたか?」
大丈夫だ、問題ない。バレてない。
「いえ、大丈夫です。どうも」
適当に誤魔化した。
関門海峡では、ずっと中島さんについて歩いていた。トイレに入るタイミングも同じだ。黒川さんについていく香苗と途中ですれ違って、表情を変えることなく、
向こうの方に白バイ隊員が停まっている。K君は、軽く敬礼をした。白バイ隊員も軽く敬礼をする。やはりここで取引があるのを見張っているのだろう。私は確信した。(もしかしたら、誰が敬礼しても敬礼し返してもらえたかも知れないなんて疑いもしない)
その夜、ロビーに、仲間たちが集まった。なんと他に中川君も加わっていた。気付かなかった。私達は、ロビーで記念写真をとった。
「浜野さん、水谷さん、ありがとうございます。あなた達が見張っておいて下さったおかげで、関門海峡での取引は阻止されました」
K君が言う。
「しかし、寝ている間も油断はできません」
「あ、あたし、黒川さんと同じ部屋だわ」
香苗が言う。
「あ、私は、中島さん、隣の部屋なんだけど……」
「なるべく壁際で寝るようにして下さい」
「わかりました」
夜は眠れなかった。友達が恋バナをしている中、私は寝たふりをして、壁に張り付いていた。壁の向こうでは怪談でもしているのか、時々「キャー!」「やめてー!」などと言う声が微かに聞こえていた。
翌朝は睡眠不足でフラフラだった。バスの中で寝てしまった。ふと気付くと、添乗員の姿がない。
「しまった!!」
添乗員を探す。
「ねえ、添乗員さんは?」
隣の子に聞くと、彼女は外に並走する白い車を指差した。
「あっち。カメラマンさんと乗ってるみたいよ。変な添乗員だよね」
カメラマンも仲間だったのか?!
私は次のトイレ休憩場所で、K君に報告した。
「そうですか。では、僕たちは添乗員とカメラマンを見張ります。浜野さんは、引き続き中島さんをお願いします」
「はい」
「恐らく、次は、太宰府天満宮だと思います」
「わかりました」
私達は、K君の言う通り、それぞれのターゲットを見張った。
何も起こらなかった。
とりあえず太宰府天満宮のお守りと鉛筆はゲットした。
その日の夜。
あろうことか、私は爆睡してしまった。
隣の部屋を張れなかったのだ。
翌朝。
にこやかに、K君が、話しかけてきた。
「ありがとうございました。お陰で、組織の一員を捕まえることができました」
「すみません。私、昨日の夜は眠ってしまって……」
「いえ、大丈夫でしたよ……うっ……」
K君は自分の肩を押さえる。
「ど、どうしました?」
「大丈夫です。少し撃たれただけです」
「えっ? 病院には?」
「応急処置はしてあります。今日、帰ったら警察病院へ行きます」
「そうですか」
任務を完了した私は、帰りのバスで爆睡した。後で考えれば、この時も同じ添乗員が乗っていた。あれは良かったんだろうか?
こうして、中島さんと添乗員さん以外、殆ど何も見ていない修学旅行が終わった。
内野君と松田君が哀れんでくれたらしい。
「あれ、真に受けてたの?」
そう言って、山ほど熊本城の写真をくれたのだった。
これはもしかして、国家機密かもしれない。
中学生の時の修学旅行の写真を見ながら思う。ホテルのロビーでのK君を囲む記念写真と、内野君と松田君にもらった山ほどの熊本城の写真しかないが。
こんなことを、ここで話してしまったら、私は明日にはここには来られないかもしれない。
私のアカウントが全て消されていたら、そういうことだと思ってほしい。
(笑)。
秘密組織と戦うK君 緋雪 @hiyuki0714
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
義母様伝説/緋雪
★58 エッセイ・ノンフィクション 連載中 12話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます